【解体ニュース解説】金沢市の解体現場で転落死 資格なし重機操縦で書類送検

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稲垣 瑞稀

この記事の案内人・編集長

稲垣 瑞稀

解体業界で6年間働く中で感じた『正しい情報が届かない』というもどかしさから、全記事の企画・編集に責任を持っています。専門家への直接取材を通じ、業界経験者として分かりやすい情報提供をお約束します。

この記事でわかること
  • ニュースになった解体現場の死亡事故の詳しい内容
  • なぜ「無資格の重機操縦」のような危険な行為が起きてしまうのか、その業界背景
  • 工事で事故が起きた場合に、依頼主に及ぶ具体的なリスク
  • 危険な解体業者を回避するための注意点

この記事では、金沢市で起きた死亡労災事故のニュースを元に、なぜこのような事故が起きるのか、そして依頼主として自分の身を守るために何をすべきかを、専門家の視点から解説します。

目次

ニュースの概要

  • 発生場所:石川県金沢市
  • 報道日: 2025年12月4日
  • 内容:解体工事現場で50代男性がトラックから転落し死亡した労災事故。法律で決められた資格を持っていないにも関わらず重機を操縦したとして、白山市の建設会社と金沢市の60歳の男性を労働安全衛生法違反の疑いで書類送検した。

金沢労働基準監督署によりますと、白山市の建設会社は今年3月、金沢市内の木造家屋の解体工事現場で、法律で定められた資格を持っていないにも関わらず、別の会社から派遣されてきた60歳の男性に解体用のつかみ機を操縦させた疑いが持たれています。

現場では、つかみ機を使って廃材をダンプカーに積み込む作業をしていたところ、ダンプカーの上にいた55歳の男性が転落し死亡しました。

引用:解体現場で男性転落死 資格ないまま重機を操縦した疑いで建設会社などが書類送検|MRO北陸放送

2025年3月、石川県金沢市の解体工事現場で、50代の男性作業員がトラックの荷台から転落し、死亡するという痛ましい労働災害が発生しました。

この事故を受け、金沢労働基準監督署は12月4日、労働安全衛生法違反の疑いで、元請けである白山市の建設会社と、下請けの金沢市の解体業者、およびそれぞれの現場責任者らを書類送検しました。

捜査によると事故当時、現場では資格がないにもかかわらず重機が操縦されていた疑いが持たれています。法律で定められた資格を持たない者に危険な重機操縦をさせたこと、そして作業計画の策定や指揮者の配置といった、労働者の危険を防止するために必要な措置を怠ったことが、今回の書類送検につながりました。

死亡事故の原因は「無資格の重機操縦」と「昇降設備の不備

当初は降雪や凍結によるスリップが原因の転落事故と見られていましたが、その後の捜査により以下の重大な法令違反が発覚。事業主らが労働安全衛生法違反の容疑で書類送検される事態となりました。

  1. 無資格での重機操縦: 被害者と一緒に作業していた従業員は、車両系建設機械運転技能講習のうち「解体用」資格を持たずに重機を操作していた。
  2. 昇降設備の不備: 2023年の法改正で義務化された「昇降設備(ステップ)」が設置されていなかった。
  3. 保護帽の未着用: 墜落時保護用のヘルメットが着用されていなかった。

画像引用:トラックでの荷役作業時における安全対策が強化されます。|厚生労働省

(昇降設備)
第百五十一条の六十七 事業者は、最大積載量が二トン以上の貨物自動車に荷を積む作業(ロープ掛けの作業及びシート掛けの作業を含む。)又は最大積載量が二トン以上の貨物自動車から荷を卸す作業(ロープ解きの作業及びシート外しの作業を含む。)を行うときは、墜落による労働者の危険を防止するため、当該作業に従事する労働者が床面と荷台との間及び床面と荷台上の荷の上面との間を安全に昇降するための設備を設けなければならない。

引用:労働安全衛生規則|e-Gov 法令検索
運営者 稲垣

この事故は単なる不注意ではなく、管理会社や現場作業員の、日頃の安全管理やコンプライアンスに対する意識の低さが招いたものと言えます。

安全管理への意識不足

平成22-26年に発生した解体工事における死亡災害件数のグラフ

画像引用:建築物の解体工事における死亡災害の調査|労働者健康安全機構

なぜ会社は事故が起きるリスクがありながら「無資格」の人員を配置していたのでしょう。ここでは解体業界全体の問題から見た、安全管理体制の問題について解説します。

深刻な人手不足とコスト削減の圧力

建設業界全体で職人の高齢化と若手入職者の減少が進んでおり、とくに専門的な資格を持つ重機の操縦者は貴重な存在です。優良な業者は有資格者を安定的に確保し、適切な賃金を支払っていますが、一部の資金力のない小規模事業者などは、有資格者を確保できずに無資格者に作業をさせてしまう場合があります。また、「少しでもコストを下げて受注したい」というプレッシャーから、人件費の安い無資格者を意図的に使う悪質なケースも存在します。

業界に根強く残るコンプライアンス意識の欠如

「これくらいの作業なら資格がなくても大丈夫だろう」「今までもこうやってきたから問題ない」といった、安全軽視の風潮が一部にあることは否定できません。とくに、元請けから厳しい工期や予算を提示された下請け業者が、無理な要求に応えるために安全手順を省略してしまうという構図は、解体業にとどまらず建設業界の長年の課題です。

解体業界の問題点

  • 重層下請け構造の問題:ニュースでは元請けと下請けの2社が送検されていますが、この背景には建設業界特有の複雑な下請け構造があります。元請けからの厳しい工期・予算のプレッシャーが、末端の下請け業者に無理な安全コストの削減や違法行為を強いる温床となっている可能性もあります。問題の本質は、個々の企業の意識だけでなく、業界全体の構造にあるのかもしれません。
  • 労働者自身の安全意識:事業主の責任はもちろん重大ですが、作業員自身の「自分は経験豊富だから大丈夫」という過信や、危険な作業指示を断れない現場の力関係も事故の一因となり得ます。事業者と労働者の両面からの継続的な安全教育が不可欠です。
運営者 稲垣

近年、アスベスト規制の強化(2022年4月〜)など、解体業界に対する社会の目や法規制は年々厳しくなっています。今回の事件はこうしたコンプライアンス強化の流れに逆行するものであり、業界全体の信頼を損ないかねません。また同時に、下請け業者が起こした事故であっても元請け企業の管理責任が厳しく問われることを改めて示した事例でもあります。

解体業者の事故による依頼主への影響

直接的な影響

  • 工事の即時中断と延期:死亡事故などの重大災害が発生した場合、労働基準監督署による現場検証や調査が完了するまで、工事は即時ストップします。再開の目処は立たず、その後の新築計画や土地の売却予定など、あなたの解体工事やその後の予定に遅れが生じます。
  • 追加費用の発生:工事中断期間中の仮設費用の維持費の発生や、契約した業者が営業停止処分になった場合は別の業者に依頼し直す必要があり、それに伴う追加費用が発生する可能性があります。
  • 精神的負担:警察や労働基準監督署から事情聴取を受ける可能性があります。また、近隣住民への説明やお詫びなど、依頼主として対応に追われ、精神的ストレスを抱えることになります。

間接的なリスク

  • 安全配慮義務違反のリスク:基本的に労災事故の責任は雇用主である解体業者が負いますが、例外もあります。たとえば、依頼主が相場より著しく低い価格で契約し、業者が違法行為(無資格運転など)を行うことを予見できた、あるいは黙認していたと判断された場合、「安全配慮義務違反」にふれてしまう可能性もゼロではありません。「安すぎる」ことには、こうした法的リスクも潜んでいるのです。

(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

引用:労働契約法 |e-Gov 法令検索
  • 資産価値への影響:事故現場となった土地は、法的な意味での「事故物件」には該当しないケースが多いですが、「あそこで死亡事故があった」という情報は近隣に知れ渡ります。将来、その土地を売却しようとする際に「心理的瑕疵(しんりてきかし)」と見なされ、買い手が見つかりにくくなったり、売却価格が下がったりする可能性があります。
運営者 稲垣

このように、業者の安全管理の不備は、巡りめぐって依頼主自身の経済的・精神的な損失につながってしまう可能性があります。

解体業者を選ぶ際の注意点

ここまでの解説を踏まえ、あなたが安全な解体を選ぶための注意点をまとめました。

1.業者選びで「資格」と「保険」を確認する
見積もりを依頼する際、以下の書類の提示を求めてください。快く提示できない業者は、その時点で依頼を見送るのが無難でしょう。

  • 建設業許可証(解体工事業)または解体工事業の登録証:解体工事を行うための必須の許可証です。

以下は必須ではないですがあると安心な証明書です。

  • 産業廃棄物収集運搬業許可証:解体で出た廃棄物を運搬するための許可証です。
  • 各種保険の加入証明:労災保険はもちろん、第三者への損害を補償する「賠償責任保険」に加入しているか、証券のコピーを見せてもらいましょう。
  • (可能であれば)作業員の資格証:「当日の重機オペレーターの方の資格証(車両系建設機械運転技能講習修了証など)のコピーをいただけますか?」と確認してみましょう。誠実な業者であれば対応してくれるはずです。

2.見積書で「安全」への姿勢を見抜く
複数の業者から見積もりを取り、価格だけでなく内容を精査しましょう。

  • 「仮設養生費」や「安全管理費」などの項目があるか:「解体費用一式」としか書かれていない見積もりは内容が不透明で危険です。安全対策にどのような費用を見込んでいるか、具体的に質問してみましょう。
  • 極端に安い見積もりは疑う: 相場より著しく安い見積もりは、無資格者を使うなどして人件費を削っていたり、安全対策を怠っていたりする可能性があります。

3.契約前に「安全管理体制」について質問する
「工事中の安全管理は、具体的にどのように行われますか?」と直接質問してください。優良業者であれば、「毎朝のKY(危険予知)活動の実施」「作業計画書の作成と周知徹底」「有資格者による作業指揮」など、具体的な取り組みを説明してくれるはずです。曖昧な返答しかできない業者には注意しましょう。

まとめ:金沢市解体現場での転落死ニュースについて

今回のニュースは、解体工事における安全管理の重要性を改めて私たちに突きつけるものです。最後に、この記事の要点をまとめます。

  • 解体現場の死亡事故は、業者の無資格運転や安全意識の低さといった、コンプライアンス違反が原因で発生する。
  • 万が一事故が起きれば、工事は中断し、依頼主にも追加費用や精神的負担といった深刻な影響が及ぶリスクがある。
  • 業者選びでは、価格の安さだけで判断せず、資格・許認可、保険の加入状況、具体的な安全管理体制を契約前に確認することが重要。
  • 「安すぎる見積もり」は、安全コストを削っている危険なサインかもしれないので注意が必要。

解体工事は、あなたの未来へつながる大事な工事です。そして、それは多くの人の手によって行われる、危険と隣り合わせの作業でもあります。だからこそ安全で安心な工事を実現してくれる業者を選びましょう。

なお、スッキリ解体では「解体業者の選び方」についてより詳しく解説した記事もございます。よかったらあわせてご覧ください。

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この記事を書いた人

「一個人の責任と情熱で、本当に役立つ情報を発信したい。」

『スッキリ解体』運営責任者。解体業界で6年間働く中で感じた『正しい情報が届かない』という現状を変えるため、全記事の企画・編集に携わり、責任を持って情報発信を行う。

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