この記事の案内人・編集長
稲垣 瑞稀
- どうして銅やアルミが解体現場から盗まれるのか?
- 今回の事例ではどのような手段で盗難が行われたのか?
本記事では、北海道北竜町で解体現場から銅線などが盗まれた事件をもとに、なぜ銅線やアルミを狙った犯行が行われたのかを専門家の目線から解説します。
ニュースの概要
- 発生場所:北海道北竜町
- 報道日: 2025年12月11日
- 内容:解体工事現場からアルミサッシや銅線などの金属資材が盗まれる
警察によりますと、波賀野容疑者は10月1日午後3時半ごろから4時半ごろまでの間に、北竜町の2か所の解体工事現場から、アルミサッシ約50キログラム、銅線約14キログラム、アルミサッシの玄関ドア約10キログラム(時価合計1万3900円相当)を盗んだ疑いが持たれています。
引用:解体工事現場からアルミサッシや銅線を…被害者が事情を説明する中で浮上“一人親方”の50歳男を逮捕「盗んでいません」と容疑否認 北海道北竜町|HBC北海道放送
2025年10月、北海道北竜町の解体工事現場において、アルミサッシや銅線など時価合計1万3,000円相当の金属資材が盗まれる事件が発生しました。
警察は、被害者である工事関係者からの事情聴取を進める中で捜査線上に浮上した、旭川市在住で一人親方として働く50歳の男を窃盗の容疑で逮捕しました。男は容疑を否認しているとのことです。
どうしてアルミサッシと銅線が盗まれたのか?
解体現場や空き家から銅線やアルミが盗まれるケースは少なくありません。解体現場ではどうしてこれらが狙われるのでしょうか。
運営者 稲垣今回のケースでは「高額な銅」で利益を確保し、「持ち出しやすいアルミ」で積載量を稼ぐという、効率的な手口を採用したと考えられます。
銅線:少量で高収益が見込める
2025年12月現在、銅は状態によってキロ単価1,700円前後という高値をつけています。解体現場でゴミとして排出されることが多いため、収益性の高い銅線は狙われやすいと言えます。
- 収益性: ピカ線と呼ばれる銅線になると10kg(米袋程度)で約1万7,000円になり、数百キロ分あれば一度で数十万円以上の現金になります。
- 付加価値: 建設業者の知識を生かし、被覆を剥いて純度を高める加工を行えば、さらに高値で売却可能です。
| 品目 | 仕様・条件 | 税込買取価格 (円/kg) |
|---|---|---|
| 光特号銅線(ピカ線) | 径1.3mm以上、被覆除去済み、劣化なし | 1,700円 |
| 光特号銅線(ピカ線) | 径1.3mm以上、被覆除去済み、劣化なし | 1,670円 |
| 並銅・込銅 | 一般的な銅管・銅板など | 1,630円 |
| 被覆線(雑線) | 銅率80%(被覆付き) | 1,230円 |
| 被覆線(中品) | 銅率65% | 790円 |
アルミサッシ:短時間で大量に確保できる
アルミの単価は銅の約10分の1(キロ160円程度)で収益性は銅より劣りますが、解体現場においては「より大量に」入手できる利点があります。
- 入手の簡単さ: 解体現場では窓枠などが屋外に山積みにされていることが多く、建物内から引き抜く必要のある銅線に比べて短時間で積み込めます。
- 証拠隠滅が可能: リサイクル処理でプレス(圧縮)されると元の形状が分からなくなるため、盗品としての足がつきにくい特徴があります。
| 品目 | 仕様・条件 | 税込買取価格 (円/kg) |
|---|---|---|
| アルミサッシ | ビス・網等の付着物なし(推定) | 160円 |
| アルミホイール | タイヤなし | 270円 |
| ガラアルミ | 不純物あり・解体発生品 | 90円 |
| ステンレス | 一般 | 120円 |
| 込真鍮 | 水栓金具など | 990円 |
推測される犯行の手口
運営者 稲垣今回は建設業者の立場を悪用し、「正規の作業員」を装って犯行に及ぶ「インサイダー型」の手口だと考えられます。
逮捕された人物が一人親方であり、事情説明中に浮上した経緯から以下の3点の手口が推測されます。
1. 内部情報の悪用(タイミングの把握)
現場の工程を把握しているため、いつ壁の中から銅線が露出するか、いつ警備が手薄になるかを知っています。最も効率よく盗める日時をピンポイントで狙った可能性が高いです。
2. 作業員への偽装(カモフラージュ)
作業着を着て業務用の車両で乗り付ければ、近隣住民からは「仕事に来た業者」に見えます。
- 侵入: 怪しまれることなく敷地内に立ち入れます。
- 実行: 所持している専用の電動工具(カッターやサンダー)を使用し、素早く資材を切断・搬出できます。
3. 換金時の身分偽装
盗んだ資材を買取店に持ち込む際、「自分の現場から出た廃材を処分しに来た」と説明したと考えられます。
- 個人の建設業者(一人親方)としての身分証を提示することで業者を信用させ、正規の取引として処理させます。
- これは逮捕後の「盗んでいない(自分の現場のゴミを処分しただけ)」という言い逃れの口実作りにも利用されます。
もし解体現場で盗難が起きたら
工事の依頼主にとって直接的な影響は、費用の増加と工期の遅延です。盗まれた資材を再度調達するための費用や、それを取り付けるための追加の人件費が発生します。もし、契約書に「天災や盗難など不可抗力による損害は施主の負担とする」といった旨の記載があった場合、これらの追加費用はすべて施主が支払わなければならない可能性があります。
さらに、資材の再発注や警察による現場検証などが入れば工事はストップします。工期が延びれば、仮住まいの家賃やローンの支払い計画にも狂いが生じ、金銭的な負担が増えていきます。
運営者 稲垣盗難などの不法行為リスクを避けるためには、悪徳業者への依頼を避けるためのポイントを押さえる必要があります。スッキリ解体では優良な業者の選び方を網羅的に解説していますので、以下の記事もご確認ください。

まとめ
このような事件の根底にある意識は、現場にあるものを「お金になる価値あるもの」だと認識していないことです。解体現場から出る金属はただのゴミではなく、売れば利益になる資産です。しかし現場ではガラクタ扱いされ、管理がずさんになってしまうことがあります。
業者も依頼主も、「現場にあるものはすべて大切な財産だ」という意識を持つことが、防犯の第一歩です。
また、万が一盗まれた時に誰がどう責任を取るのかを契約書にはっきり書いておくことも、解体工事契約のスタンダードになっていくと考えられます。
