この記事の案内人・編集長
稲垣 瑞稀
- 和歌山市で発生したショベルカー積載中の死亡事故の概要
- 事故原因となった危険な積載方法の実態と問題点
- 事故発生時に建設会社・元請けが負う刑事・行政・民事責任
- 施主が直接の責任を問われなくても受ける具体的な影響
この記事では、和歌山市で発生したショベルカー積載中の死亡事故を題材に、事故の概要や原因、解体業界が直面する課題や施主への影響までを分かりやすく解説します。
ニュースの概要
- 発生場所:和歌山県和歌山市杭ノ瀬
- 報道日:2025年12月13日
- 対象:和歌山市杭ノ瀬のアパート解体現場
- 事案:和歌山市でショベルカー積載中に横転し作業員が死亡した事故で、スロープを使わずアームで車体を持ち上げる危険な手法がとられていたことが判明した。荷台上で旋回時にバランスを崩したとみられる。業界では危険な方法とされ、過去にも同様の事故が繰り返されていた。
和歌山市のアパート解体現場で11月下旬、トラックに積み込もうとしたショベルカーが横転し、下敷きになった作業員が死亡した。安全を確保するため、積み込みはスロープを使うことが一般的だが、今回は業界などで危険とみなされる方法が採られていたことが、県警への取材でわかった。
事故の原因は危険な積載方法
今回の事故の原因
今回の事故の原因は、道板(スロープ)を使わず、ショベルカーのアームの力を使って無理やりトラックに登る危険な手抜き作業にあります。
具体的には以下の手順でバランスを崩しました。
- 不安定な足場: アームをトラックの荷台に押し付け、テコの原理で車体を持ち上げ、キャタピラの前半分だけを荷台に乗せた。
- 致命的な旋回: その不安定な状態(斜めになり、接地面積が少ない状態)で、運転席とアームを180度回転させようとした。
- 転倒: 回転によって重心が大きく移動し、バランスを崩して横転。近くにいた誘導員が下敷きになった。

この方法は、道板を設置する手間が省けるため一部の現場で行われることがありますが、記事にある通り「普通の現場ではやらない危険な方法」であり、業界では禁止されています。
本来の正しい積載方法は、「荷台が傾いてスロープ状になる専用のトラックを使用する」か「アルミ製や鉄製の頑丈な「道板」を荷台と地面の間に架けてスロープを作る」です。
運営者 稲垣いずれの方法であっても、「誘導員は転倒しても巻き込まれない安全な位置に立つ」ことが絶対条件です。今回のようにアームが届く範囲に人がいたこと自体も、重大な安全管理違反となります。
危険な積載方法で作業する理由
なぜ、このような危険な方法が横行するのでしょうか。理由は主に3つ考えられます。
- 時間と手間の削減: 道板は重く、設置や撤去に手間と時間がかかります。とくに狭小地の現場では、道板を設置するスペースがない場合もあります。作業量を抑えて時間短縮を優先した結果と言えます。
- コスト削減: 道板を運搬するためのトラックのスペースや燃料費を惜しむ、あるいはそもそも道板を所有していない小規模事業者が存在します。安全対策に必要なコストを徹底的に削ることで、安価な見積もりを提示しているケースです。
- 慣れと過信: 作業員の「昔からこうやっている」「自分はベテランだから大丈夫」といった常習化が原因です。過去に事故が起きなかったため、それが危険な行為であるという認識が薄れてしまいます。
建設会社・当事者の法的責任
今回のような死亡事故において、建設会社や当事者が負う法的責任について、具体的な法律条文を交えて解説します。単なる不注意ではなく、スロープを使用しないという「意図的な安全措置の欠落」があった場合、以下のように刑事・行政・民事の3つの側面から責任を追及されます。
刑事責任(警察・検察による処罰)
警察の捜査では、刑法第211条の「業務上過失致死傷罪」が適用される可能性を中心に検討されます。
対象となるのは、重機を操作していた運転手に限らず、現場監督や職長など、現場全体の管理に関わる立場の関係者も含まれます。
仮に「スロープを使わない作業」が日常的に行われていたと認定された場合には、安全管理上の配慮が十分であったかどうかが問われ、結果として刑事責任が判断されることになります。
(業務上過失致死傷等)
第二百十一条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
また、労働安全衛生法第122条には「両罰規定」が定められています。これにより、実行行為者である個人(運転手や監督)が処罰されるだけでなく、法人としての会社も書類送検の対象となり、刑事罰を受けることになります。
第百二十二条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第百十六条、第百十七条、第百十九条又は第百二十条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。
行政責任(監督官庁による処分)
行政機関である労働基準監督署や都道府県からは、事案の内容に応じて、事業の継続に影響を及ぼす可能性のある行政上の対応が検討されます。
具体的には、道板(スロープ)を使用しなかった点や、誘導員を危険が想定される位置に配置していた点について、労働安全衛生法第20条および労働安全衛生規則第151条の6(車両系建設機械の転倒防止措置等)により、安全対策が十分であったかどうかが確認されることになります。
第四章 労働者の危険又は健康障害を防止するための措置
(事業者の講ずべき措置等)
第二十条 事業者は、次の危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。
一 機械、器具その他の設備(以下「機械等」という。)による危険
二 爆発性の物、発火性の物、引火性の物等による危険
三 電気、熱その他のエネルギーによる危険
(点検)
第百五十一条 事業者は、産業用ロボツトの可動範囲内において当該産業用ロボツトについて教示等(産業用ロボツトの駆動源を遮断して行うものを除く。)の作業を行うときは、その作業を開始する前に、次の事項について点検し、異常を認めたときは、直ちに補修その他必要な措置を講じなければならない。
さらに、こうした重大な労働災害を起こした場合、建設業法第28条に基づき、国土交通大臣や都道府県知事から「指示処分」や、期間を定めた「営業停止処分」を命じられるリスクがあります。また公共工事においては各自治体の「指名停止等措置要領」に基づき、一定期間入札に参加できなくなる「指名停止処分」を受けることになり、会社の経営に大きな影響を及ぼします。
(指示及び営業の停止)
第二十八条 国土交通大臣又は都道府県知事は、その許可を受けた建設業者が次の各号のいずれかに該当する場合又はこの法律の規定(第十九条の三第一項、第十九条の四、第二十四条の三第一項、第二十四条の四、第二十四条の五並びに第二十四条の六第三項及び第四項を除き、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(平成十二年法律第百二十七号。以下「入札契約適正化法」という。)第十五条第一項の規定により読み替えて適用される第二十四条の八第一項、第二項及び第四項を含む。第四項において同じ。)、入札契約適正化法第十五条第二項若しくは第三項の規定若しくは特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律(平成十九年法律第六十六号。以下この条において「履行確保法」という。)第三条第六項、第四条第一項、第七条第二項、第八条第一項若しくは第二項若しくは第十条第一項の規定に違反した場合においては、当該建設業者に対して、必要な指示をすることができる。特定建設業者が第四十一条第二項又は第三項の規定による勧告に従わない場合において必要があると認めるときも、同様とする。
民事責任(遺族への損害賠償)
会社は遺族に対して、金銭による償いをする義務を負います。
根拠となるのは、民法第709条の「不法行為」および第715条の「使用者責任」です。これにより、加害者個人の責任だけでなく、会社も「従業員が業務中に他人に与えた損害」を賠償する責任を負います。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(使用者等の責任)
第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
加えて、会社と労働者の間には労働契約法第5条で定められた「安全配慮義務」が存在します。会社は労働者が安全に働ける環境を整える義務があるにもかかわらず、危険な作業方法で事故を招いたためこの義務違反が検討されます。結果として、逸失利益(被害者が生きていれば稼げたはずの収入)や慰謝料を含め、数千万円から億単位の損害賠償金を支払う法的義務が発生します。
(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
運営者 稲垣本事故は個人ミスではなく、安全よりコストを優先してしまった結果と言えます。今後は元請け会社の責任が厳格化し、安全重視の優良業者と危険業者の二極化が進むでしょう。
なお、優良な解体業者の選び方について以下の記事にて詳しく解説していますので、あわせてお読みください。

施主(工事を依頼した人)への影響
一般的に、施主が「スロープを使わずにやれ」などと具体的な危険作業を指示していない限り、施主が刑事責任や賠償責任を問われることはありません。
しかし、施主にとって以下のような形で影響が出る場合があります。
工事の中断と遅延
死亡事故が起きると警察と労基署による現場検証が行われるため、工事は即座に中止となります。工事が再開されるまで、数週間〜1ヶ月以上かかる可能性があります。
その結果、解体後の土地売却や新築の着工などがスケジュール通りにいかなくなってしまいます。
「事故物件(心理的瑕疵)」扱いによる資産価値の下落
解体中の死亡事故であっても、その土地で人が亡くなったという事実は不動産取引における「告知義務事項(心理的瑕疵)」に該当する可能性があります。
土地を売却する際、買い手に対して「解体工事中に死亡事故がありました」と説明する必要があり、相場よりも価格を下げないと売れない、あるいは買い手がつかないという事態になりかねません。
近隣住民とのトラブル
「作業員が亡くなった現場」として近隣から忌避されたり、事故直後の警察車両やマスコミの殺到により近所に迷惑がかかったりすることでその後の近所付き合いや新築工事に悪影響が出ることがあります。
場合によっては、お祓いなどの対応を迫られることもあります。
まとめ
今回は、和歌山市で発生したショベルカー積載中の死亡事故について、その原因と業界が抱える問題点、関係者への影響を解説しました。今回の事故は、危険な手抜き作業がどれほど重大な結果を招くかがポイントです。最後に、この記事の要点をまとめます。
- 事故の本質:事故の原因は禁止されている危険作業だったため、個人のミスではなく安全軽視の現場体質が招いた必然的事故。
- 業者の責任:刑事・行政・民事の各責任が問われ、会社存続を揺るがす影響につながる。
- 施主への影響:法的責任はなくても、工期遅延や資産価値低下、近隣トラブルなど現実的な不利益を受ける可能性がある。
