この記事の案内人・編集長
稲垣 瑞稀
- 旧十和田湖グランドホテルの解体が強制執行により開始されたニュースの詳細がわかる。
- 十和田湖の廃ホテルが、なぜ10年以上も放置されたのか、その背景がわかる。
- 「強制執行」と「行政代執行」の違いがわかる。
- 十和田八幡平国立公園「休屋地区」の今後の展望がわかる。
この記事では、「旧十和田湖グランドホテルの強制執行解体ニュース」を深堀り、なぜ解体までに10年かかったのか、ニュースの背景や今後の展望を予測するとともに、「強制執行」と「行政代執行」の違いなどを専門家の視点で解説します。
ニュースの概要
- 報道日:2026年1月15日
- 発生場所:青森県十和田八幡平国立公園の十和田湖畔
- 対象:旧十和田湖グランドホテル
- 事案:十和田八幡平国立公園の特別保護地区である十和田湖畔・休屋地区で、長年放置されていた「旧十和田湖グランドホテル」の強制執行による解体撤去工事が始まりました。
十和田八幡平国立公園の十和田湖畔に長年残されていた廃屋ホテルの解体撤去工事が、本格的に始まりました。
「強制執行を実施いたします」
解体されるのは、休屋地区にある旧十和田湖グランドホテルです。
少なくとも2017年以降の営業実態がなく、国有地の使用許可が切れた後も建物が残り、不法占拠の状態となっていました。
今回の撤去は、青森地方裁判所の強制執行によるもので、環境省が執行官の補助として工事を進めます。工事費はおよそ7億2600万円です。
きょうは、テレビや冷蔵庫といった備品の分別作業が行われ、今年の秋以降から重機による本格的な解体が始まる予定です。
十和田湖周辺には廃屋が30件ほどあり、休屋地区では11件目の解体となります。
引用:旧十和田湖グランドホテル解体始まる 休屋地区では計11施設を解体撤去|ABA青森朝日放送
2026年1月15日、十和田八幡平国立公園の特別保護地区である十和田湖畔・休屋地区で、長年放置されていた「旧十和田湖グランドホテル」の本格的な解体撤去工事が始まりました。この建物は、所有者の経営破綻などにより10年以上にわたって放置され、景観を著しく損なうだけでなく倒壊の危険性も指摘されていました。
解体される「旧十和田湖グランドホテル」について

画像引用:新施設誘致へ旧グランドH解体着手/十和田湖|経済・産業,行政・政治|東奥日報社
創業と歩み
1960年(昭和35年)に青森県十和田市の十和田湖畔で開業した「十和田湖グランドホテル」。地上7階建ての本館をはじめ、4つの棟からなるエリア最大級の宿泊施設で、全盛期には700名以上を収容しました。十和田湖観光のシンボル的な存在として、長年にわたり地域の観光振興と経済を牽引してきました。
閉館の経緯
建物の老朽化に伴う維持管理コストの増大に加え、東日本大震災の影響による観光客の減少が追い打ちとなり、2015年5月に惜しまれながら閉館しました。
廃墟化による諸問題
閉館後、建物は放置され、現在は窓ガラスの破損や外壁の剥離、内部の崩壊が進む「巨大な廃墟」と化しています。十和田八幡平国立公園内という重要な景観を損ねているだけでなく、建物の崩落リスクや不法侵入といった防犯面での懸念も深刻な課題となっています。
2015年の廃業から10年も放置された理由
1960年代からの団体旅行ブームを支えた巨大施設である「旧十和田湖グランドホテル」。2015年の閉館から解体着工まで、なぜ10年もの時間が必要だったのでしょうか。そこには、地方観光地が直面する「所有者不在」という問題がありました。
1. 所有権の移転と企業の破綻
閉館直後、ホテルは沖縄の観光会社「南風見観光」に売却されました。当初はリニューアルが期待されていましたが、同社グループの経営が悪化。再開発は一度も行われないまま、建物は急速に老朽化していきました。
2. 「所有者不在」の問題
2020年以降、所有企業が破産や解散の手続きに入り、法的な代表者が不在となりました。行政が解体要請を出そうにも「交渉相手がいない」という極めて困難な状況に陥ったのです。
3. マイナス資産の壁
ホテルの解体費用(約7億円)は、土地の価値を大幅に上回っていました。破産管財人が選任されても、価値のない「負債」として放棄されてしまうため、民間主導での解決は事実上不可能でした。
運営者 稲垣建物は残っていても責任を取る人がいない「所有者不在」の状況が手続きを難航させていました。法的には「国有地の不法占拠」という状態が10年続き、ようやく司法手続きによる「強制執行(解体)」という解決策が打ち出された状況です。
十和田湖周辺の休屋(やすみや)地区における主な廃屋・閉館の状況
| 施設名 | 状態 | 備考 |
| 旧十和田湖グランドホテル | 解体開始(2026年〜) | 本件。強制執行による解体。 |
| 旧十和田観光ホテル | 解体済み(2021年) | 環境省による先行モデルケース。 |
| 十和田湖パークホテル | 廃業/倒産 | 負債総額は約52億円。 |
| 十和田湖グリーンハイツ | 廃業/破産 | 2008年閉鎖。 |
| その他の中小旅館等 | 多数が廃屋化 | 地区全体で約30件の廃屋が現存。 |
運営者 稲垣十和田湖周辺には依然として約30軒の廃屋が残っていますが、休屋地区では今回の旧十和田湖グランドホテルで11件目の解体撤去を迎えます。
「強制執行」とは?「行政代執行」との違いを解説
空き家問題の報道などで「行政代執行」という言葉を耳にしたことがある方は多いかもしれません。しかし、今回のニュースで使われていたのは「強制執行」という言葉でした。この「強制執行」は、司法(裁判所)が介在する、より厳格な手続きを指します。
なぜ「強制執行」が必要だったのか
通常、空き家対策などで使われる「行政代執行」は行政庁の判断で行われます。しかし、本件は「国有地の不法占拠」という法的構成をとっています。
- 土地の権利消失: ホテル側と国との土地貸借契約が終了したが、建物が残った。
- 不法占拠の成立: 建物が国有地を占拠し続けている状態。
- 司法判決: 国が訴訟を提起し「建物を収去して土地を明け渡せ」という勝訴判決を得た。
- 強制執行: 判決に従わない(能力がない)債務者に代わり、裁判所の執行官が解体を断行する。
行政代執行と強制執行の違い
| 比較項目 | 行政代執行 | 強制執行(本件) |
| 根拠となる法律 | 行政代執行法、空き家対策特措法 | 民事執行法(裁判所の判決に基づく) |
| 執行の主な理由 | 公益(危険・景観)を損なうため | 所有権(国有地)の侵害を排除するため |
| 執行機関 | 行政庁が自ら決定・執行 | 裁判所の執行官が執行 |
| 特筆点 | 所有者が判明している場合に多い | 所有者不在や権利関係が複雑な場合に有効 |
なお、スッキリ解体では「空き家の代執行」についてのニュースを取り上げた記事もございます。よろしければあわせてご覧ください。

休屋(やすみや)地区における今後の展望
1. 旧十和田湖グランドホテルの解体工事
2026年1月に始まった工事は、豪雪地帯特有の環境に配慮しながら、1年ほどの期間をかけて進められる予定です。
| 時期 | 作業内容 |
| 2026年1月〜 | 建物内部の膨大な「残置物」の搬出、内装解体、アスベスト除去 |
| 2026年9月頃〜 | 重機を用いた巨大な躯体(鉄筋コンクリート造)の本格解体開始 |
| 2026年末頃 | 更地化完了、植生復元などを経て完了目標 |
2. 解体後の跡地利用と民間公募
更地化された後の広大な跡地(約8,000m2超)については、更地化が完了する2026年末頃をめどに、新たな事業者の公募が開始される予定です。
すでに実施された、直接の対話により民間事業者の意見や新たな事業提案の把握等を行うサウンディング調査に基づき、以下のような施設モデルが期待されています。
- 客室数を抑え、全室レイクビューを確保した高単価ホテル施設。
- 木造建築やキャンプ体験などを組み合わせ、自然負荷を最小限にした施設。
- ヨガや森林浴プログラムを核とした健康増進・長期滞在型施設。
3. 「景観づくり」による再生
環境省の「宿舎事業を中心とした国立公園利用拠点の面的魅力向上に向けた取組方針」では、かつてのように建物を密集させる開発ではなく、不要な人工物を撤去して湖への眺望や緑地を回復させる点に力を入れています。これにより、十和田湖本来の自然環境を主役とした、質の高い観光体験の提供を目指します。

考えられる今後の課題
本件の解体は大きな一歩ですが、休屋地区が抱える課題は残っています。
持続可能な仕組みづくり: 解体を単なる「国費による損切り」で終わらせず、冬期の観光需要創出や人材確保など、ビジネスとして成立する「滞在型観光地」のモデルを確立できるかが問われています。
先行事例と残る廃屋: 休屋地区では、これまでに旧十和田観光ホテルなど計11施設の解体が進められてきました。しかし、地区全体には依然として約30件の廃屋や未利用施設が点在しています。
運営者 稲垣一部の巨大廃墟が消えても、周囲に廃屋が残っていれば「ゴーストタウン化」のイメージは払拭されず、新規投資を呼び込む際の障害になってしまう懸念があります。
まとめ
今回取り上げた「旧十和田湖グランドホテルの強制執行による解体開始」のニュースは、地域住民や観光客にとって「景観の改善」と「安全性の向上」というメリットがあります。豊かな自然の中から廃墟が撤去されることで、地域のブランドイメージが向上し、新たな観光客の呼び込みも期待されます。
全国の国立公園や観光地には、同様の廃墟が数多く放置されています。今回の十和田湖の事例がモデルケースとなれば、国や自治体による廃墟撤去が加速し、解体業者にとっては新たな市場が創出される可能性があります。
