この記事の案内人・編集長
稲垣 瑞稀
- SNSで話題の「思い出カメラ」の仕組みと、それが生まれた背景
- 「思い出カメラ」のような取り組みが、依頼主へ与える心理的な影響
- 今後の解体業界で重要になる「思い出保存」サービスの内容
解体工事の後で、大切な実家とのお別れに寂しさを抱く方は少なくありません。そんな中、「失った建物を写真に収めるカメラの開発」という取り組みがSNSで話題を呼んでいます。
この記事では話題のニュースを深掘りし、なぜ今このような取り組みが注目されているのかを専門家の視点で解説します。
ニュースの概要
- 報道日:2025年12月11日
- 事案:レンズなしでも風景が撮影できる「不思議なカメラ」の写真が、X(Twitter)に投稿されました。このポストの表示数は860万回を突破しており、10万件以上のいいねを集めています。
形はカメラだが、レンズも無く不思議な「思い出カメラ」。もう無くなってしまった建物、変わってしまった場所などに向けて黄色いシャッターを押すと、思い出の中にある風景が蘇った写真が撮影できるとのこと。
引用:取り壊された建物が撮影できる「思い出カメラ」がSNSで話題「なんでレンズ入ってないカメラで撮れるんだ!?」|まいどなニュース
なくなった建物や風景を写真としてよみがえらせる「思い出カメラ」
実家の解体工事後にGoogleのストリートビューを見たことがきっかけで制作されたそうです。
話題のデバイス「思い出カメラ」について
2025年に発明コンテストでグランプリを獲り、SNSで「エモい」と話題になった思い出カメラ。
青い箱に黄色いボタンがついた、おもちゃのような見た目ですが、このカメラには普通のカメラにあるはずのレンズがありません。
レンズがないのに、どうやって写真を撮るのでしょうか?
レンズがないのに「写真」を撮れる仕組み
普通のカメラは「目の前の景色」を記録しますが、このカメラは「その場所に眠っている過去」を映し出すと言います。
- 仕組みは「地図アプリ」と同じ
スマホの地図アプリを使っているとき、自分が今どこにいて、どっちを向いているか分かると思います。 このカメラも同じ仕組みで、中にはGPSと方位磁石のようなセンサーが入っています。 - 「撮る」のではなく「呼び出す」
その場所に立ってシャッターボタンを押すと、カメラが「今ここにいて、こっちを向いているよ」とインターネットに合図を送ります。
すると、ネット上の地図データベース(Googleストリートビューなど)から、その場所の「過去の写真」を探してきて、画面に表示してくれます。
運営者 稲垣このカメラは物理的な撮影を行う装置ではなく、その場所に紐づいた「過去の風景」を呼び出すための道具ということですね。
今は更地の場所も、「思い出カメラ」で撮影すれば……

画像引用:取り壊された建物が撮影できる「思い出カメラ」がSNSで話題「なんでレンズ入ってないカメラで撮れるんだ!?」|まいどなニュース
昔あった建物(船の科学館)の姿が!

画像引用:取り壊された建物が撮影できる「思い出カメラ」がSNSで話題「なんでレンズ入ってないカメラで撮れるんだ!?」|まいどなニュース
きれいな映像より「粗い画像」の方が心が動くとも評価される
今の技術を使えば、建物を3Dスキャンしてゲームの世界のようにリアルに残すこともできます。でも、このカメラはあえて、昔のストリートビューのような「ちょっと粗くて、歪んだ画像」を表示しているそうです。
- リアルすぎると逆に寂しい
最新技術でリアルに再現された部屋は、きれいすぎて「もうそこには誰もいない」という空っぽな感じが強調されてしまい、かえって寂しくなることがあります。 - 「不完全」だからこそ、思い出せる
一方で、少しボヤけた粗い写真は、昔のアルバムを見ているような感覚になります。「あ、ここでよく遊んだな」「夕飯のいい匂いがしたな」など、画像が不完全だからこそ足りない部分を自分自身の記憶で補おうとして、懐かしさがこみ上げてくるのです。
運営者 稲垣あえて「高画質にしない」という工夫が、私たちの想像力を刺激し、心を掴んだ理由の一つかもしれません。
解体工事の「思い出保存サービス」の現在
「思い出カメラ」の流行は、私たちが「失われる場所」に対して抱く喪失感を浮き彫りにしました。
近年、空き家の数は年々増えており、それに付随して解体工事の数も今後増えていくと考えられます。解体業界では、単なる撤去作業ではなく「心の整理」としてのサービスが重要視されています。

画像引用:循環経済に向けた解体工事業界を取り巻く現状・課題、取組等|国土交通省
運営者 稲垣解体工事を行った後、長いこと住まわれたご実家との別れに寂しさを感じる方は少なくありません。
そこで思い出アルバムの作成や、古材のリメイク、デジタルアーカイブなども大きな需要として注目されています。
ここでは、解体工事に付随する3つの「思い出保存」のアプローチを紹介します。
1. 伝統的・儀式的方法:解体清祓(かいたいきよはらい)

画像引用:白旗稲荷神社解体清祓|白旗神社
最も古くからある「けじめ」のつけ方です。
- 内容: 神主を招き、家の守り神に感謝を伝え、工事の安全を祈願する。
- 費用相場: 3〜6万円程度。(※)
- 意義: 解体工事の現場では、現在でも広く行われています。
※費用は「あんしん解体業者認定協会」の過去事例に基づく目安で出しています。実際の相場とは異なる場合がございます。
まず建物を祓い清め、家屋の守り神である屋船久久遅神(やふねくくのちのかみ)と屋船豊受姫神(やふねとようけひめのかみ)に対して、これまで長年にわたり、何事もなく無事に過ごさせていただいた感謝の気持ちを表すとともに、取り壊しの事情を奉告し、また、お許しをいただき、解体工事がすみやかに無事終了するように祈願するお祭りです。
引用:「解体清祓」ってどんなお祭りなの?|福島県神社庁
運営者 稲垣解体業者には昔ながらの風習を大事にしている業者も多いので、解体清祓などの儀式を行うこと自体は珍しくありません。お願いしたい場合は見積もりの際に業者へ相談してみましょう。
2. 物理的保存・リメイク:「モノ」として残す
家の部材を加工し、新しい生活の一部として継承する方法です。
- 古材リメイク: 建具を「鉛筆立て」に、子供の身長を刻んだ柱をインテリアとして新築に迎えるなど、前の家の思い出をあえて解体せずに残すことで、触覚的な記憶を呼び覚まします。
- 記念撮影: 解体直前の家の前で、プロカメラマンや解体業者が「家との最後の写真撮影」を行うサービスも人気です。
解体(取り壊し)をするお家の古材や、使わなくなった家具の古材を、オリジナルコースターやアクセサリーへリメイクします。
引用:古材リメイクサービス|木のメカおもちゃ作家 小田切祐佳
3. デジタルアーカイブ:VRとメタバース
近年、技術的進歩により急速に普及しているのが、空間そのものをデータ化する手法です。
- Matterport(マーターポート)撮影: 360度カメラと赤外線センサーで、家の中を歩き回れる「ウォークスルー」コンテンツを作成。
- メタバース実家: 取得した3DデータをVRChatなどにアップロードし、遠隔地の家族が集まれる「バーチャル実家」として活用する動きも出ています。
- 費用感: 3Dスキャン単体で数万円〜、3D模型作成まで含めると10万〜30万円ほど。
まとめ
今回ご紹介した「思い出カメラ」は、慣れ親しんだ実家の解体などで感じる寂しさをやわらげ、思い出の建物の昔の姿が何度も懐かしめる画期的な道具でした。
最後に、今回のニュースのポイントをまとめました。
- 解体業界では「継承」にも注目が集まる:廃材のリメイクや再利用は、解体業界でも重要視されています。
- 喪失感を和らげる試み:思い出カメラをはじめ、喪失感を和らげる道具は需要があり、今後増えていくと考えられます。
- 「思い出を残す」準備しておく: 自宅の歴史や思い出を整理・準備しておくことで、終わった後のさみしさや喪失感を和らげられます。


