【解体ニュース解説】旧河西橋が撤去作業中に落橋・和歌山市紀の川

稲垣 瑞稀

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稲垣 瑞稀

解体業界で6年間働く中で感じた『正しい情報が届かない』というもどかしさから、全記事の企画・編集に責任を持っています。専門家への直接取材を通じ、業界経験者として分かりやすい情報提供をお約束します。

この記事でわかること
  • 和歌山市で発生した旧河西橋の落橋事故の概要
  • 撤去作業中に橋が落下した要因と今後の予測
  • 同様の事故が、一般市民に与える具体的な影響

この記事では、和歌山市にある旧河西橋での落橋事故の概要や原因、今後の予測について分かりやすく解説します。

目次

ニュースの概要

  • 発生場所:和歌山県和歌山市西蔵前丁―同市北島
  • 報道日:2025年12月6日
  • 対象:旧河西橋の一部(約40メートル)
  • 事案:和歌山市は5日、紀の川で撤去作業中の旧河西橋の一部が落橋したと発表した。通行規制中でけが人はなく、原因究明まで工事を停止する。市は周辺を航行する船に注意を呼びかけている。同橋は老朽化のため8月に新橋が開通し、11月から撤去が進められていた。

和歌山市は5日、紀の川で撤去作業中だった旧河西橋(和歌山市西蔵前丁―同市北島、延長478メートル)の一部(約40メートル)が落橋したと発表した。8月に新しい橋が開通した後、旧橋の通行は規制されており、けが人はなかった。

引用:「橋が落ちた」と通報、撤去作業中に40mが紀の川へ…原因が究明されるまで工事は停止|読売新聞オンライン

旧河西橋の概要と落橋した原因

旧河西橋の概要

河西橋は1914年に完成し、当初は鉄道橋として使用されていました。しかし、1953年(昭和28年)の紀州大水害により橋脚が傾くなどの甚大な被害を受けました。これを機に南海電鉄はこの橋での鉄道運行を断念し、現在のルート(紀ノ川橋梁)へ線路を切り替えました。1957年以降は、歩行者・自転車・二輪車(バイク)専用で使用されていました。

2025年8月17日に旧河西橋は閉鎖され通行止めとなり、同日に新河西橋が開通しました。

8月の閉鎖以降、バリケード設置などの準備工が行われ、11月から重機を用いた本格的な解体工事に着手していました。事故が発生したのは、本格着手から約1ヶ月が経過した時点でした。

事故当時は、巨大な橋桁を外す前段階として「ガス管などの付属物を外す作業」を行っている最中であり、橋は一般交通から完全に隔離された状態でした。作業員は橋桁の上ではなく、安全な位置(高所作業車や橋脚上など)で作業していたとみられ怪我はなかったとのことです。

落橋した原因

報道では「原因は調査中」とされていますが、今回の事故は老朽化と解体作業特有の要因が重なった複合的な要因である可能性が高いと考えられます。

  • 「ガス管」が強度を支えていた可能性
    本来は橋の付属物に過ぎない「ガス管」が、橋本体の腐食が進んだことで、意図せず構造全体を繋ぎ止める「つっかえ棒(または引張材)」の役割を果たしていた可能性があります。この管を切断した瞬間、均衡が崩れ、崩落の引き金になったと推測されます。
  • 解体中の「不安定化」と重心の移動
    解体工事は、完成された安定状態から部材を減らしていく作業です。手すりや舗装を撤去したことで橋桁の重量バランスが変化しており、そこにガス管切断の振動や衝撃が加わったことで、老朽化した橋脚との接点が耐えきれず脱落したと考えられます。
  • 111年前の鋼材による「脆性破壊」
    使用されていた鋼材は100年以上前のものであり、現代の鋼材に比べて「粘り強さ」が低かった可能性があります。加えて12月の低温下での作業であったため、鋼材がガラスのように急激に割れる「脆性破壊」や、部材が耐えきれずに折れ曲がる「座屈」が連鎖的に発生した可能性があります。

一般市民への影響

和歌山市・紀の川で起きた旧河西橋の落橋事故について、2021年の水管橋崩落を思い出して不安を感じた方もいるかもしれません。しかし今回の事故で、市民生活への実害はほぼありません。

2021年の六十谷水管橋事故は、現役の水道管が崩落して大規模断水を招いた災害でした。

一方、今回は役目を終えた橋を解体中に起きたトラブルです。現場のすぐ横には今年8月に「新河西橋」が開通しており、車も歩行者もすでにそちらを利用していました。落下したのは誰も使っていない空の橋です。

また、橋に付いていたガス管も新ルートへ切り替え済みで中身は空でした。ガス漏れや断水などの二次被害の心配もありません。

▼【比較】過去の落橋事故による一般市民への影響

項目2025年 旧河西橋事故(今回)2021年 六十谷水管橋事故
事故が起きた状況解体作業中橋として稼働中
壊れた管旧ガス管水道管
市民への影響なし約6万世帯が「断水」
学校休校、給水所に長蛇の列
交通への影響なし周辺道路が渋滞
運営者 稲垣

「また和歌山で橋が落ちた」というニュース映像のインパクトが強いため、2021年の断水を思い出して不安になる方がいるかもしれません。「今回は断水しない」という正しい情報の拡散が必要です。

落橋した旧河西橋の今後の予測

今回の事故により、現場および和歌山市周辺では以下の展開が予測されます。

  • 工期の遅れと慎重な再開
    原因究明と再発防止策が策定されるまで、工事は長期的に停止します。再開後も、残りの橋桁に対して追加の補強や、より慎重な工法(例:一括吊り上げではなく、より細かく切断するなど)への変更が余儀なくされ、解体完了は当初の予定より大幅な遅れが予測されます。
  • 河川内の落下物撤去の難航
    川の中に沈んだ約40メートル・数十トンの橋桁の撤去は困難を極めます。二次災害(撤去作業中のさらなる崩落や水流阻害)を防ぐため、大型クレーン船の手配や水中での切断作業など、大掛かりな準備が必要となります。
  • 市民生活への影響は限定的
    「新河西橋」がすでに開通しているため、市民の交通やライフライン(ガス・水道)への直接的な影響はありません。ただし川の中に障害物がある状態が続くため、紀の川を利用する船舶や漁業関係者への航行規制はしばらく続くと見られます。
  • 全国の「老朽インフラ解体」への波及
    今後、同様の古い橋梁を解体する際には、事前の3Dスキャン調査や、構造力学シミュレーションの義務化など、国レベルで安全基準が見直される契機になる可能性があります。

まとめ

今回は和歌山市にある旧河西橋の事故と今後の予測について解説しました。今回の事故は、インフラの老朽化と撤去の難しさを浮き彫りにしました。最後に、この記事の要点をまとめます。

  • 老朽化インフラの増加: 今回の事故はあくまで表に出た一例に過ぎず、同様のリスクを抱えた難易度の高い解体工事は今後も増え続ける。
  • 安全管理の重要性: 解体工事は、事前の綿密な調査とそれに基づいた徹底的な安全計画なくしては成り立たない。
  • 施主への影響: 日常生活への実害はなく、現在はすぐ横の「新河西橋」が正常に通行可能。
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この記事を書いた人

「一個人の責任と情熱で、本当に役立つ情報を発信したい。」

『スッキリ解体』運営責任者。解体業界で6年間働く中で感じた『正しい情報が届かない』という現状を変えるため、全記事の企画・編集に携わり、責任を持って情報発信を行う。

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