【解体ニュース解説】熊本城で石垣崩落 2025年現在の復旧状況

熊本城復旧のニュース サムネイル
稲垣 瑞稀

この記事の案内人・編集長

稲垣 瑞稀

解体業界で6年間働く中で感じた『正しい情報が届かない』というもどかしさから、全記事の企画・編集に責任を持っています。専門家への直接取材を通じ、業界経験者として分かりやすい情報提供をお約束します。

この記事でわかること
  • 今回発生した石垣崩落事故の詳しい状況と原因がわかる
  • 事故による観光への影響や、現在見学できる範囲がわかる
  • 熊本城の完全復旧に向けた計画やスケジュールの全体像がわかる

2025年12月上旬、熊本城の復旧工事現場において石垣の一部が崩落したというニュースが報じられました。「また地震の影響が出たのか」「観光に行っても大丈夫なのか」と気になっている方も多いのではないでしょうか。

結論から申し上げますと、熊本城の天守閣を含む主要な観光エリアは通常どおり見学可能です。今回の事故は、一般の方が立ち入れない工事専用エリア内で発生しました。

この記事では、解体工事の専門的な視点から、今回の事故が起きた原因、現在の観光への影響、そして「完全復旧」までの道のりについて解説します。

目次

熊本城宇土櫓続櫓の石垣崩落事故の概要

まずはニュースの事実関係を整理します。

  • 発生日時:2025年(令和7年)12月4日午後2時過ぎ
  • 発生場所:熊本城宇土櫓続櫓(うとやぐらつづきやぐら)※国の重要文化財
  • 状況:石垣の解体および回収作業中に、石垣内部の栗石(くりいし)などが約60m2にわたり崩落。
  • 被害状況:当時、現場には10名の作業員がいたが、全員避難しけが人なし
  • 現状:原因調査と安全対策のため、同所での工事は一時中断(2025年12月9日時点)。

現在実施しております熊本城宇土櫓続櫓石垣復旧(解体)工事について、12月4日(木)の築石の解体及び栗石の回収作業中、栗石表層の一部に崩れが確認されたことに伴い、解体作業を一時中断しておりますのでお知らせします。

引用:【報道資料】熊本城宇土櫓続櫓石垣復旧(解体)工事の一時作業中断について|熊本市

熊本城・石垣崩落の様子
運営者 稲垣

現場(宇土櫓続櫓)は「平左衛門丸ゾーン」の北西に位置します。

熊本城のマップ

※画像はクリックで拡大できます

なぜ石垣は「なだれのように」崩れたのか?

石垣を支える「栗石(くりいし)」の存在

城の石垣は、表面の大きな石(築石)だけで成り立っているわけではありません。築石の奥には、排水とクッションの役割を担う「栗石」と呼ばれるこぶし大の小石が大量に詰められています。この栗石が石垣全体の安定を支えています。

城の石垣の構造

解体作業の難しさ

文化財の石垣解体は通常の建物解体とは異なり、「元の位置に戻すこと」が前提の非常に繊細な作業です。今回の事故では、表面の石を慎重に取り外している途中で内部の栗石が予想外の動きをして一気に崩れ落ちたとみられています。

背景には、2016年の熊本地震による揺れで内部構造がすでに緩んでいた可能性があります。外からは問題がないように見えても、内部には地震の影響による「見えないダメージ」が残っており、それが復旧作業を難しくさせる一因となっています。

【観光への影響】現在も入園できる?(2025年末〜2026年始の状況)

天守閣や主要ルートは通常どおり観覧可能

崩落があった「宇土櫓続櫓」は天守閣の南西側にあるエリアで、以前から工事用フェンスで封鎖されています。このため、天守閣・特別見学通路・二の丸広場といった主要な観光ルートへの影響はありません。

年末年始のイベント

2025年末〜2026年お正月に予定されているイベント(夜間開園・初詣・かわらけ配布など)も、現時点では今回の崩落による中止や変更は発表されていません。

ただし、工事の進捗や状況次第で予定が変わる可能性はあります。お出かけ前には「熊本城公式ホームページ」で最新の案内をご確認ください。

完全復旧はいつ?工期への影響と長期計画

今回の現場(宇土櫓続櫓)への影響

熊本市の公表資料では、宇土櫓続櫓の復旧工事は当初「2026年(令和8年)2月27日まで」とされていました。しかし今回の工事中断と安全対策の見直しにより、この工期は遅れる可能性が高いと考えられます。文化財修復では、作業スピードよりも「安全性」と「歴史的価値の保全」が最優先されるためです。

2.工期
令和6年(2024年)6月28日 ~ 令和8年(2026年)2月27日

3 作業中断時期 
令和7年(2025年)12月4日(木)午後より
※今後の対策等について国等と協議を行った上で作業を再開する予定です。(時期未定)

引用:【報道資料】熊本城宇土櫓続櫓石垣復旧(解体)工事の一時作業中断について|熊本市

熊本城全体の「完全復旧」は2052年頃

実は、復旧が必要なのは今回の現場だけではありません。

熊本市の調査報告(復旧基本計画など)によると、熊本地震で被害を受けた石垣は、崩落やゆるみを含めて城内全体で合計517カ所にのぼります。今回の事故現場はそのうちの一つにすぎません。

種類被害数量内容
石垣崩落・膨らみ・緩み517面
(うち崩落50箇所、229面)
約23,600m2(全体の29.9%)
うち崩落約8,200m2(全体の10.3%)

これらの膨大な石垣をすべて元の姿に戻すため、市は石一つひとつに番号を付け、パズルのように積み直す作業を進めています。この復旧計画の完了見込みは「2052年度(令和34年度)」とされており、完全復旧まではおよそ30年近い年月を要する長いプロジェクトです。

計画の改定に伴い、計画期間は当初より15年延ばして2052年度までと設定しなおしました。計画策定から最初の5年間を短期、計画期間の終期までの35年間を中期と設定し、その後、100年先の将来までを長期として位置づけます。宇土櫓と本丸御殿大広間の復旧が完了する15年目と、全ての重要文化財建造物や主要区域の復旧が完了する25年目が大きな節目となります。26年目以降の10年間は、特別見学通路の撤去や主要区域以外の工事を行うとともに、復旧完了後に向けた新たな整備計画の検討を行います。

熊本城の復旧計画

引用:熊本城復旧基本計画―概要版―(令和5年3月28日改定)|熊本市

【FAQ】熊本城復旧に関するよくある疑問

復旧費用はいくらかかるのですか?

2016年時点の試算では、熊本城全体の復旧費用は約634億円と見込まれていました。ただし、その後の物価上昇や工法の見直しなどにより、最終的な費用は変動する可能性があります。

「奇跡の一本石垣」はどうなりましたか?

地震直後に一本の石垣だけで支えられ話題となった「飯田丸五階櫓(いいだまるごかいやぐら)」は、倒壊を防ぐための緊急工事を経て、2024年1月に石垣の積み直し工事が完了しました。

現在は建物部分(櫓本体)の解体・保管が終わっており、2025年度からは櫓本体の復元工事が始まる予定です。

まとめ

今回は解体中の熊本城で起きた石垣崩落のニュースを解説してまいりました。今回の要点は次の通りです。

  • 観光への影響はなし
    事故は立ち入り禁止の工事エリア内で発生したため、天守閣や主要ルートの見学、年末年始のイベントは通常どおり行われます。
  • けが人はゼロ
    作業員は全員無事に避難しており、人的被害はありませんでした。
  • 原因は「地震後に残っていた内部の弱まり」の可能性
    2016年の地震の影響により、石垣内部の栗石が緩んでいたことが崩落の一因とみられています。
  • 完全復旧は2052年への長い道のり
    今回の現場の工期は、安全確認のため延びる可能性があります。熊本城全体の復旧については石垣を一つずつ組み直す作業が続いており、今後も約30年にわたる計画的な取り組みが進められます。
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この記事を書いた人

「一個人の責任と情熱で、本当に役立つ情報を発信したい。」

『スッキリ解体』運営責任者。解体業界で6年間働く中で感じた『正しい情報が届かない』という現状を変えるため、全記事の企画・編集に携わり、責任を持って情報発信を行う。

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