【解体ニュース解説】丹下健三氏設計の旧香川県体育館の解体議案提出、名建築がなぜ

旧香川県体育館の解体ニュース サムネイル
稲垣 瑞稀

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稲垣 瑞稀

解体業界で6年間働く中で感じた『正しい情報が届かない』というもどかしさから、全記事の企画・編集に責任を持っています。専門家への直接取材を通じ、業界経験者として分かりやすい情報提供をお約束します。

この記事でわかること
  • 故・丹下健三氏設計の旧香川県立体育館が解体されるに至った経緯
  • 歴史的建築物の解体工事における技術的な課題と注意点
  • 全国の公共施設が直面する老朽化問題と今後の動向

この記事では、丹下健三氏が設計し、地元で「船の体育館」として親しまれてきた旧香川県立体育館の解体議案が提出されるに至った経緯や歴史的建築物の保存をめぐる課題、さらに現在解体を検討しているユーザーへの影響までを専門家の視点で解説します。

目次

ニュースの概要

公開日:2025年11月19日
情報源故・丹下健三氏設計の旧県立体育館解体工事契約など27議案を提案 11月定例県議会開会【香川】OHK岡山放送

11月定例香川県議会が11月19日に開会し、補正予算案のほか旧香川県立体育館の解体工事を8億4700万円で発注する工事請負契約など27議案が一括提案されました

議案の中には高松市の旧香川県立体育館の解体工事を市内の建設会社、合田工務店に8億4700万円で発注する工事請負契約が含まれています。世界的な建築家、丹下健三氏が設計した旧香川県立体育館は老朽化や耐震不足を理由に県が解体することを決めていて、一般競争入札の結果、合田工務店が解体工事を落札していました。

引用:故・丹下健三氏設計の旧県立体育館解体工事契約など27議案を提案 11月定例県議会開会【香川】|OHK岡山放送

2025年11月19日に開会した香川県の11月定例県議会で、県は世界的建築家・丹下健三氏が設計した旧香川県立体育館の解体工事に関する議案を提出しました。

旧香川県立体育館は1964年に完成し、「船」をモチーフにした独創的なデザインで広く知られています。しかし建物の老朽化が進み、耐震診断では震度6強以上の地震で倒壊する危険性が高いと指摘されていました。

県ではこれまで保存や活用の可能性を探ってきましたが、改修には多額の費用が見込まれることから断念しました。県民の安全確保と財政負担の観点を踏まえ、最終的に解体を選択した形です。なお、解体工事費は約15億3,600万円と見込まれています。

運営者 稲垣

丹下健三氏は国立代々木競技場の設計も手掛けており、旧香川県立体育館はその代々木競技場と同時期に設計が進められた「兄弟建築」とも言える存在です。

旧香川県立体育館の解体議案が提出された経緯

耐震補強の観点からの懸念

旧香川県立体育館の解体が決定する転機となったのは、2012~2013年に実施された耐震診断の結果です。この診断で、「震度6強から7の地震で倒壊または崩壊する危険性が高い」という厳しい評価が示されました。これを受け、体育館は2014年9月末で閉館することになりました。

香川県教育委員会「旧香川県立体育館に係る記者発表について」より旧香川県立体育館の老朽化の状況

保存・活用資金の限界

耐震診断後、県は民間資金の活用も含めて保存・活用の可能性を探ってきました。しかし旧香川県立体育館は「吊り屋根構造」という特殊な構造を採用しており、補修や耐震補強を行うにも高度な技術と莫大な費用が必要でした。

試算では改修費が数十億円規模に達する見込みとなり、財政的な負担は避けられない状況に。こうした事情から、県は「安全確保を最優先すべき」と判断し、最終的に保存を断念して解体に踏み切る決断を下しました。

旧香川県立体育館の解体工事における3つの課題

1. 解体に反対する市民・団体からの強い要望

旧香川県立体育館は1964年の完成以来、地元で長く親しまれてきた建築物であり、丹下健三氏の代表作として全国的にも高い評価を受けています。

そのため建物の保存活用をめざす民間有志団体は、県の解体方針について再考を求める署名を提出しています。行政としては安全性や財政負担とのバランスを踏まえながら、こうした市民からの再考要望に丁寧に向き合う姿勢が求められます。

「船の体育館」と親しまれてきた旧香川県立体育館(高松市)を巡り、公費を使わない再生活用策を提案している民間有志団体が18日、耐震性不足などを理由に解体に向けた手続きを進める県や県教委に再考を求める4万9247筆の署名を提出した。7月末から街頭やオンラインなどで集めたもので、約3割が県内在住者だとしている。

引用:丹下健三の「船の体育館」解体 再考求める署名を提出 香川|毎日新聞

2. 複雑な構造に対応する高度な解体技術

次に、技術面での課題です。旧香川県立体育館は、ワイヤーで屋根を吊る「吊り屋根構造」という特殊な工法で建設されています。建設時から高度な技術が求められた建物ですが、解体となるとその難易度はさらに上がります。

こうした特殊構造の解体は解体業者にとって技術力を示す絶好の機会である一方で、前例の少ない難工事であり高いリスクを伴います。

運営者 稲垣

吊り屋根構造は柱のない大空間を実現でき、設計の自由度が高いというメリットがあります。一方で解体時には構造バランスを慎重に管理しなければならず、通常よりも高度な技術と綿密な計画が求められるというデメリットがあります。

竹中工務店設計部「着心地のよい服のような建築を実現する構造」より吊り屋根構造のイメージ画像

3. アスベスト除去に対応する解体業者の選出

最後に、アスベスト(石綿)への対応についてです。アスベストは耐熱性や加工性に優れた天然の鉱物繊維で、2006年以前に建てられた建物で広く使用されていました。しかし、吸い込むと深刻な健康被害を引き起こすことが判明し、現在は日本国内での使用が全面的に禁止されています。

旧香川県立体育館のように1964年に竣工した建物では、アスベストが使用されている可能性が高く、安全に除去するには専門的な技術と適切な工程管理が欠かせません。また、アスベスト除去に対応できる業者は限られるため、対応可能な業者を慎重に見極めることが重要です。

アスベストに関する詳細は、以下の記事で詳しくご紹介しています。

旧香川県立体育館の解体工事から見る今後の予測

公共施設の老朽化

旧香川県立体育館の解体は、「公共建築の寿命」という全国的な課題を象徴する事例です。高度経済成長期に建設された多くの公共施設やインフラが一斉に耐用年数を迎え、更新の時期に差し掛かっています。旧香川県立体育館のように文化的価値と維持コストの板挟みになっている建物は全国に数多く存在し、今回の決定は他の自治体が同様の判断を下す際の前例にもなり得ます。

実際、佐世保市では公共施設の老朽化が顕著に進行しています。公共施設の耐用年数を50年とした場合、同市では2008年度以降、毎年約1万m²の施設が耐用年数を迎えています。しかし更新や統廃合が追いつかず、2016年度(平成28年度)時点で、すでに約8万m²の施設が耐用年数を超過していました。

佐世保市「公共施設の老朽化問題とは」より佐世保市内における公共施設の竣工年を示すグラフ

このまま抜本的な対策を講じなければ、今後さらに多くの施設が次々と耐用年数を迎え、2036年頃(平成28年度から20年後)には更新・改修の負担が急激に膨れ上がることが懸念されています。

佐世保市「公共施設の老朽化問題とは」より

建設業界のDX化

旧香川県立体育館の解体のように難易度の高い工事は、自治体にとっても建設業界にとっても、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を進める大きな転機となり得ます。

現場環境

3次元モデルを用いて建築・建設のプロセスを効率化する仕組み(BIM/CIM)を活用した解体シミュレーションやドローンによる施工管理など、デジタル技術を取り入れた「解体DX」は今後さらに加速すると見込まれます。これにより、工事の安全性向上・作業効率化・コスト削減など現場運営の高度化が期待されます。

国土交通省近畿地方整備局「BIM/CIMとは」より、BIM/CIMのイメージ画像

記録保存

建物が失われる以上、建築的価値や記憶をどのように後世へ残すかも重要な課題です。写真や図面のみならず、3Dレーザースキャナーによる形状データの取得(デジタルアーカイブ化)や特徴的な部材の保存・展示といった取り組みが求められています。こうしたデジタルデータの蓄積は、歴史的価値の継承だけでなく将来のまちづくりにも役立ちます。

実際に、文化庁が支援する「Innovate MUSEUM事業」では、2024年の能登半島地震で被災した文化財について3Dモデルを活用したデジタルアーカイブ化が進められています。被災した建築物や資料を三次元データとして記録し、プラットフォーム上で順次公開することで、能登地域の文化資源を後世に伝える取り組みです。また、DX技術を活用し、近隣の複数の博物館が連携して情報発信を行う仕組みづくりにも取り組んでおり、災害時における文化財保全の新しいモデルとして注目されています。

Innovate MUSEUM 事業「No.5 能登半島地震被災文化財デジタルアーカイブ事業」より、3Dアーカイブされた文化財のイメージ画像

まとめ:旧香川県立体育館の解体工事ニュースについて

旧香川県立体育館の解体は、個人でマイホームや店舗の解体を検討している方にとっても多くの学びがあります。特に四国地方で近い将来、建物の解体を考えている方に向けて、押さえておきたいポイントと具体的なアクションをまとめました。

  • 業者選びのチェックポイント
    • 特殊建築物の解体実績:旧香川県立体育館の特殊構造の解体が困難であったように、一般住宅でも狭小地で重機が入らないなど解体作業が難しい現場はあります。そのような工事を検討する場合は業者のホームページで施工実績を確認し、難しい現場にも対応できるかを必ずチェックしましょう。
    • アスベスト対策の専門性:古い建物の解体では、アスベスト対策が必須です。アスベスト診断士の資格保有者が在籍しているか、適切な除去工事の実績が豊富かなど専門性を必ず確認してください。
  • 情報収集の方法
    • 自治体の公式サイト:お住まいの自治体のウェブサイトでは、公共施設の再編計画や長期的な都市計画に関する情報が公開されています。地域の将来を知る上で貴重な情報源です。
  • 準備しておくべきこと
    • 建物の「履歴書」を保管する:自宅の設計図・建築確認済証・過去のリフォーム履歴などの書類は、将来の売却・解体・アスベスト調査の際に必ず必要になります。大切にまとめて保管しておきましょう。
    • 長期的な視点を持つ:建物は建てて終わりではありません。修繕・改修・解体までの長期的なライフサイクルを見据えた資金計画や情報収集を心がけることが、賢明な資産管理につながります。

なお、スッキリ解体では優良な解体業者の選び方について徹底解説した記事もございます。あわせてご確認ください。

また、解体工事のスケジュール感を確かめたい方は、以下の解体工事の流れ解説をご確認ください。

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この記事を書いた人

「一個人の責任と情熱で、本当に役立つ情報を発信したい。」

『スッキリ解体』運営責任者。解体業界で6年間働く中で感じた『正しい情報が届かない』という現状を変えるため、全記事の企画・編集に携わり、責任を持って情報発信を行う。

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