【解体ニュース解説】能登半島地震の公費解体が目標の10月末で完了 新潟県新潟市

稲垣 瑞稀

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稲垣 瑞稀

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この記事でわかること
  • 能登半島地震に伴う公費解体の概要と流れ
  • 大規模火災で適用される「公費解体」の解説
  • 公費解体を利用する場合の注意点

本記事では、能登半島地震に伴って申請された公費解体が無事完了されたニュースをもとに、今回の公費解体の概要や制度内容を解説します。

目次

ニュースの概要

  • 発生場所:新潟県新潟市
  • 報道日: 2025年12月3日
  • 内容:能登半島地震による建物の倒壊に伴い、申請のあった1,044件の公費解体が10月末で完了した。

能登半島地震に伴う新潟市の公費解体が終わったことをうけ、中原八一市長が3日、工事業者らに感謝を伝えました。

新潟市では公費解体の申請が1044件あり、公費解体を見送ったり、工事の調整がつかなかったりした一部を除き、全ての解体が10月末までに完了しました。

引用:“公費解体”目標の10月末で完了【能登半島地震】申請は1044件「何とか10月いっぱいで終わらせることができました」新潟市|TBSNEWSDIG

2024年1月に発生した能登半島地震により、新潟市内でも多くの家屋が被害を受けました。これを受け、新潟市は被災した家屋を所有者に代わって公費で解体・撤去する「公費解体」を進めてきました。

1,044件の申請があったこの事業について、市は目標としていた10月末までにすべての作業を完了したと発表。12月3日には中原八一市長が、事業に尽力した工事業者らに感謝を伝える場が設けられました。

能登半島地震の公費解体の概要と流れ

能登半島地震が起きてから今回のフェーズまで、どのような背景と流れがあったのか、その概要を解説します。

1. 「半壊」への適用拡大による公費解体申請の増加

能登半島地震では、全壊家屋だけでなく、生活環境に支障をきたす「半壊」認定の家屋や、店舗、蔵なども幅広く公費解体の対象とされました。
これにより申請件数は膨大化し、石川県内では42,178棟、震源から離れた新潟市でも1,044件に達しました。新潟市では当初「700~800件」を想定していましたが、液状化による基礎被害で「住める見た目だが住めない家」の解体が相次ぎました。

2. 地震発生からの流れ

2024年1月1日の発災から約2年。解体事業は大きく以下の流れで進みました。

  • 2024年:申請殺到とリソース不足
    発災直後から申請受付が始まりましたが、全国の解体業者が甚大な被害を受けた石川県(特に奥能登)へ集中投入されました。これにより、周辺被災地である新潟市などでは業者不足が深刻化。さらに、2024年初頭と2025年初頭の2度の冬において、豪雪による作業中断が重なり、進捗は停滞を余儀なくされました。
  • 2025年:大きく進んだ公費解体の進捗
    2年目に入り、石川県では「面的解体(エリア一括解体)」という効率的な手法が加速。2025年10月時点で石川県内の約95%(約4万棟)が完了しました。一方、個別解体が主だった新潟市も、2025年12月をもって全1,044件の完了を達成しました。

3. 石川県と新潟県の工事進捗

同じく被災した石川県では、先述の通り公費解体の申請が42,178棟にのぼる大規模な被害を受けました。
しかし石川県も着々と公費解体を進め、2025年11月時点においては、申請の97.9%となる41,297棟の解体が完了しています。

新潟市と同じく、被害に遭った建物の解体においては最終局面と言えます。

引用:被災建物の解体・撤去(公費解体)について 令和7年11月末時点|石川県

運営者 稲垣

石川県は特例措置や広域処理(海上輸送による県外搬出)を駆使して猛スピードで処理を進めました。対して新潟県は、件数は少ないものの、準被災地というリソースが回ってきにくい環境において着実に個別の解体を進める形となりました。

公費解体とは

「公費解体」とは、災害によって倒壊したり倒壊の危険があったりする建物を、所有者の申請に基づき税金を使って自治体が解体・撤去する制度です。

正式には「災害等廃棄物処理事業」と呼ばれ、災害対策基本法や廃棄物処理法が根拠となっています。

それでは、なぜ個人の財産であるはずの建物を公費で解体するのでしょうか。その目的は大きく4つあります。

  1. 被災者の経済的負担の軽減: 解体費用は木造家屋でも100万円以上かかることが多く、被災者にとって大きな負担です。これを公費で賄うことで、生活再建への第一歩を力強く後押しします。
  2. 迅速な復旧・復興: 個々の所有者が業者を探し、見積もりを取り、契約していては、地域全体の復興が遅れてしまいます。自治体が主導することで、瓦礫の撤去や復興事業をスムーズに進められます。
  3. 二次災害の防止: 倒壊の危険がある建物を放置すれば、余震や強風で倒れ、近隣住民や通行人に被害を及ぼす可能性があります。危険な建物を速やかに撤去し、地域の安全を確保します。
  4. 公衆衛生の確保: 倒壊した家屋を放置すると、害虫や害獣の発生源となったり、不法投棄を招いたりする恐れがあります。衛生的な環境を保つためにも、迅速な撤去が不可欠です。
運営者 稲垣

今回の新潟市の事例が特に注目されるのは、1000件を超える申請に対し、「目標期間内に完了させた」という点です。大規模災害時には、解体業者の不足や資材の高騰が深刻な問題となり、復興の遅れに繋がることが少なくありません。
この目標達成の裏には、市と地元の解体工事業者の強固な連携、そして全国からの応援を含めた業界全体の協力体制があったと推察できます。

公費解体を利用する場合の注意点

公費解体のメリットは、金銭的な負担がほぼなくなることです。

罹災証明書で「全壊」「大規模半壊」などの認定を受けることが条件となりますが、本来であれば数百万円かかる可能性のある費用が公費で賄われるのは大きな支援と言えます。また、業者探しや契約といった煩雑な手続きを自治体が代行してくれるため、精神的な負担も軽減されます。

一方で、手放しで喜べることばかりではありません。公費解体を申請する際は以下の点に注意しましょう。

  • 申請期限と煩雑な手続き: 公費解体には必ず申請期限が設けられています。期限を過ぎると自己負担での解体となるため、迅速な判断と行動が求められます。また、申請には罹災証明書や本人確認書類、建物の登記情報など、多くの書類が必要です。
  • 解体業者は選べない: 工事は自治体が入札などで選んだ業者が行うため、施主が特定の業者を指定することはできません。工事の質や進め方について、細かな要望を出すのが難しい場合があります。
  • 対象範囲の限定: 公費解体の対象は、基本的に被災した「建物本体」とその「基礎」までです。カーポートやブロック塀、庭木、庭石、浄化槽、地中埋設物などは原則として対象外となり、これらを撤去する場合は自己負担となるケースがほとんどです。どこまでが対象になるかは、必ず事前に自治体に確認が必要です。
  • みなし解体(まだ使える部分も解体): 罹災証明で「半壊」と認定された場合でも、修理して住み続けることが困難な場合は公費解体の対象となることがあります。しかし、この場合、まだ使える家財道具や建具なども建物と一緒に解体されてしまう「みなし解体」のリスクがあります。貴重品や思い出の品は、必ず事前に運び出さなければなりません。

公費解体は万能の制度ではないため、利用する際には一定の条件と注意点を押さえておきましょう。

まとめ

本記事では、能登半島地震に伴う新潟市の公費解体が完了したニュースをもとに、被災した新潟県と石川県の公費解体の実情や、公費解体の制度そのものを解説しました。

以下は、今回のニュースのまとめです。

  • 新潟市は目標としていた2025年10月末の公費解体完了を発表。
  • 能登半島地震では「半壊」状態も公費解体の対象としたこともあり、申請数が予想を上回ったことで2年の月日を要した。
  • 石川県でも42,178棟の申請のうち97.9%の公費解体が完了しており、能登半島地震の公費解体は最終的な局面に入っている。
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この記事を書いた人

「一個人の責任と情熱で、本当に役立つ情報を発信したい。」

『スッキリ解体』運営責任者。解体業界で6年間働く中で感じた『正しい情報が届かない』という現状を変えるため、全記事の企画・編集に携わり、責任を持って情報発信を行う。

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