この記事の案内人・編集長
稲垣 瑞稀
- ニュースになった解体業者の不法投棄事件の概要
- 不法投棄と外国籍労働者の関係
- なぜ解体業界で不法投棄が無くならないのか、その構造的な背景
- 不法投棄によって地域住民や依頼主が被る可能性のあるリスクと優良業者の選び方
この記事では、埼玉県川口市で起きた解体業者の不法投棄事件を題材に、なぜ外国籍の解体業者による不法投棄は度々起こるのか、万が一トラブルに巻き込まれた場合、近隣住民や依頼主にどのような影響があるのかを専門家の視点で深掘りします。
ニュースの概要
公開日:2023年11月20日
情報源:川口のトルコ国籍解体工の男逮捕 解体ごみ木くずや廃プラ2・3トン、山林に不法投棄容疑(産経新聞) – Yahoo!ニュース
住宅などの解体工事で出た産業廃棄物を不法投棄したとして、埼玉県警生活経済課と西入間署は19日、廃棄物処理法違反の疑いで、同県川口市上青木西、トルコ国籍の解体工、エディキリ・クルサット容疑者(21)を逮捕した。トルコ国籍者による解体工事の不法投棄を巡っては、先月も警視庁が解体会社の元代表を同容疑で逮捕している。
引用:川口のトルコ国籍解体工の男逮捕 解体ごみ木くずや廃プラ2・3トン、山林に不法投棄容疑(産経新聞) – Yahoo!ニュース
住宅などの解体工事で出た約2.3トンもの産業廃棄物を山林に不法投棄したとして、埼玉県川口市トルコ国籍の解体業者の男が逮捕されたというニュースが報道されました。
容疑者は「正規の処分費用を払いたくなかった」という趣旨の供述をしていると報じられており、少しでも利益を得るため廃棄物を不法投棄し、適正な処理にかかる費用を浮かせていた可能性があります。
実は、不法投棄などの犯罪トラブルを起こす解体業者は近年でも後を絶ちません。なぜ法を犯してまで不法投棄をしてしまうのでしょうか。この事件は、解体業界が抱える廃棄物処理の問題点を浮き彫りにしています。
解体業者の不法投棄と外国籍労働者
今回のニュースを見た時、もしかすると不法投棄の容疑者が「トルコ国籍」という点に注目した方が多いのではないでしょうか。
日本人の労働人口が減少している現在、外国籍労働者の存在は欠かせない存在になっています。コンビニや飲食店で働く姿も当たり前のように見られるようになりました。
とはいえ、度々報道されるニュースなどを見て、「外国籍労働者=トラブル」といったネガティブなイメージを持ってしまう方も少なからずいると思います。
運営者 稲垣ここでは、解体業界で働く外国籍労働者について解説します。
解体業者にトルコ国籍労働者が多いワケ
日本の解体工事現場で、トルコ出身の労働者の姿を見かけることは珍しくありません。その背景には、日本とトルコ、そして「国を持たない最大の民族」と呼ばれるクルド人の複雑な社会的事情が関わっています。
1. 在日トルコ人とクルド人コミュニティ
日本に滞在するトルコ国籍の人々の多くは、トルコ南東部出身で「クルド人」と呼ばれます。彼らはトルコ政府による長年の迫害や差別から逃れるため、1990年代以降日本に避難してきました。 とくに埼玉県川口市や蕨市には日本最大のクルド人コミュニティが形成されており、「ワラビスタン」と称されることもあります。
2. 厳しい在留資格と就労制限
来日したクルド人の多くは、母国での迫害を理由に難民申請を行いますが、日本の難民認定は厳しく認定されるケースはごくわずかです。その結果、多くの人々が難民認定も受けられず、かといって帰国もできない「仮放免」という不安定な立場で生活しています。
仮放免の状態では、原則として就労が許可されておらず、国民健康保険にも加入できません。このような厳しい法的制約が、彼らを正規の就労市場から締め出し、限られた仕事へと向かわせる要因となっています。

画像引用:在日クルド人をめぐる「問題」を考える|認定NPO法人 難民支援協会
3. なぜ解体業なのか?
- 人手不足の業界
日本の建設業界(とくに解体業)は、高齢化と若者離れによる人手不足に悩まされており、外国籍労働者の受け入れに積極的な場合が多いです。 - 就労の参入障壁
解体作業は高度な日本語能力を必ずしも必要とせず、体力があれば始めやすいという側面があります。在留資格に問題を抱える人々にとって、比較的就労しやすい環境にあると考えられます。 - コミュニティの存在
埼玉県などに形成されたクルド人コミュニティは、仕事を見つける上での重要なネットワークとなっています。同郷の仲間からの紹介などを通じて、解体業の仕事に就くケースが多いとみられます。 - 労働意欲と評価
解体業の雇用主からは、トルコ国籍労働者の真面目で勤勉な働きぶりや、仕事の丁寧さ、スピードを評価する声も上がっています。
運営者 稲垣今回の事件のように、外国籍労働者が関与するケースも散見されますが、これは個人の問題というより、彼らが置かれやすい不安定な雇用環境や、コンプライアンス教育が行き届かない業界構造の問題として捉えたほうがいいかもしれません。
解体後の不法投棄は無理なコストカットが原因
解体業者の不法投棄事件は、残念ながら近年でも頻繁に発生しています。なぜ、このような犯罪行為が後を絶たないのでしょうか。
その背景には、解体業界が抱える構造的な問題が深く関わっています。
- 業者間の価格競争
解体業界は参入障壁が比較的低いとされ、多くの業者がひしめき合っています。依頼主は複数の業者から見積もりを取り、もっとも安い業者を選ぶ傾向が強いため、業者は受注のために価格を下げざるを得ません。
しかし、解体工事の費用の中で、廃棄物の処理費用は3〜5割を占める大きなコストです。この部分を削らなければ、利益を確保できないほど追い詰められた業者が、不法投棄という安易な「コストカット」に手を染めてしまう可能性があります。 - 廃棄物処理費用の高騰
環境保護の観点から規制が年々強化され、最終処分場の残余年数もひっ迫しています。これにより、木くずやコンクリートガラ、廃プラスチックといった産業廃棄物の正規の処理費用は上昇し続けています。
廃棄物を処理すればするほどコストがかさむため、悪質な業者が「不法投棄」をして少しでも費用を浮かせようとする一因になっています。 - 重層的な下請け構造
元請けの建設会社から一次下請け、二次下請けへと仕事が流れていく中で、中間マージン(紹介料)が抜かれ、末端の実行業者に渡る工事金額は非常に少なくなります。
限られた予算の中で利益を出すため、下請け業者が不法投棄に走るケースは少なくありません。
運営者 稲垣日本の解体業界では、「人手不足の問題」や、「アスベスト対策などの専門知識が必要な割に利益率が低い」といった構造的な課題があります。この現状が、比較的安価な労働力として外国籍労働者を正規・非正規を問わず雇うことにもつながっています。
近隣住民や依頼主への影響
近隣住民への影響
解体業者の不法投棄は、近隣住民の生活環境や健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。主な影響は以下の通りです。
1. 健康被害のリスク
- 有害物質の飛散: 解体工事で発生する廃棄物には、アスベスト(石綿)や鉛、PCBなどの有害物質が含まれている場合があります。これらが適切に処理されずに不法投棄されると、飛散して大気中に舞い、吸い込むことで深刻な健康被害を引き起こす危険性があります。
- 悪臭・害虫の発生: 廃棄物が腐敗することで強烈な悪臭が発生し、日常生活に不快感を与えます。また、ゴミの山はネズミやハエなどの害虫・害獣の発生源となり、衛生環境を悪化させます。
2. 環境汚染
- 土壌・水質汚染: 廃棄物に含まれる有害物質が雨水などによって溶け出し、土壌や地下水、河川を汚染します。汚染された水は、飲み水や農業用水として利用できなくなるなど、生活に直接的な影響を及ぼす恐れがあります。
- 景観の悪化: 不法投棄された廃棄物は景観を著しく損ない、地域のイメージを低下させます。
3. 生活への影響
- 火災の危険: 投棄された廃棄物に引火しやすいものが含まれている場合、放火などによる火災のリスクが高まります。
- 経済的負担: 不法投棄された廃棄物の撤去には多額の費用がかかり、その費用は土地の所有者が負担しなければならない場合や、地域住民が収めた税金で賄われる場合があります。
- 治安の悪化: 一度不法投棄が行われると、「捨てても良い場所」という認識が広がり、さらなる不法投棄を誘発する悪循環に陥る可能性があります。
このように、解体業者の身勝手な不法投棄は、周辺住民の安全で快適な生活を脅かす重大な犯罪行為です。
依頼主への影響
解体工事を依頼した業者が不法投棄を行った場合、原則として廃棄物処理法上の「排出事業者」は工事を請け負った解体業者となるため、直ちに依頼主が罰せられる可能性は低いです。 しかし、特定の状況下では依頼主も重大な責任を問われる可能性があります。
以下のケースでは、依頼主が不法投棄の共犯と見なされたり、罪に問われたりする危険性があります。
- 不法投棄を知りながら容認・指示した場合
依頼主が、業者が不法投棄することを知りながら工事を依頼したり、見て見ぬふりをしたりした場合は、共犯として罰せられる可能性があります。 「安く済むなら不法投棄しても構わない」といった黙認も含まれます。 - 相場より極端に安い費用で契約した場合
廃棄物の適正な処理には相応のコストがかかります。 他の業者と比べて異常に安い見積もりを提示され、それを安易に受け入れた場合、「不法投棄などの違法行為をしなければ実現不可能な価格だと認識できたはずだ」と判断され、責任を問われる場合があります。 - 無許可の業者に処理を委託した場合
廃棄物処理法では、許可を得ていない業者に廃棄物の処理を委託すること自体が禁止されています。 依頼主は、契約する解体業者が「産業廃棄物収集運搬業許可」などを保有しているかを確認する義務があります。これを知らずに無許可業者に依頼してしまうと、依頼主自身が罰則(5年以下の懲役、1,000万円以下の罰金またはその両方)を受ける可能性があります。
第十二条第五項 その産業廃棄物(中略)の運搬又は処分を他人に委託する場合には、その運搬については第十四条第十二項に規定する産業廃棄物収集運搬業者その他環境省令で定める者に、その処分については同項に規定する産業廃棄物処分業者その他環境省令で定める者にそれぞれ委託しなければならない。
第二十五条 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の拘禁刑若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。(中略)
第二十五条一項六号 第六条の二第六項、第十二条第五項又は第十二条の二第五項の規定に違反して、一般廃棄物又は産業廃棄物の処理を他人に委託した者
引用:廃棄物の処理及び清掃に関する法律 |e-Gov 法令検索
運営者 稲垣解体業者選びを価格だけで安易に判断するのは非常に危険です。依頼主には、適正な許可を持つ信頼できる業者を選び、廃棄物が正しく処理されることを確認する責任があります。
廃棄物処理の課題と今後の対策
報道では犯人逮捕という事実が大きく扱われますが、解体業界には、さらに考えなければならない問題が潜んでいます。
廃棄物処理の課題
一つは、不法投棄に対するマニフェスト制度の抑止力の低さです。マニフェストとは、産業廃棄物が排出されてから最終処分されるまでの一連の流れを記録・管理するための伝票です。法律で運用が義務付けられており、業者は最終処理が完了した後、その写しを依頼主に渡すことになっています。しかし、悪質業者はこのマニフェストを偽造したり、そもそも発行しなかったりする手口を使います。依頼側もマニフェストの存在自体を知らない場合が多く、この制度が不正の抑止力として十分に機能していない実態があります。
二つ目は、元請け業者の監督責任の甘さです。下請け業者が不法投棄を行った場合、元請け業者も監督責任を問われます。しかし、コスト削減を優先するあまり、下請け業者の廃棄物処理プロセスまで厳しくチェックしていない元請け業者が存在するのも事実です。依頼主が契約するのは元請け業者ですから、その会社が下請け管理を徹底しているかどうかを見極める必要があります。
今後の対策
今後の対策として、まずは監視体制の強化とデジタル化です。ドローンによる上空からの監視や、運搬車両へのGPS搭載義務付け、AIによる不審車両の検知など、テクノロジーを活用した不法投棄対策を行う必要があります。これらのデジタル化をすでに進めている業者や地域もあります。また、現状使用している業者が多い紙のマニフェストから、電子マニフェストへ移行することで廃棄物の流れをより管理しやすくなるでしょう。これらデジタル化を進めることで、不法投棄対策につながると考えています。
【実際にデジタル化を推進している企業例】
- 参考:自動運用型ドローンによる不法投棄監視手法の実証事業を三重県で実施|プロドローン
- 参考:収集・運搬車輛を運行管理するGPSシステム|株式会社ナガタ
- 電子マニフェストとは|公益財団法人日本産業廃棄物処理振興センター
次に、依頼主の業者選びに関する周知徹底が必要と考えられます。わからないことが多い解体工事について、行政や業界団体による説明の強化があれば、依頼主側の意識が向上し、悪質な業者が排除されやすい市場環境が作られていくことが期待されます。
優良業者の見極め方
運営者 稲垣ここまでの解説を踏まえて、不法投棄など法を犯す悪徳業者の被害に遭わないためのチェックポイントをお伝えします。
業者選びのチェックポイント
以下は、業者選びの際に最低限チェックしておきたい項目です。
- 必要な許可証を保有しているか
解体工事を行うには「建設業許可(解体工事業)」または「解体工事業登録」が必須です。さらに、自社で廃棄物を運搬する場合は「産業廃棄物収集運搬業許可」も必要です。これらの許可証の提示を求め、許可番号が有効かを確認しましょう。 - 見積書の内訳が明確か
「解体工事一式」といった大雑把な見積書を出す業者は危険です。「建物本体工事費」「仮設費用」「廃棄物処理費」など、項目ごとに内訳が細かく記載されているかを確認してください。とくに「廃棄物処理費」が相場より極端に安くないか確認し、「どのような種類の廃棄物がどれくらいの量あるのか」「単価はいくらか」といった点まで明確にしてもらうと安心でしょう。 - マニフェストの説明をしっかり行うか
業者に「工事完了後、マニフェストの写しはいただけますか?」と質問してみてください。マニフェストは、産業廃棄物が処理されるまでの流れを記録・管理するための伝票で、解体業者が依頼主に写しを渡すのは当然の流れです。この質問に対し言葉を濁したり、面倒くさそうな態度を見せたりする業者には注意が必要です。
情報収集の方法
- 複数の業者から相見積もりを取る: 最低3社からは見積もりを取り、金額だけでなく、担当者の対応や説明の丁寧さ、専門知識を比較検討しましょう。
- 自治体の窓口に相談する: 多くの自治体では、産業廃棄物の適正処理に関する相談窓口を設けています。許可業者のリストなどを提供してくれる場合もあります。
- インターネットで口コミや実績を確認する: 会社のウェブサイトで過去の施工実績を確認したり、第三者の口コミサイトを参考にしたりするのも有効です。ただし、情報の信頼性は慎重に見極める必要があります。
▼スッキリ解体では優良な解体業者の選び方について徹底解説した記事もございます。よかったらあわせてご確認ください。

まとめ:トルコ国籍の解体業者不法投棄ニュースについて
今回の不法投棄事件は決して他人事ではありません。解体工事を依頼する人や近隣に住むすべての人が当事者になる可能性があるため注意が必要です。最後にこの記事の要点をまとめます。
- 不法投棄はコスト削減を狙う悪質業者の犯罪行為であり、その背景には業界の厳しい価格競争や廃棄物処理費の高騰がある。
- トルコ国籍解体業者と不法投棄の関係は、彼らが置かれやすい不安定な雇用環境、コンプライアンス教育が行き届かない業界構造の問題も影響している可能性がある。
- 廃棄物処理法上、解体工事で出るゴミの排出事業者責任は、「工事を依頼された業者(元請け)」にあるが、依頼主も発注者責任を問われ、撤去費用を負担するリスクがある。
- 信頼できる業者を選ぶには、「許可証の確認」「詳細な見積書」「マニフェストの説明」の3点が重要な判断基準となる。
解体工事を依頼する際、決して安くはない費用を抑えることは大切ですが、それ以上に法律を守り、周辺環境に配慮し、最後まで責任を持って仕事をやり遂げてくれる誠実な業者を選ぶことが、あなた自身と社会を守ることに繋がります。
ぜひ参考にしてみてください。

