【解体ニュース解説】解体工事業の倒産が過去20年で最多ペースに

解体工事業倒産の解体ニュース サムネイル
稲垣 瑞稀

この記事の案内人・編集長

稲垣 瑞稀

解体業界で6年間働く中で感じた『正しい情報が届かない』というもどかしさから、全記事の企画・編集に責任を持っています。専門家への直接取材を通じ、業界経験者として分かりやすい情報提供をお約束します。

この記事でわかること
  • 解体工事業の倒産が過去最多ペースで急増している理由
  • 「倒産急増」が解体を予定している人に与える影響
  • 今後、解体工事を検討する際に準備しておくべきこと

この記事では、解体工事業の倒産が過去20年で最多ペースとなっている背景や、これから解体を検討している方への影響、さらに工事の途中で依頼した業者が倒産してしまった場合の対処法について専門家の視点で解説します。

目次

ニュースの概要

公開日:2025年11月22日

2025年1-10月の解体工事業の倒産(負債1,000万円以上)は、同期間では過去20年間で最多の53件(前年同期比20.4%増)に達した。このペースで推移すると、20年間で年間最多だった2024年の59件を抜いて、過去最多を更新する勢いだ。

株式会社東京商工リサーチ調べ 「解体工事業」倒産件数推移のグラフ

引用:解体工事業の倒産が最多ペース ~ 「人手と廃材処理先が足りない」、現場は疲弊~|株式会社東京商工リサーチ

東京商工リサーチの調査によれば、2025年1月から10月までに発生した解体工事業の倒産件数は53件となり、過去20年間で最多を更新するペースで推移しています。これは前年同期比で約20%増という高い伸びを示しており、業界の深刻な状況が浮き彫りになっています。

今回の倒産増加は、単一の要因では説明できません。慢性的な人手不足に伴う労務費の高止まり燃料費の高騰など、複数の負担が同時に企業を圧迫しています。特に経営基盤の弱い中小事業者や、より規模の小さな零細事業者では、こうしたコスト増に耐えきれず倒産に追い込まれるケースが目立っています。

解体工事業の倒産が過去最多ペースで急増している3つの理由

1. 受注不振

倒産原因の最大要因となっているのが「受注不振(販売不振)」です。倒産件数全体の約7割(67.9%)を占めており、件数にして36件(前年同期比12.5%増)に上ります。

市場全体では再開発需要があるものの、業者間の競争激化などにより、資本金1,000万円未満の小・零細企業(倒産全体の約8割)が仕事を確保できず、資金繰りに行き詰まるケースが増えています。

原因別では、受注不振(販売不振)が36件(前年同期比12.5%増)と7割近く(構成比67.9%)を占めている。形態別では、破産が52件(同98.1%)で、資本金別では個人企業を含む1千万円未満が41件(同77.3%)と約8割に達する。負債額では、10億円以上はなく、1億円未満が35件(同66.0%)だった。以上のことから、資金力の乏しい小・零細事業者の苦境が浮かびあがる。

引用:解体工事業の倒産が最多ペース ~ 「人手と廃材処理先が足りない」、現場は疲弊~|株式会社東京商工リサーチ

実際、2025年10月には兵庫県尼崎市の解体業者「中村興業株式会社」が資金繰り悪化により自己破産の準備に入ったことが公表されました。同社は資本金500万円の中小規模事業者であり、こうした事例は決して珍しくありません。

中村興業株式会社倒産 会社データ

2. 解体コスト(人件費・燃料費など)の高騰

「解体コストの上昇」も、倒産増加を招く要因です。建設業界全体で慢性的な人手不足が続くなか、「2024年問題(働き方改革関連法による時間外労働の上限規制)」の影響も重なり、職人の人件費は上昇が続いています。国土交通省が公表した「公共工事設計労務単価(2025年3月適用)」では全国平均が2万4,852円となり、13年連続で引き上げられました。

国土交通省が公表した「公共工事設計労務単価(2025年3月適用)」のグラフ

また、ウクライナ情勢を背景とした原油価格の高騰は、重機の燃料費や廃棄物運搬にかかる輸送費を押し上げています。

原油価格推移 グラフ
運営者 稲垣

解体コストが高騰すると、もともと利益率の高くない解体業界では経営への負担が一気に大きくなります。特に財務基盤の弱い中小業者ではコスト増を吸収しきれず、結果として経営体力を削られてしまうのが現状です。

3. 廃材処理先の確保が困難

近年、解体業者の経営を圧迫する新たなリスクとして、コンクリート片などの「廃材処理問題」が浮上しています。

解体工事費の約3〜4割を占める産業廃棄物の処理費用は、環境規制の強化工法の多様化処分場の受け入れ能力の低下により、特に都市部で搬入先の確保が難しくなっています。そのため、遠方の処理施設まで運ばざるを得ず、輸送費や人件費が増加する悪循環が生まれています。

さらに廃材処理が滞ると現場作業が一時停止し、工期遅延が発生することもあります。これが新たな経営リスクとなり、解体業者の経営をさらに追い詰めています。

解体を予定している方への影響と、解体業界における今後の予測

解体を予定している方への2つの影響

解体業者の倒産は決して他人事ではありません。特に将来の解体工事を計画している方にとっては、この問題が主に2つの影響を及ぼす可能性があります。

1. 解体費用の上昇

最も直接的な影響は、解体費用の高騰です。前述の通り、人件費・燃料費・廃棄物処理費などの工事に関わるあらゆる費用が上がっており、健全な経営を続ける企業はこれらのコストを見積もりに上乗せせざるを得ません。

「あんしん解体業者認定協会」の初田理事は、11万件以上の解体相談に対応してきた経験から次のように説明しています。

初田 秀一 現場解説

一般社団法人あんしん解体業者認定協会 理事・解体アドバイザー

初田 秀一 (はつだ しゅういち)

解体アドバイザー歴15年、相談実績は11万件以上。お客様の不安を笑顔に変える現場のプロフェッショナル。「どんな些細なことでも構いません」をモットーに、一期一会の精神でお客様一人ひとりと向き合い、契約から工事完了まで心から安心できる業者選定をサポート。この記事では現場のリアルな視点から解説を担当。

理事 初田秀一

解体費用は物価と同じように変動しており、数年前と比べても「はっきりとわかるレベル」で値上がりしています。コスト高騰の影響を踏まえると、解体工事を先延ばしにすることで、さらに費用が高額になる可能性もあります。

2. 悪質業者との遭遇率上昇に伴う罰金リスク

倒産が増える状況では、悪質業者が暗躍しやすくなります。具体的には、経営難に陥った業者は最後の資金確保のために安全対策を省略したり、廃棄物を不法投棄したり、倒産寸前で無理な受注をしたりするケースが考えられます。そのため解体工事を依頼する際には、これまで以上に慎重な業者選びが求められます。

運営者 稲垣

もし工事の依頼主自身が不法投棄を黙認した場合、法律上の責任を問われ、30万円以下の罰金が科される可能性があります。

第十条 対象建設工事の発注者又は自主施工者は、工事に着手する日の七日前までに、主務省令で定めるところにより、次に掲げる事項を都道府県知事に届け出なければならない。

(中略)
3 都道府県知事は、第一項又は前項の規定による届出があった場合において、その届出に係る分別解体等の計画が前条第二項の主務省令で定める基準に適合しないと認めるときは、その届出を受理した日から七日以内に限り、その届出をした者に対し、その届出に係る分別解体等の計画の変更その他必要な措置を命ずることができる。

引用:建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律 第十条第三項|e-Gov法令検索

第五十条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 第十条第三項の規定による命令に違反した者

引用:建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律 第五十条第一項|e-Gov法令検索

解体業界の今後の予測

今後は、技術力や営業力に乏しく価格競争だけで生き残ってきた小規模事業者が、さらに厳しい局面に直面すると考えられます。その結果、業界内では M&A(合併・買収)が進み、体力のある中堅・大手企業への集約が加速する可能性があります。一方で、適正価格で質の高いサービスを提供できる健全な企業にとっては市場シェアを拡大する好機とも言えます。

依頼主にとって健全な業者が残ること自体はメリットですが、今は解体業界全体が大きく揺れ動いている時期にあたるため注意が必要です。倒産や経営不安のある業者もまだ存在しており、安さだけで契約すると、工事途中の中断・不適切な施工・不法投棄といったリスクを抱える恐れがあります。

そのため、企業の信頼性・実績・財務基盤などを総合的に吟味する姿勢が求められる時代になっています。また、適正価格で工事を行う優良企業ほど、見積もりがやや高めになる傾向がある点も理解しておきましょう。

【FAQ】解体業者の倒産に関するよくある質問

解体工事中に施工業者が倒産したらどうなるの?

工事はその時点で中断され、現在の契約はキャンセル扱いとなるケースがほとんどです。残りの工事は、新たに別の業者へ依頼する必要があります。

まずは現場の写真を撮って「どこまで進んだか」を記録し、「払ったお金」との過不足を精算しますが、工事の遅れなどの損害金はほぼ戻ってこないと考えておくべきです。

現場の物は勝手に触ったり片付けたりせず、必ず破産手続きの担当者(管財人)の許可を得てから進めることが大切です。

優良な解体業者の見分け方は?

優良な解体業者を見極めるうえで重要なのは、「必要な許可をきちんと取得していること」「損害賠償保険に加入していること」「過去に重大な違反歴がないこと」といった基本条件を押さえておくことです。

以下の記事では、優良業者を選ぶためのチェックポイントを18項目にまとめて詳しく解説しています。業者選びで失敗したくない方は、ぜひ参考になさってください。

まとめ:解体工事業の倒産が過去20年で最多ペースについて

最後に解体工事業の倒産動向を踏まえ、近い将来に建物の解体を検討している方が取るべき具体的なアクションを整理します。

1. 業者選びのチェックポイントを厳格化する
価格だけで判断するのは避け、安全管理や法令遵守にしっかり取り組む優良業者を選ぶことがトラブルのリスクを減らします。以下の記事で業者選びのポイントを確認し、総合的に評価しましょう。

2. 信頼できる情報源を活用する
業者からの情報だけでなく、客観的な情報を集めることが重要です。

  • 公的機関への相談:各自治体の建築指導課や消費生活センターはトラブル時の相談窓口となります。
  • 直接対話での見極め:見積もりを依頼した際には担当者と直接会い、「質問への回答が的確か」「対応は誠実か」「リスクについてもしっかり説明してくれるか」など、人となりや会社の姿勢を見極めましょう。

3. 資金とスケジュールに余裕を持つ
現在の業界状況を踏まえると、解体計画は余裕を持って進めることが賢明です。

  • 予算の確保:地中埋設物の発見などの予期せぬ追加費用に備え、少し多めに予算を見ておくと安心です。
  • スケジュールの柔軟性:人手不足の影響で、優良業者ほど着工まで数ヶ月待ちになるケースがあります。解体後の土地活用も含め、ゆとりのあるスケジュールを立てることで、悪質業者に急いで依頼してしまうリスクを避けられます。

なお、スッキリ解体では「家の解体費用」について徹底解説した記事もございます。あわせてご確認ください。

また、解体工事のスケジュール感を確かめたい方は、以下の解体工事の流れ解説をご確認ください。

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この記事を書いた人

「一個人の責任と情熱で、本当に役立つ情報を発信したい。」

『スッキリ解体』運営責任者。解体業界で6年間働く中で感じた『正しい情報が届かない』という現状を変えるため、全記事の企画・編集に携わり、責任を持って情報発信を行う。

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