
解体工事をする前って、家屋調査は必要なの?
解体工事をする際の家屋調査は、法律で義務付けられていません。
ですが解体工事が原因で近隣住民との間で起こるトラブルを未然に防ぐためにも、「家屋調査」は非常に重要な役割を果たします。
この記事では、家屋調査の基礎知識、家屋調査の流れや費用相場、調査会社の選び方や依頼しなかった場合のリスクなど、役立つポイントを解説します。家屋調査を依頼するか悩んでいる方も、ぜひご参考になさってください。
・家屋調査の対象は解体する建物ではなく、隣家など周辺の建物
・調査費用は施主が負担、ただし近隣から家屋調査を依頼された場合は近隣住民が負担する
・近隣の状況を念入りに確認する場合、家屋調査は工事前だけでなく工事後にも実施が可能


中野達也。一般社団法人あんしん解体業者認定協会理事。解体工事業の技術管理者であり、解体工事施工技士を保有。2011年に解体業者紹介センターを鈴木佑一と共に創設。2013年に一般社団法人あんしん解体業者認定協会を設立し、理事に就任。めざまし8(フジテレビ系列)/ひるおび(TBS系列)/ 情報ライブ ミヤネ屋(日本テレビ系列)/バイキングMORE(フジテレビ系列)など各種メディアに出演。


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解体工事前の家屋調査はなぜ必要?


家屋調査とは、調査会社が解体工事前の現場周辺にある家屋や建物などに対して行う現状調査です。調査員が、解体予定の家の周辺を外観や室内の状況を写真やデータで記録します。
家屋調査の対象は解体工事前の家ではな、その家の周りにある近隣の家を調査することです。
よく間違えられがちな「現地調査」とは意味が異なります。
現地調査とは
現地調査は、解体工事をする前に解体業者が現地の建物や敷地の現状を確認する作業です。それにより、工事の施工方法を決めたり見積もりを正確に出したりできます。
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家屋調査の目的
家屋調査の主な目的は、解体工事による近隣への影響を最小限に抑え、トラブルを未然に防ぐことです。建物の構造や劣化状況、周辺環境を把握し、正確な見積もりや安全な工事計画、近隣対策の策定が可能になります。



工事前後の状況を記録することで万が一被害を訴えられても、解体工事が原因ではないと証明できれば補修の責任を負う必要はありません。
また必ずしも起こるとは限りませんが、解体が原因で隣家に被害が生じる場合もあるため、事前調査は非常に重要です。
解体工事による被害の具体例
【ヒビ割れ・亀裂】
・外壁や内壁に新たなヒビ割れが生じる
・既存のヒビ割れが拡大する
【破損・欠損】
・窓ガラスに亀裂が入る
・雨どいが変形する
・外壁や基礎の一部が欠ける
【傾斜・沈下】
・建物の一部が傾く
・ドアや窓の開閉が悪くなる
【付帯物の損害】
・ブロック塀が倒れる
・庭木が折れる
・カーポートがへこむ





わわっ、こんなトラブルは起こしたくないね……お隣さんとの仲にも亀裂が入っちゃいそうだよぉ
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家屋調査を実施する基準
家屋調査を実施する基準は、その近隣にある建物の状況や環境によります。以下の条件に当てはまると、家屋調査の必要性が高いでしょう。
- 解体業者から家屋調査を提案された
- 隣の家から「家屋調査をしてほしい」と頼まれた
- マンションやビルのような大規模で頑丈な建物を解体する
- 解体する家が密集地にある
- 長屋※の切り離し工事をする
※長屋
日本の伝統的な集合住宅の一種で、1つの建物の中に複数の世帯が横に並んで暮らす形式の住宅を指す。


家屋調査にまつわる長屋の切り離し工事の事例
依頼主は三軒長屋のうち一軒を解体し、空いた土地を駐輪場や駐車場としての活用を検討していました。ところが、解体業者による現地調査の際、境界杭※のうち一つが失われていると判明しました。そのため解体可能な範囲の正確な境界が不明となり、工事を進めることが困難な状況となりました。
※境界杭
土地の境界点を明確にするために設置されるもの。





長屋って外から見ると本当に壁がくっついてるんだね!確かに、これだとどこまでがお隣の範囲なのか判断が難しそう
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家屋調査を行うタイミングは、解体工事の見積もりを依頼する前に行うのが一般的です。事前に調査することで、解体業者は工事計画をスムーズに進められ、より正確な見積もりが可能になります。
なお、解体工事後に家屋調査の実施も可能です。
解体工事後の家屋調査
工事後の家屋調査は、工事前の調査結果と比較して、近隣への影響(ひび割れ・地盤沈下など)があったか確認するために行います。トラブル発生時には、工事前の記録が原因特定や補償対応に役立ちます。
ただし費用がその分かかるため、実施の必要性については事前に調査業者と相談しましょう。



工事前だけでなく工事後も念入りに家周りの状況を確認することで、近隣の解体工事への理解と納得を得やすくなりますね。
家屋調査をする範囲と調査方法
家屋調査では、具体的に建物のどこをどのように調査を行うかが重要です。



「この部屋はどうしても人に見られたくないんだけど……」って場合、断ってもいいの?
家屋調査は基本的に全室(浴室やトイレを含む)が対象ですが、義務ではないためすべての部屋を調査するとは限りません。特定の部屋の調査を断ることも可能です。
また、クローゼットや押し入れなどのプライベートな空間は、原則として調査対象外なのでご安心ください。なお入室を希望しない部屋がある場合は、事前に調査会社へ相談しておくとスムーズです。
外部調査と内部調査
建物の外部と内部によって、調査の対象が異なります。
外部調査 | 内部調査 |
土地や建物の高低測量 基礎の亀裂調査 柱や塀などの1mあたりの傾斜 外壁に亀裂や破損の有無 外溝や塀、倉庫、門扉などの損傷の有無 | 水平・垂直調査 床、敷居などの1mあたりの傾斜 内壁・天井の亀裂の有無 天井と壁の境目にある隙間 建て付け 階段の損傷 床鳴り 漏水跡 |



マンションやアパートなどの集合住宅の場合は、共有部分※も調査対象となります。
※共有部分
玄関ホール・廊下・階段・エレベーター・屋上などを指す。
家屋調査の調査方法
家屋調査の調査方法は、主に以下の4つです。
・高低調査
隣接する建物の地盤面や建物全体の高さ、特定の部位(玄関ポーチ、窓枠など)の高さなどを工事前と工事後で比較するために行います。これにより、工事による地盤沈下や隆起、建物の傾斜などを把握できます。
・基礎調査
隣接する建物の地盤面や建物全体の高さ、特定の部位(玄関ポーチ、窓枠など)の高さなどを工事前と工事後で比較するために行います。これにより、工事による地盤沈下や隆起、建物の傾斜などを把握できます。
・水平調査
隣接する建物の基礎部分の状態を詳細に記録し、工事による影響(ヒビ割れ、沈下、変形など)がないかを確認するために行います。基礎は建物を支えるもっとも重要な部分であり、わずかな変化でも注意が必要です。
・垂直調査
隣接する建物の壁や柱などが垂直に保たれているかを確認し、工事による傾きがないかを把握するために行います。垂直方向の歪みは、姿勢が悪くなったりめまいが起きたりなどの健康被害につながる恐れがあります。
調査をする項目が多いほど安心材料となりますが、その分費用は高くなる傾向にあります。そのため、事前に業者へ調査の範囲を確認するのがよいでしょう。
解体工事による被害の原因
解体工事の際、重機が隣家に直接当たるわけではないのにどうしてヒビ割れなどの工事被害が起きてしまうのでしょうか。それには、「振動」と「地盤」が大きく関わっています。
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振動
解体工事では重機を使って壁や基礎を壊すため、大きな振動が発生します。この振動は地盤を通じて隣家に伝わり、とくに古い建物や地盤の弱い場所では、ひび割れなどの被害が起きやすくなります。また、構造物が崩れる際の衝撃も振動となり、周囲に影響を与える場合があります。
地盤
建物を撤去すると、地盤にかかっていた圧力がなくなり、膨張や隆起が起きる場合があります。基礎や地下構造物の撤去によって土が緩み、地盤が不安定になる可能性があります。とくに埋め戻しが不適切な場合、後から沈下するリスクもあります。



振動と地盤が解体工事にこんなに関係するなんて、知らなかった~!
とくに老朽化した建物は構造が不安定なため、解体時の振動や騒音が通常の建物よりも大きく伝わりやすくなります。その結果、もともとあった小さなヒビが振動によって拡大し、大きなヒビ割れになることで発覚する場合があります。
家屋調査の費用相場と節約方法


家屋調査費用の相場
家屋調査の費用は、建物の種類や構造、調査項目によって価格が変動します。調査対象となる建物の規模が大きかったり、調査する項目が多かったりするとそのぶん高額となります。費用の主な内訳は、調査項目ごとの料金、報告書作成費用、交通費などになります。
以下は建物の構造ごとの費用相場です。
建物の構造 | 費用相場 |
木造 | 7万5,000円~ |
鉄骨造 | 10万円~ |
鉄筋コンクリート造 | 10万円~ |
次に、実際の家屋調査費を含んだ解体工事の見積書です。




1軒あたりの費用は98,000円、2軒で196,000円と記載されています。
なおこの見積書は外部・内部の両方を調査した場合の料金です。外部のみを対象とした調査であれば、1軒あたり4万円から対応している業者もあります。このように調査範囲によって調査費用が変わります。
また調査対象の軒数が多い場合、割引に応じてくれる業者もあります。
家屋調査費の負担先
家屋調査の費用は、解体工事の依頼主(施主)が負担します。支払先は家屋調査を行う調査会社が一般的ですが、解体工事の見積書の中に家屋調査費用が含まれている場合は解体業者に支払うことになります。
また、現場近隣の住民が家屋調査を依頼する場合があります。その場合は、調査を依頼した近隣住民が家屋調査費用を負担します。
家屋調査費用を抑えるための3つのポイント
1. 複数の業者から見積もりを取る
必ず複数の調査会社に見積もりを依頼し、比較して検討しましょう。同じ調査内容でも、会社によって費用が異なる場合があります。 見積もりを比較する際には、調査範囲や調査方法、報告書の内容、追加費用の有無などを細かく確認することが大切です。
「この調査内容だと、大体これくらいの費用が目安なんだな」という感覚をつかめれば、極端に高い業者や逆に安すぎる業者を見分けられます。複数の見積書を比較して、費用と調査内容のバランスを見極め、より価格が適正で信頼できる業者を選びましょう。
なお家屋調査を専門とする調査会社を探す際は、「〇〇(現場の地名) 工事前 家屋調査」のキーワードで検索するのが良いでしょう。
2. 調査項目や調査方法を絞る
家屋調査にはさまざまな項目がありますが、すべてを網羅する必要はありません。近隣建物の状況に応じて、影響が出そうな部分や気になる箇所に絞って調査を依頼すれば費用を抑えられます。たとえば、住宅内部を省き、外まわりだけに限定すればコストを削減できます。
ただし、はじめての依頼では必要な項目の判断が難しいため、迷ったら調査業者に相談しましょう。逆に、説明が不十分だったり、不必要な項目を追加しようとする業者には注意が必要です。
また必要な調査を省略すると、トラブル発生時に証拠が不十分となって不利になる可能性があります。とくに写真やデータなどの調書は重要な証拠となるため、省略せずしっかり記録を残すことが大切です。
3. 地元の調査会社を選ぶ
調査会社が現場の近くにあれば、移動にかかるガソリン代や高速料金などの交通費を抑えられます。調査費用は交通費だけでなく、日程調整のしやすさや地元での対応力、他社との競争状況など、さまざまな要素で決まります。
また近隣であれば機材や人員の移動が効率的になり、調査会社は1日に複数件の調査が可能になります。一方、遠方の現場は移動に時間がかかり、対応件数が限られるためコストが高くなる傾向があります。



もしかしたらインターネットには載っていない地元の調査会社もあるかもしれません。その場合は、解体業者にオススメの調査会社がいないか相談するのも手です。


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家屋調査の流れ


1.調査会社選びと見積もり依頼
家屋調査を行ううえで、とくに重要なのは信頼できる調査会社を選ぶことです。
優良な調査会社を見極めるために、以下のポイントを参考にしてみてください。
・近隣対応の実績が豊富か
解体に伴う近隣トラブルへの経験がある業者は安心です。過去の対応事例や、住民への説明方法を確認しましょう。
・見積内容を詳しく説明してくれるか
建物の規模や調査範囲で費用は変わります。見積書に内訳が明記され、追加費用の可能性も説明される業者を選びましょう。
・賠償責任保険に加入しているか
調査中の事故に備えて、請負業者賠償責任保険などに加入していると安心です 。
・口コミや評判をチェック
公式サイトやGoogleマップのレビューで、「説明が丁寧だったか」「対応は誠実だったか」を確かめて、信頼できる業者を選びましょう。
なお、主な家屋調査の依頼先は以下の3つです。
- 専門の調査会社
- 一級建築士
- 近隣家屋調査士



上記以外にも、解体業者がお付き合いのある業者を紹介することもあります。もちろん、ご自身でネット検索して調査会社を見つける手もありますよ。
「土地家屋調査士」と「近隣家屋調査士」の違い
「土地家屋調査士」は、名前だけで見ると解体工事前の家屋調査を行う専門家だと誤解してしまうかもしれません。土地家屋調査士は、主に登記申請を目的とした建物や土地の調査を専門としています。そのため解体工事に伴う家屋調査を依頼しても、対応してもらえない場合があります。
一方、「近隣家屋調査士」は、解体工事を予定とした建物の周辺にある家屋や構造物に対し、工事による影響が生じる可能性を事前に調査・判断する役割を担っています。
2.家屋調査の実施


家屋調査を依頼する業者が決定した後、家屋調査の対象となる近隣住民へ家屋調査の目的や内容について事前に説明し、協力していただくよう依頼します。調査日は、業者と近隣住民で日程を話し合って決定します。
家屋調査の当日、2人1組の調査員が実際に建物へ訪問し、建物の構造や劣化状況、傾き、周辺環境などを詳しく調査します。調査員は、下記のような専門性が高い測定機器を使用して調査を行います。
・垂直測傾器(バーチカル測傾器)
壁や柱にあてて、建物の傾斜角度をミリ単位で測定する器具です。工事前後で正確な傾きを記録し、変化を比較できます 。
・下げ振り
天井から糸に重りを吊るし、鉛直線を確認する伝統的な道具です。柱や壁の傾きを目視でチェックし、測傾器と併用すると精度が向上します 。
・打診棒
壁や床を軽く叩いて、浮きや剥がれ、中空状態を音で判定する棒状の器具です。「コンコン」とした音で異常箇所を見つけ、劣化の早期発見に役立ちます。
家屋調査の所要時間は、1軒にあたり大体1~2時間です。ただし、家の規模や状況によって異なります。
立ち会いは家屋調査対象となる住民の方で、依頼主や解体業者は不要となります。
なお、家屋調査の主な内容は以下となります。
- 調書や野帳を作成
- 写真撮影による記録
- 測量作業
- 最終確認
3.調査結果の報告
調査の完了後、調査業者は依頼主や解体業者に調査報告書を渡します。
なお、調査報告書の内容は以下です。
- 調査日時
- 調査方法
- 調査箇所
- 調査結果(写真付き)
報告書には、建物の状況や工事の影響が出そうな部分などが詳細に記載されているため、解体工事の前に不安要素を把握できます。
また、調査の対象となった近隣住民の方に最終確認を行います。この際、近隣住民の方にとって不安に思う点をヒアリングし、解体業者はより安全に工事を進められます。確認後、依頼主は必要書類に署名と押印して完了となります。
業者から家屋調査の報告書の説明を受ける際には、こちらからも不明な点や疑問点がある場合は気兼ねなく質問しましょう。



解体工事が始まってから気づきがあっても手遅れになってしまう場合も。少しでも不安な点があれば確認することが大切です。
【トラブル実例】家屋調査をしなかった結果、解体工事後にお隣から苦情が来た





あの時、解体工事をする前に家屋調査をしておけばよかった……
そんな後悔したくありませんよね。ここでは、実際に起きた解体工事による隣家の工事被害の実例をご紹介いたします。
新築メーカーの現場監督が、新築工事予定である現場の近隣住民の方へ挨拶回りをしていました。そこで現場の裏に住む鈴木さんから、「お隣の解体工事の振動が原因でヒビが入った」という事実が発覚されたそうです。
この事例を詳しく見る
その話は依頼主である小野さんに伝えられ、すぐに解体業者が現場で確認したところ、家の内側の天井に亀裂が入っていました。鈴木さんは、近隣挨拶に来られた際に案内状をいただいていたが捨ててしまい、ヒビに気づいた時点では連絡を取れなかったようです。
小野さんは事前に解体業者から「解体工事が原因で発生したヒビは賠償保険が下りない」との説明を受けていたため、賠償保険が適用されない可能性が高いことは理解されていました。
しかし鈴木さんとは今後もご近所付き合いが続くため、もし解体工事が原因である可能性が高いのであれば解体業者に補修をお願いしたいと考えました。


解体業者側は社内で協議した結果、補修の対応はできないとの判断を下しました。
しかしその後、小野さん・鈴木さん・解体業者の三者で話し合いを行いました。最終的には、天井クロス(壁紙)の破れた部分について、継ぎ目が目立たないように解体業者が補修作業を行い、問題を解決できました。
上記の実例は、結果として工事被害による近隣トラブルを回避できました。しかし実際に隣家でヒビ割れ被害が出たにもかかわらず、なぜ「賠償保険が下りない」のでしょうか。それは、解体工事が原因である証拠がなければ保険会社が支払いを判断できないからです。
今回は、解体業者の配慮のおかげで補修の負担先のもめごとを避けられました。こうした配慮がなかった場合、近隣住民との間でトラブルが長期化するケースも少なくありません。
なお、たとえ解体工事が原因であると証明できない場合でも、民法第709条に基づき損害賠償責任を負うのは施工業者であり、依頼主が賠償を負うことはありません。
民法第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
引用:民法第709条 / WIKIBOOKS



もし業者が誠実に対応せず放置した場合は、依頼主が一時的に負担する可能性も否定できません。そのため、信頼できる業者を選ぶことが非常に重要です。
家屋調査をしなかった場合のリスク


訴訟・損害賠償請求のリスク
どんなに業者が配慮しながら解体工事をしても、結果的に近隣の建物に損害を与えてしまう可能性があります。家屋調査をしないことには、「解体工事が原因で損害が起きたとは言えない」と立証するのは難しいです。
過去に近隣住民から損害賠償を請求された事例があります。
福岡県中央市、隣接地の住民が市と施工者に対して計約9,500万円の損害賠償を請求
校舎の解体工事で既存杭を引き抜いたことで、自宅と貸家に沈下が生じた──。福岡市中央区にある市立平尾小学校の隣接地に住む夫婦が2021年4月、市と施工者に対して計約9,500万円の損害賠償を求める訴えを福岡地方裁判所に起こした。このニュースをさらに詳しく見る
問題となったのは、校舎などの解体工事と、その跡地で実施した講堂兼体育館の新築工事。解体工事は橘組(20年に自己破産)、新築工事は昭栄建設・西鉄建設・末永工務店共同企業体(JV)が手掛けた。
訴状によると原告は、「解体工事の際の既存杭の引き抜き」と「敷地の境界に昭栄建設などが施工した擁壁」の2つが沈下の原因だと主張。工事の影響で自宅が約5cm、貸家が約13cm沈下したとしている。外壁に亀裂が生じたり、汚水が逆流したりするなどの被害もあったという。施設の発注者である市教育委員会施設課は日経アーキテクチュアの取材に対して「係争中のため工事の詳細などについては回答を差し控える」とした。(本文・画像引用:既存杭の撤去で近隣トラブル、期待の「再利用」も課題山積|日経クロステック)
建物の沈下の原因の一つと言われる「既存杭」については、工事してはじめて発覚したものかもしれません。それだけ解体工事には、近隣の家を巻き込む可能性があるといえるでしょう。今回の「校舎の解体工事」のような規模がそれなりに大きい場合には、家屋調査を実施するのが得策です。
家屋調査は、「解体工事による損傷を近隣の建物に与えた場合、補修する」との証明でもあります。
工事の中断や遅延のリスク
解体工事中に予期せぬ問題が発生した場合、工事が中断したり遅延したりする可能性があります。これまでに説明したように、解体工事が原因で近隣の建物にヒビ割れや損傷が生じるケースがあります。それが解体工事によるものなのか、もともとあった損傷なのかを判断するには、工事前に記録が不可欠です。万が一、近隣住民から苦情が寄せられたり損害賠償を請求してきたりした場合、調査や補償の対応が完了するまで工事が一時中断となる可能性があります。



例えばだけど、お隣が解体工事をして今まで気づかなかった壁のヒビ割れにはじめて気づく、なんてこともありそうだよねぇ!
そのような場合、家屋調査をしていないと本当に解体工事が原因かどうか証明するのが難しいです。補償の責任を誰が負うかで揉めて、結果的に工事がなかなか進まなくなる可能性があります。
工事前に家屋調査を実施していれば「元々の状態」に関する証拠(写真や書面による記録)が残っているため、不当な場合であれば賠償請求を防ぐことが可能です。
しかし家屋調査を行っていない場合には、補償の範囲をめぐって長期間にわたる話し合いが必要となる場合もあります。その結果、工事が完全に停止し、スケジュールが大幅に遅延するケースも少なくありません。
家屋調査に関するよくある質問
「家屋調査に協力してほしい」と言われたけど、拒否してもいいの?
ここでは家屋調査を依頼する人ではなく、解体予定の現場近隣に住む「家屋調査への協力を依頼された人」から寄せられた質問をご紹介します。
私は鉄筋コンクリート造の賃貸住宅を2棟所有しています。そこの近くにある大学が解体することになったので、家屋調査をさせてほしい旨の手紙が届きました。
2棟のうち片方が対象で平面図の提出を要求されましたが、こういったことははじめてなので拒否できるのか分からず困っています……。



いきなり「家屋調査させてください」って通知が来たら、びっくりするかも。資料の準備もしなくちゃいけないし、ちょっと手間だなぁ……。
家屋調査への協力は、家屋調査の対象となる建物が「戸建て住宅」か「集合住宅」かによって拒否できる度合いが異なります。
例えば家屋調査の対象となる建物が賃貸物件だった場合、家主は賃貸物件を守る権利があります。そのため、民法第606条に基づき部屋を借りている人は基本的に家屋調査の協力を拒めません。
民法第606条
引用:民法第606条|WIKIBOOKS
- 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
- 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。
家屋調査の対象が戸建て住宅の場合は、協力を拒否できますが判断はあくまでご自身に委ねられます。家屋調査の協力を断った場合、解体工事による被害(ひび割れや壁の破損など)が発生しても、有償での修理となる可能性があるため注意が必要です。
家屋調査に協力することで、解体業者も近隣住宅に配慮しながら作業を進めやすくなり、結果として被害やトラブルの軽減につながります。不安がある場合は、あらかじめ調査の内容や方法について説明を受け、納得したうえで協力するかどうかを判断されるとよいでしょう。



家屋調査の協力を拒否した場合、工事被害があっても修繕費用が自己負担になる可能性も。家屋調査を依頼されたら協力するのが得策です。
解体業者に「家屋調査の必要はない」と言われたら、本当にしなくていいの?
ここでは解体業者に「家屋調査するか悩む人」から寄せられた質問をご紹介します。
私は今住んでいる一般的な規模の木造住宅の解体工事を考えています。お隣との付き合いが長いため、工事による近隣トラブルはできるだけ避けたいと思っています。
そこで、工事前に行う「家屋調査」の存在を知りました。
解体業者に家屋調査をしようか相談すると「この家の場合は、家屋調査の必要はありません」と言われました。しかし近隣の建物に影響が出ないか心配で、できれば家屋調査を依頼したいと考えているのですが……。
これまで、家屋調査の必要性についてご説明してきました。しかし、いざ解体のプロである業者から「家屋調査は不要です」と言われると、戸惑いや不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
そこで、解体業者に伺った「家屋調査を実施しない理由」についてご紹介します。
- 一般的な木造住宅は、近隣の建物への影響がそこまでないため実施しない。
- ただでさえ解体工事費用は100万円以上するので、家屋調査を実施すると相当な費用がかかってしまう。
- 手作業での建物解体となる場合は、周りに被害が出るほどの大きな振動が出る可能性が低い。
- 一般的な木造住宅の家屋調査をすることで、近隣の方を神経質にさせてしまう可能性がある。
- 解体業者側の経験上、同じような木造住宅の工事でクレームを受けたケースがなかった。



一般的な木造住宅では、特殊なケースを除いて家屋調査の必要性がないことが多いんだって!
また一般的な木造住宅の解体工事で隣に影響が出てしまう場合は、危険な状態で住み続けられない建物だと言えます。念のため、ご自身でも解体工事前に隣の家の劣化状態を確認するのが良いでしょう。
【まとめ】解体工事前の家屋調査


解体工事前の家屋調査は義務ではありませんが、近隣トラブルを防いだり工事を円滑に進めたりするためには有効です。次の5つのポイントをおさえて、家を解体する前に家屋調査を検討しましょう。
- 1.家屋調査を行うことで近隣トラブルの予防に
-
家屋調査は、解体工事による影響を記録・証明する目的で行われ、近隣トラブルや損害賠償請求を回避できます。調査の実施によって、工事被害の有無を明確にしやすくなります。
- 2.必要な調査項目を見極めよう
-
写真やデータなど調書に必要な調査項目は省略せず、万が一の場合を想定して証拠として残しましょう。必要な項目の判断が難しい場合は、業者に相談するのがオススメです。
- 3.信頼できる調査会社に依頼しよう
-
家屋調査を安心して任せるには、実績や対応力のある調査会社を選ぶことが重要です。調査についての説明や見積書の明瞭さを確認し、賠償責任保険への加入状況もチェックしましょう。口コミや評判も判断材料になります。
- 4.家屋調査をしなかった場合、賠償請求や工事中断のリスクが高まる
-
万が一解体工事によって近隣の建物に損傷が発生した場合、「被害は工事が原因ではない」との証明が難しくなります。その結果、損害賠償請求を受けたり、工事が中断・遅延したりするリスクが高まります。
- 5.「近隣家屋調査士」と「土地家屋調査士」は異なるので注意しよう
-
「土地家屋調査士」は登記用の調査が専門分野であり、解体工事前の現況確認が専門の「近隣家屋調査士」とは目的も対応範囲も異なるため、間違えないようにしましょう。



家屋調査は、解体工事を安全に行うための対策です。解体工事をトラブルなく終えるためにも、ぜひ一度ご検討ください。


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