この記事では、神奈川県横浜市の解体業者で解体工事を行った中里さん(仮名)の事例を紹介します。
・固定資産税の仕組みがわかる。
・見積もり比較の注意点がわかる。
・アスベストが含まれた建物解体の注意点と費用相場がわかる。

中野達也。一般社団法人あんしん解体業者認定協会理事。解体工事業の技術管理者であり、解体工事施工技士を保有。2011年に解体業者紹介センターを鈴木佑一と共に創設。2013年に一般社団法人あんしん解体業者認定協会を設立し、理事に就任。めざまし8(フジテレビ系列)/ひるおび(TBS系列)/ 情報ライブ ミヤネ屋(日本テレビ系列)/バイキングMORE(フジテレビ系列)など各種メディアに出演。
解体工事の概要と背景
今回角田さんが取り壊した建物 | |
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構造/種類 | 木造2階建て/住宅 |
坪数 | 24.75~27坪 |
所在地 | 神奈川県横須賀市 |
築年数 | ー |
角田さんは、お母さまが亡くなりご実家を相続しましたが、建物が古い上に長年空家になっていたため、住むのは難しい状態でした。
ご実家がなくなってしまうのはさみしい気持ちもありましたが、このまま放っておけば老朽化が更に進み、倒壊の危険性があると思い、解体を決意しました。
また、建物がなくなると土地の固定資産税が上がってしまうと思った角田さんは、解体後は土地を早めに売却したいと思っています。
土地と住宅の固定資産税

ねぇ中野さん、角田さんの話にあった「固定資産税」ってなに?



固定資産税っていうのは、固定資産(住宅地や田んぼなどの土地、住宅やお店などの家屋など)の所有者が、その資産価値に応じて算定された税額を、固定資産の所在する市町村に納める税金なんだ。



うーん。ちょっと難しいなあ。



大丈夫だよ、なやみん。知っていたらきっと役に立つことだから、一緒に勉強していこうね。



そっかぁ、これも解体工事の不安を取り除くため!やる気が出てきたぞー!



なやみんその調子!固定資産にはいろんな種類があるけど、ここでは住宅と土地の固定資産税について考えてみよう!
マイホームを持っている人なら毎年支払っている固定資産税。角田さんの言っていた「建物を撤去すると土地の固定資産税が上がる」というのは、減額条件に関係があります。
●土地の減額条件
住宅やアパートなどの住宅用地(人が居住するための家屋の敷地として利用されている土地)については減額措置があり、税金の軽減が受けられます。
・小規模住宅用地(住宅などが建っている敷地で200㎡以下の部分)→6分の1に軽減
・一般住宅用地(住宅などが建っている敷地で200㎡を超える部分)→3分の1に軽減
※解体する住宅が都市計画区域にある場合は条件が異なるので、各自治体への確認が必要です。
●住宅の減額条件
新築住宅の場合は、一定期間の税額が2分の1になる軽減措置がありますが、いずれの条件も適用は住宅が建ってから数年間なので、古い住宅ではすでに軽減措置は受けていないと考えてよいでしょう。



ということは、今まであった住宅がなくなっちゃうと、土地の減額措置が受けられなくなっちゃうんだ……



確かに、今まで減額措置を受けていた場合、住宅を撤去すると土地の減額条件に当てはまらなくなって、税額が通常に戻るね。



だから角田さんは「固定資産税が上がる」っていう言い方をしてたんだね!
じゃあさ、無理してお家を取り壊さない方がいいんじゃない?



それがね……空き家をそのまま放置すると建物の老朽化が進んでしまい、倒壊の恐れや治安の面で、行政から危険と判断されてしまうことがあるんだ。そうなると減額措置の適用対象からは外されてしまうんだよ。



えぇー!それは後回しにせず、税金が高くなっても解体をしなくちゃね!



そうだね。でも実は、まだ税金が上がると決まったわけではないよ。ポイントは、「土地の減額措置はなくなるけど、住宅がなくなる分、住宅の固定資産税の納付はなくなる」ということだね!
1)固定資産を評価(評価額の決定)
各市区町村の長が、総務大臣が定めた基準に基づいて一つ一つの固定資産を評価し、固定資産の「価格」が決まります(土地や家屋の固定資産は、3年に一度評価が見直されます)。
2)評価額を基に課税標準額を決定
※課税標準額は、住宅の所有者に「納税通知書」と一緒に届く「課税明細書」で確認できます。
3)課税標準額×税率(1.4%)=住宅の固定資産税が決定
※市町村によっては1.4%と異なる税率の場合があります。
住宅の固定資産税評価額は築年数の経過とともに下がっていくのが一般的です。
例えば…
建物の床面積:150㎡※小規模住宅用地に当てはまる
土地の面積:200㎡
土地の課税標準額:1800万円
建物の課税標準額:2000万円 の場合
●土地の固定資産税の計算
減額措置あり:1800万円×1/6×1.4%=4.2万円
減額措置なし:1800万円×1.4%=25.2万円
●住宅の固定資産税の計算
2000万円×1.4%=28万円



上の例で考えると、元々納めていた税金額が「4.2万円(土地)+28万(住宅)=32.2万円」で、家を解体して土地だけになった場合の税金額は「25.2万円(減額なし土地)」ということになるね。



あれ!?土地だけになったほうが納める税金が安くなってる!!
上の例のように、土地の評価額が少額な場合など、建物を解体することによって結果的に税金が減額になる可能性があります。ただし、解体する家がとても古い家で「建物の評価額」が少額な場合や、都心部の土地であるため「土地の評価額が高額」な場合は、解体後の固定資産税は上がる可能性が高いでしょう。
固定資産税の課税判断は、毎年1月1日時点で行われます。その年の1月1日に住宅が建っていれば、年の途中で家屋が取り壊されても建物の固定資産税を納める必要があります。解体以降に納める税額を計算してから、工事の日程を1月1日より前にするのか、後にするのかを判断するのがよいでしょう。
それではここから、横須賀市の角田さんの解体工事の流れを紹介していきます。まずは解体業者探しです!
以下の情報を参考にして探してみましょう。
神奈川県横須賀市で解体業者を探す場合の参考情報 | |
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横須賀市の登録解体業者数 | 27社 |
工事に対応して貰える解体業者の所在地 | 横須賀市、横浜市、川崎市、相模原市、平塚市、鎌倉市、藤沢市、茅ヶ崎市、逗子市、三浦市、秦野市、小田原市など |
横須賀市の解体工事坪単価(木造) | 38,467円 |
横須賀市の解体工事坪単価(鉄骨造) | 43,491円 |
横須賀市の解体工事坪単価(RC造) | 75,927円 |
横須賀市特有の規制や条例 | 横須賀市では「みどりの基本条例」や「建築基準条例」など、特有の条例や建築物の高さ制限、廃棄物処理の厳格な規制などがあるため、地域特有のルールを遵守しているか確認することが重要です。 |
横須賀市の地区計画や再開発エリアの影響 | 横須賀リサーチパーク地区・海辺ニュータウン地区・野比4丁目地区・追浜駅前地区・若松町1丁目地区・湘南国際村地区などの地区計画地域では、解体工事に関する手続きや規制が特に厳しい可能性があります。これらのエリアの場合は、解体経験が豊富な業者を選ぶと安心でしょう。 |
横須賀市内のゴミ処理場の距離・運搬コスト | 横須賀市内の解体業者が利用する廃棄物処理場までの距離や、解体物を処理するための運搬コストも工事費用に影響します。神奈川県内の他地域と比較しても、処理場までの距離や運搬費が異なる場合があるため、それも踏まえて解体業者を探しましょう。 |
解体業者2社に見積依頼
角田さんは解体業者2社に見積もり依頼をしました。
A社の見積書


B社の見積書


2社の見積もり比較



あれ?建物解体の坪数のところ……A社は24.75坪でB社は27坪になってる……建物の坪数が違っているよ?



実はそういうこともあるんだ。建物の面積の算出方法が解体業者ごとに異なるため、敷地面積の誤差が生まれてしまうことがあるよ。
・図面で調べる…建物の情報を記した登記簿謄本や、建物図面をもとに面積の算出を行う方法です。あとから増築などを行っていなければ一番正確な方法です。
・計測器で実測する…メジャーなどで実際に建物の寸法を測る方法です。解体業者によって使う道具や計測の仕方が違うので多少の誤差が出ることがあります。
・目測をする…現地で壁の長さを目測で確認し、そこから面積を算出する方法です。窓や外壁1枚分の大きさを基準にして計測します。経験のある職人ならば「図面との誤差1割以内程」で計測することができるそうですが、誰でもできるものではありませんし、正確な数字を出すのには向いていません。
※坪数のズレなどの違いに気付くためにも、必ず複数社に見積りを依頼し比較する「相見積り(あいみつもり)」をするようにしましょう。また、坪数を少なく見積もっている解体業者には「他の業者は〇坪で見積もっているが、計測に間違いはないか」と念の為確認を取り、契約後に「坪数を間違えていたから追加費用」と言われないようにしておきましょう。



各見積書の建物解体費の単価をみてみると、A社26,500円、B社26,000円とほぼ同じになっているね。



単価が同じなら、純粋に坪数が少ないほうが安くなるね。



そうだね。実際に角田さんは、他の項目や説明が特に問題なかったので、坪数についての確認をとってから、費用の安いA社に解体工事をお願いすることにしたよ。
アスベスト発見……
無事に解体業者が決まり、工事が始まってすぐ、解体業者から角田さんに連絡が入りました。
2重になっていた屋根の下からアスベストが含まれたコロニアル屋根が見つかったという報告と、工事を継続してよいかの確認の連絡でした。







どうしよう中野さん……アスベストが出てきたって。アスベストって人体に良くないものだよね……



なやみん、落ち着いて。
【アスベストとは……】
・アスベストは、肺がんなどの病気を引き起こす恐れがあることが判明し、2006年には全面的に使用が禁止されている天然の鉱物繊維。
・軽くて安くて断熱性や防音性に優れているため、昔は建築工事の様々な場所で使用されていた。
・アスベストがそこにあること自体が被害につながるのではなく、飛び散ることや吸い込むことが問題となるため、解体工事の際は法規制に従って特殊な方法でアスベストを除去しなければならない。
・アスベストは発じん性=(飛散のしやすさ)によって1~3のレベルに分類されている。
【コロニアルとは……】
・コロニアルとは、ケイミュー株式会社が販売している屋根の商品名。
・価格が安く、軽くて耐久性が高いコロニアルは、屋根材として全国的に普及している。
・現在、アスベストを含んだ製品は製造されていないが、2004年より前に設置されたコロニアルには、アスベストが含まれている恐れがあるため注意が必要。
コロニアル屋根に含まれるアスベストは、セメントで固定されているため飛散性が比較的低く、3つのアスベストレベルの中で危険度がもっとも低い「レベル3」に該当します。



現地調査でも見つけられないアスベストがあるんだね……



そうだね。でもね、なやみん。アスベスト解体については年々法制度が変わっていて、今ではより安全に詳しく調査ができるようになっているんだ。



法律が変わってどんどん安全になっているんだね。



その通り!解体業者は依頼主にしっかり説明をすることが大事だし、依頼する側もアスベスト解体について理解して、図面などの情報提供や、ゆとりを持った工期設定などの配慮が必要だね。



安心安全な解体工事の為に大切なのは協力だね!!
今回の2重屋根のように、親が住んでいた家の解体や中古で購入した家の解体だと、今の持ち主が知らない間に屋根の修理が行われていたり、増築をしていたり「新築時の図面とは変わってしまっていた」ということがよくあります。
解体を依頼する本人も知らない部分に気づくためにも、解体業者が現地で調査することはとても大切です。
解体業者からアスベスト除去についてきちんと説明を受けた角田さんは、解体業者から届いた追加費用(アスベストの処理費)の見積書を確認し、工事の継続を希望しました。


アスベストを含むコロニアル屋根の処分費が追加になりましたが、A社はアスベストにもしっかりと対応できる解体業者だったので外部に依頼する必要はなく、時間も金額も最小限に抑えられました。
実際の解体工事過程
その後の工事は順調に進みました。


重機を使って建物本体の解体が終わりました。


基礎の解体をして整地に移ります。


土塊が多いですが、丁寧に整地を行っていきます。


きれいな更地に仕上がりました!
【まとめ】今回の解体工事のポイント
今回の解体工事のポイントは、「固定資産税の仕組みを知ってから解体に臨んだこと」「見積書の注意すべき点がわかったこと」「アスベストの追加費用に落ち着いて対処できたこと」でした。



途中でアスベストが出るというアクシデントがあったけど、無事に解体工事が終わってよかったね。



うん!工事中にアクシデントがあったときに、きちんと連絡をしてくれる解体業者を選んでいたのがよかったね。勝手に工事を進めて完工後に費用だけ請求してくる業者も存在するからね。



そんな解体業者には当たりたくないね……



それを見極めるためにも、相見積もりと現地調査は必須だね!
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