【解体ニュース解説】解体工事すすむ大阪万博で事故 資材に足はさまれ重傷

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稲垣 瑞稀

この記事の案内人・編集長

稲垣 瑞稀

解体業界で6年間働く中で感じた『正しい情報が届かない』というもどかしさから、全記事の企画・編集に責任を持っています。専門家への直接取材を通じ、業界経験者として分かりやすい情報提供をお約束します。

この記事でわかること
  • 大阪万博の解体工事で起きた事故の概要と背景がわかる。
  • このニュースの業界における重要性と教訓がわかる。
  • 今後の工事の進め方・予定が予測できる。

この記事では大阪万博跡地での事故の背景を深掘りし、海外パビリオン解体中の事故がなぜ起きたのか、工事は今後どうなるのかを専門家の視点で解説します。

▼パビリオンの解体計画についてはこちらの記事で詳しく解説しています。よろしければあわせてご覧ください。

目次

ニュースの概要

  • 発生場所:大阪府大阪市此花区夢洲(ゆめしま)「大阪・関西万博会場」跡地(パビリオン解体エリア)
  • 報道日:2025年12月17日
  • 事案:大阪市此花区の夢洲で進められている大阪・関西万博の会場内において、パビリオンの解体工事中に男性作業員が鉄製の資材に足を挟まれ右足を骨折する事故が発生。事故当時、現場では複数の作業員が大型クレーンを用いてパビリオンの解体作業を行っており、警察と労働基準監督署が事故原因について詳しく調査を進めている。

17日朝、大阪・関西万博の会場内でパビリオンの解体工事をしていた30代の男性作業員が鉄製の資材に足を挟まれる事故がありました。男性は右足を骨折するなどの重傷です。

 万博協会によりますと、17日午前8時すぎ、海外パビリオンの解体作業をしていた30代の男性作業員が、縦4メートル、横2メートルのモニターに使われていた鉄製の資材を動かしていたところ、この資材が倒れてきたということです。男性は、右足を資材と地面に挟まれ、骨折をしたということです。

 現在、事故が起きた区域での工事は中止されているということで、施行会社は今後、事故原因の調査を行い、再発防止に努めるとしています。

引用:【速報】万博会場のパビリオン解体工事で事故 30代の男性作業員が右足骨折などの重傷 大阪|ytvNEWS(読売テレビ放送)

海外パビリオン解体中の事故

事故現場となった海外パビリオンは、大屋根リングの内側に配置されています。範囲が広く詳しい事故現場の情報は報道されていませんが、このいずれかの海外パビリオン解体作業中に事故が起きたものと思われます。

海外パビリオンの配置図

画像引用:大阪・関西万博、海外パビリオン157か国分の配置固まる…大屋根の内側にひしめく|読売新聞オンライン

考えられる事故の背景

閉幕から約2ヶ月が経過した大阪・関西万博(大阪市此花区夢洲)の跡地にて、パビリオン解体作業中に30代の男性作業員が重傷を負う事故が発生しました。

一見すると「資材の転倒」という典型的な建設災害に見えますが、そこには万博特有の「立地」と、「解体方法」が関係している可能性があります。

作業開始直後「8時15分」に起きた事故

まず注目すべきは事故の発生時刻である午前8時15分
建設現場において、8時00分は朝礼やラジオ体操、KY(危険予知)活動が行われる時間です。8時15分というのは、まさに実作業がスタートした「直後」のタイミングにあたります。

この時間帯は、事故が多発しやすく、厚生労働省の「令和3年労働災害発生時間別推移」では、転倒災害の発生時間は午
前7時~11時の4時間において1日の約半数を占める状況にあります。

令和3年労働災害発生時間別推移グラフ

画像引用:令和3年 労働災害 発生時間別推移|厚生労働省

  • 身体機能の未順応: 12月の大阪湾岸部(夢洲)は北西風が強く吹く傾向にあります。体が冷え切った状態で動き出した直後は、反応速度が鈍りやすい。
  • 意識の切り替え: 朝礼の「集団行動」から「個別作業」へ意識が切り替わる瞬間であり、緊張と慣れの隙間が生まれやすい。
運営者 稲垣

 作業員が現場環境(寒さや風、足元の悪さ)に十分に順応しきっていないタイミングで、重量物を扱う作業に入ってしまった可能性が考えられます。

「壊す」のではなく「ほどく」解体の難しさ

人的被害
万博会場の解体工事現場において、作業員が鉄製ユニット資材を移動させる際に倒れ込んできた同資材に挟まれる。右足首等を負傷。

引用:会場工事現場における事故報告|EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト

今回の事故で注目なのは、事故の原因となったのが縦4メートル、横2メートルのモニターに使われていた「鉄製ユニット資材」であるという点です。

通常の解体工事であれば、重機で資材を運びやすい大きさまで解体し、廃材を運搬します。しかし、今回の万博のテーマは「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」。解体工事でも建材のリユース(再利用)が条件となっています。

再利用するためになるべく壊さず運ぶ。必然的に運搬する資材は大きさや重さがあるものが増え、それらを運搬するには高度な技術が必要になります。

  • 重心が読めない: ユニット内部に内装材や配線が残っている場合があり、外見からは重心位置が分かりません。
  • 形状維持の制約: 「商品」として次に回すため、傷をつけられません。重機で運ぶ際もワイヤーの掛け方(玉掛け)がシビアになり、バランスの調整が難しくなります。
  • 不安定さ: 建物として連結している時は頑丈ですが、ボルトを外して「単体」になった瞬間、構造的に非常に不安定になる資材が多いです。
運営者 稲垣

リユース(再利用)するための資材は、解体しない分、外見からは「どこに重心があるか分かりづらい」状態で運搬の際には注意が必要です。さらに、「資材に傷をつけてはいけない」というプレッシャーが、安全に運搬するための難易度を上げている可能性があります。

2027年3月までの「時間との戦い」

3つ目の背景は、国家プロジェクトゆえの工期です。
事故が起きた2025年12月は、内装撤去から「躯体解体(本格的な取り壊し)」へとフェーズが移行する過渡期でした。

  • 工期のデッドライン: 跡地は「夢洲第2期区域マスタープラン」に基づき、2027年3月までに完全に更地にして引き渡す必要があります。
  • 年末の焦り: 年末年始休暇を前に「区切りのいいところまで進めたい」という現場心理が働きやすい時期です。
  • 天候リスク: 冬場の夢洲は「風」が強く、クレーン作業が止まりがちです。風が止んだ隙間に作業を詰め込もうとして、無理が生じた可能性も否定できません。

今後の工事の進め方・予定

「夢洲第2期区域マスタープラン」とは

大阪・関西万博跡地となる夢洲第2期区域(以下「第2期区域」という。)においては、開発面積が約50haという広大
なエリアであるため、第2期区域のまちづくりの方針(マスタープラン)を示すこととし、令和6(2024)年9月から開始し
た「夢洲第2期区域マスタープランの策定に向けた民間提案募集」において、民間事業者からまちづくりについての提案
を受け付け、これらの提案の中から、令和7(2025)年1月に優秀提案2件を決定したところです。

引用:夢洲第2期区域マスタープラン Ver.2.0|大阪府・大阪市

主な特徴と目的

大阪・関西万博が閉幕し、パビリオンなどの施設を撤去した「跡地」をどのように活用するかを定めた計画です。

  1. 国際観光拠点化
    万博の伝統を引き継ぎ、世界中から人を集める観光エリアにすることを目指しています。
  2. IR(統合型リゾート)との連携
    夢洲の隣接地で開発が進むIR(カジノ等を含む統合型リゾート)と連携し、その相乗効果を狙ったエリア開発が計画されています。
  3. 具体的な施設案
    民間からの提案として、以下のような施設の建設が検討されています。
    • エンターテインメント施設
    • 宿泊施設(ホテル)
    • サーキット場
    • アミューズメントパーク

スケジュール上の制約

このマスタープランを実現するためには、2027年3月までに万博会場の解体工事を完了し、「完全な更地」にしてインフラを再整備することが絶対条件となっています。そのため、今回の解体事故による工期の遅れが、このマスタープランの実現スケジュールに与える影響が懸念されています。

運営者 稲垣

今回の事故を受けて工事は一時ストップしていますが、今後の展開はどうなるでしょうか。今後の流れを推測してみました。

直近(~2026年初頭):安全基準の再構築
報告書では、AIカメラによる危険エリア侵入検知や、ウェアラブルデバイスでのバイタル監視など「スマート安全技術」の導入が提言されています。また、「重量物取り扱い」や「解体手順」に関するルールの厳格化が行われるでしょう。現場の作業スピードは一時的に落ちますが、安全最優先への回帰が必須です。

2026年:解体の最盛期
海外パビリオンや大屋根リングなどの巨大構造物の撤去が並行して進みます。「リユース資材のマッチング(ミャク市!等)」による物流の複雑化もピークを迎えます。今回のような事故を防ぐため、工事手順の見直しや、仮置き場の地盤改良などが急務となります。

2027年1月~3月:基礎撤去・整地
地中埋設物の撤去や埋め戻しを行い、夢洲第2期プラン(IR連携やエンタメ活用)へとバトンを渡します。

まとめ:大阪万博解体工事中の事故について

本記事では、大阪・関西万博跡地のパビリオン解体工事中に発生した事故のニュースをもとに、事故の背景にある「リユース解体」の難しさや、今後の工事スケジュールへの影響について解説しました。

以下は、今回のニュースのまとめです。

  • 2025年12月17日朝、万博会場での解体作業中に作業員が負傷する事故が発生。作業開始直後の時間帯や、冬場の強風などの環境要因が重なったと見られる。
  • 万博独自の「建材リユース(再利用)」の方針により、資材を細かく解体せず「原形維持」で運ぶ必要があり、重心バランスの確保など運搬作業の難易度が高まっている。
  • 跡地開発(夢洲第2期マスタープラン)のため2027年3月までの更地化が必須となっており、今後は安全基準の厳格化と厳しい工期の両立が大きな課題となる。
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この記事を書いた人

「一個人の責任と情熱で、本当に役立つ情報を発信したい。」

『スッキリ解体』運営責任者。解体業界で6年間働く中で感じた『正しい情報が届かない』という現状を変えるため、全記事の企画・編集に携わり、責任を持って情報発信を行う。

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