宅地・農地の転用手続き 必要な許可や費用、固定資産税を徹底解説

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稲垣 瑞稀

この記事の案内人・編集長

稲垣 瑞稀

解体業界で6年間働く中で感じた『正しい情報が届かない』というもどかしさから、全記事の企画・編集に責任を持っています。専門家への直接取材を通じ、業界経験者として分かりやすい情報提供をお約束します。

「親から相続した農地に家を建てたい」「使っていない宅地(空き家)を農地にして、固定資産税を抑えたい」
土地の活用方法を検討する中で、このように「農地から宅地へ」、あるいは「宅地から農地へ」と用途の変更を考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この記事では、11万件以上の相談実績を持ち、更地化からその後の土地活用(売却・建築)までワンストップで支援する「あんしん解体業者認定協会」の全面的な監修のもと、宅地・農地の転用について押さえておくべき重要なポイントを網羅的に解説します。

この記事でわかること
  • 宅地と農地の違い(固定資産税の金額差や、売買・建築の制限など)がわかる
  • 農地を宅地へ転用する場合に必要な費用手続きの流れがわかる
  • 宅地を農地にする際の手順や、節税効果とあわせて知っておくべきリスクがわかる

この記事の制作チーム

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中野 達也監修者

一般社団法人あんしん解体業者認定協会 理事

中野 達也(なかの たつや)

解体工事業の技術管理者であり、解体工事施工技士を保有。2011年に解体業者紹介センターを鈴木佑一と共に創設。2013年に一般社団法人あんしん解体業者認定協会を設立し、理事に就任。めざまし8(フジテレビ系列)/ひるおび(TBS系列)/ 情報ライブ ミヤネ屋(日本テレビ系列)/バイキングMORE(フジテレビ系列)など各種メディアに出演。

初田 秀一現場解説

一般社団法人あんしん解体業者認定協会 理事・解体アドバイザー

初田 秀一(はつだ しゅういち)

解体アドバイザー歴15年、相談実績は11万件以上。お客様の不安を笑顔に変える現場のプロフェッショナル。「どんな些細なことでも構いません」をモットーに、一期一会の精神でお客様一人ひとりと向き合い、契約から工事完了まで心から安心できる業者選定をサポート。この記事では現場のリアルな視点から解説を担当。

稲垣 瑞稀運営責任者

「スッキリ解体」編集長

稲垣 瑞稀(いながき みずき)

解体業界専門のWebメディアでWebディレクターとして6年以上、企画・執筆・編集から500社以上の解体業者取材まで、メディア運営のあらゆる工程を経験。正しい情報が届かず困っている方を助けたいという想いから、一個人の責任と情熱で「スッキリ解体」を立ち上げ、全記事の編集に責任を持つ。

馬場 美月執筆

「スッキリ解体」専属ライター

馬場 美月(ばば みづき)

「解体工事の準備から完了まで、初めての方でも迷わないよう、一つずつ丁寧に解説します。」

「初心者にもわかりやすく」をモットーに、解体工事の全工程をステップバイステップで解説する記事を得意とするライター。毎週の専門勉強会で得た知識や業者様へのインタビューを元に、手続きの流れや専門用語を図解なども交えながら、読者が迷わずに理解できる記事作りを心がけている。

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目次

宅地と農地の主な違い

土地の区分(地目)には「宅地」「田」「畑」「山林」など23種類があります。このうち、宅地と農地(田・畑)は、所有者の権利や税負担に大きな違いがあります。

比較項目宅地農地(田・畑)
1. 固定資産税高い(更地は軽減なし)
※100坪の更地で年間約10万円
安い(宅地の数十分の1以下)
※100坪で年間0~数千円
2. 建築・売買の制限自由度が高い(原則自由に建築・売買可能※)制限が厳しい(農地法により原則禁止)
3. 土地価格(売買価格)高い(誰でも購入でき需要がある)安い(買い手が農家に限定される)

1. 固定資産税

農地の固定資産税は、宅地と比較して極めて低く設定されています。その理由は、税額の基準となる「評価額」を算出する仕組み自体が、宅地と農地では大きく異なるためです。

宅地の場合

宅地の固定資産税は、購入価格(実勢価格)ではなく、国が公表する地価公示価格の約7割を目安に算出した評価額(課税標準額)を基に計算されます。

  • 計算式:(実勢価格×約0.7)×1.4%(標準税率)

また建物が建っている土地には「住宅用地の特例(固定資産税が1/6に軽減)」が適用されますが、更地(空き地)になると特例が消えるため、軽減のない税額がそのままかかります。

たとえば100坪で市場価格が1,000万円の宅地(更地)を想定すると、年間の固定資産税は約10万円です。

  1. 評価額:1,000万円×0.7=700万円
  2. 税額:700万円×1.4%=98,000円
    目安:年間約10万円

農地の場合

農地は「売買価格」ではなく、農地としてどれだけ収益を得られるかという生産性(収穫量・利益など)を基準に評価されます。そのため評価額は非常に低く、宅地の数十分の1〜数百分の1以下になることも多くあります。

加えて、地方税法には「土地の課税標準額が30万円未満の場合は課税しない(免税点)」という規定があります。100坪程度の一般農地では評価額が30万円に満たないことが多く、固定資産税が0円(非課税)または数千円程度となるケースが一般的です。

市町村は、同一の者について当該市町村の区域内におけるその者の所有に係る土地、家屋又は償却資産に対して課する固定資産税の課税標準となるべき額が土地にあつては三十万円、家屋にあつては二十万円、償却資産にあつては百五十万円に満たない場合においては、固定資産税を課することができない。

引用:地方税法(第三百五十一条の抜粋)|e-Gov法令検索

ただし、市街化区域内にある宅地化農地は例外です。これらは「将来的に宅地として利用できる可能性が高い」と判断されるため、農地であっても宅地に近い評価方式(宅地並み課税)が適用されます。その結果、見た目が畑であっても実質的には宅地並みの税負担となり、年間数万円〜十数万円の固定資産税が発生することがあります。

運営者 稲垣

「農地だから固定資産税は安いはず」という思い込みが、思わぬ負担につながる場合があるため注意が必要です。

なお、固定資産税の評価額算出に関する詳細な規定や条文については、総務省の告示資料もあわせてご参照ください。

2. 建築・売買の制限

宅地と農地は法律上の扱いが異なるため、建築や売買に対する制限も大きく変わります。

宅地の場合

都市計画法(用途地域)や建築基準法(建ぺい率・容積率)の範囲内であれば、所有者の判断で建築や売買が比較的自由に行えます。

農地の場合

農地は食料生産を支える土地であるため、農地法によって利用や売買が制限されています。「自分の土地だから自由に建物を建てる」「駐車場に転用する」といった行為も許可なく行えません。

農地法では内容に応じて、次の3種類の許可制度が設けられています。

内容条文ポイント
農地を「農地として」売買・貸借する場合第3条・農業委員会の許可が必要
・買い手は原則として農家や農地所有適格法人に限定
自分の農地を転用する場合第4条・都道府県知事(または指定市町村長)の許可が必要
(市街化区域内なら農業委員会への「届出」でOK)
・自宅を建てる場合も転用に該当
転用目的で売買する場合第5条・都道府県知事等の許可が必要
(市街化区域内なら農業委員会への「届出」でOK)
・売り手と買い手による共同申請が必要

許可を受けずに用途を変更した場合は、農地法第51条に基づき、工事の中止や原状回復などの命令が出されます。これに従わない場合などは、同法第64条および第67条により、「3年以下の懲役または300万円以下(法人は1億円以下)の罰金」が科される可能性があります。

3. 土地価格(売買価格)

土地の売買価格は、宅地と農地で大きく異なります。一般的には、宅地のほうが農地よりも高値で取引される傾向があります。

宅地の場合

宅地は都市計画法や建築基準法の範囲内で誰でも住宅を建てられるため、資産価値が高いことが特徴です。東日本不動産流通機構が公表している2025年10月度データでは、土地売却の平均単価(1m2あたり)は以下のとおりです。

  • 東京都:約50.34万円/m2
  • 大阪府:約18.14万円/m2
  • 北海道:約6.16万円/m2

地域差はありますが、1m2あたり数万円〜数十万円で取引されるのが一般的です。

農地の場合

農地は、農地法により原則として農家や農業生産法人でなければ購入できず、用途も耕作に限定されます。そのため宅地に比べて価格は大幅に低く、全国平均では1m2あたり約1,000円前後にとどまっています。

全国農業会議所が2018年に行った調査によると、全国平均の売買価格は次のとおりです。

  • 田(中田):約118万円/10a(1,000m2
    約1,180円/m2
  • 畑(中畑):約87万円/10a(1,000m2
    約870円/m2

ただし、市街化区域内の農地などは宅地転用の期待があるため、一般的な農地より高値で取引されるケースもあります。

農地を宅地に転用する場合(必要な費用・流れ・注意点)

農地に家を建てたり、宅地として売却したりすることを「農地転用」と言います。ここでは農地転用を検討するうえで押さえておきたい基礎知識に加え、必要となる費用や手続きの流れについて解説します。

農業目的でなくても農地を買って家を建てられる?

結論として、「農地法第5条の許可(転用目的の売買)」を取得すれば、農家でない一般の方でも農地を購入して家を建てられます。ただし、実際に手続きを進めるとなるとハードルが高いのも事実です。特に次の2点には注意が必要です。

  • 許可が下りない可能性がある
    特に農業を優先するエリア(農業振興地域・農用地区域など)では、そもそも農地転用が認められない場合があります。安く買えても、家が建てられないリスクがある点を念頭に置いておきましょう。
  • 造成コストがかかる
    農地転用が認められたとしても、農地を宅地として使える状態にするには整地や土留め、水道・下水・電気などのライフライン引き込みといった造成工事が発生します。土地自体は安くても、工事費が高くなるケースも珍しくありません。

【初田理事に聞いた】農地転用は現実的?

では、こうした点を踏まえると、農地転用は果たして現実的なのでしょうか。これまで11万件以上の解体相談に対応し、土地活用の現場にも精通する「あんしん解体業者認定協会」の初田理事にお話を伺いました。

初田 秀一 現場解説

一般社団法人あんしん解体業者認定協会 理事・解体アドバイザー

初田 秀一 (はつだ しゅういち)

解体アドバイザー歴15年、相談実績は11万件以上。お客様の不安を笑顔に変える現場のプロフェッショナル。「どんな些細なことでも構いません」をモットーに、一期一会の精神でお客様一人ひとりと向き合い、契約から工事完了まで心から安心できる業者選定をサポート。この記事では現場のリアルな視点から解説を担当。

運営者 稲垣

ずばり、農地転用は現実的なのでしょうか?

理事 初田秀一

不可能ではありませんが、私たちの協会に直接ご相談いただくケースとしては、正直なところあまり多くありません。

運営者 稲垣

依頼が少ないのはなぜでしょう?

理事 初田秀一

不動産業者に直接依頼される方が多いというのもありますが、「地盤のゆるさ」という農地転用特有のリスクも関係しているでしょう。元が田んぼや畑だった土地は水分を多く含んでいるため、いざ工事を始めたら水が湧き出て、重機が沈んでしまうといったトラブルも起こり得ます。

運営者 稲垣

そうなんですね。地盤のリスクは、事前に防ぐことはできないのでしょうか?

理事 初田秀一

それが難しい点でして……というのも、事前の地盤調査でもリスクを100%把握できるとは限りません。そのため、コストをかけて調査を行わないという判断をされるケースも少なくないのが実情です。もちろん、工事中に問題が見つかれば杭を打つなどの対策で対応は可能ですが、結果として想定外の費用と工期が追加で必要になってしまいます。

運営者 稲垣

では、これから農地転用をお考えの方へアドバイスをお願いします。

理事 初田秀一

転用目的で農地を購入する際は「土地が安い」という理由だけで判断せず、その農地が本当に転用可能かどうか確認すること、そして造成費用・インフラ整備費・申請費用などを含めた総額をしっかり試算することが重要です。

それでは、実際に農地転用を行う際に発生する主な費用の目安を見ていきましょう。

費用の目安(土地面積100坪の場合)

農地転用では、役所へ支払う「転用手数料」そのものはありません。ただし、申請に伴う実費や専門家への依頼費用、さらに農地を宅地として利用できる状態にするための造成・インフラ工事費が必要になります。

以下は、複数の行政書士事務所が公開している情報をもとにした、100坪(約330m2)の農地を宅地に転用する場合の費用の概算です。

項目100坪(約330m2)の試算
①手続き・申請・登記費用約10万円〜45万円
②造成・インフラ工事費用数十万円〜数百万円
③追加の申請費用条件により+10万〜50万円

それでは、それぞれの費用の詳細を確認していきましょう。

①手続き・申請・登記費用(約10万円〜45万円)

100坪の農地を宅地へ転用する際に必要となる手続き・申請・登記費用は、約10万円〜45万円が目安です。

項目単価・相場目安100坪(約330m2)の試算備考
行政書士報酬6万円〜18万円/案件6万円〜18万円農地法第4条・第5条許可申請の代行費用。事務所や案件の難易度により変動。
土地家屋調査士報酬3万円〜5万円/案件3万円〜5万円転用完了後に行う「地目変更登記」の費用。
土地改良区除外決済金100円〜500円/m23万3,000円〜16万5,000円土地改良区内の農地の場合に発生。
申請書類実費数千円〜1万円/案件約1万円登記簿謄本、公図、各種証明書などの取得費用。

②造成・インフラ工事費用(数十万円〜数百万円)

造成・インフラ工事費用とは、土地を実際に「宅地」として利用できる状態に整えるための工事費のことです。土地の状況によって費用が大きく変わり、数十万円~数百万円と高額になる場合があります。

  • 造成工事:畑や田んぼの土を入れ替え、地面を平らに固める作業(整地・地盤改良)など。
  • 擁壁(ようへき)工事:農地が道路より低い/高い場合に、土が崩れないように壁を設置する工事。
  • ライフライン引き込み:上下水道管やガス管が敷地内にない場合、前面道路から引き込む工事。

条件によって追加費用がかかるケース

土地の場所や利用計画によっては、さらに以下の手続きと費用が必要になります。

項目費用目安対象・条件詳細・注意点
測量・分筆登記+20万〜50万円・広い農地の一部のみを転用する場合
・隣地との境界が未確定の場合
測量作業を伴うため、費用が高額になります。
農振除外申請+10万〜30万円・「農用地区域内農地(青地)」を転用する場合通常の許可申請の「前段階」の手続きです。半年〜1年以上かかり、要件も厳格なため却下されるリスクがあります。

転用完了までの手順

農地転用では、土地が「市街化区域」にあるか、「市街化調整区域」にあるかによって手続き(特にステップ④)が大きく変わります。

ステップ1:土地の調査(自分の農地の区分を知る)

農地は「白地」「青地」などの区分によって、転用できる難易度が大きく変わります。そのため、まずは自分の土地がどの区分に該当するかを、インターネット上の「eMAFF農地ナビ」所在地の農業委員会で確認しましょう。

ステップ2:専門家への相談・見積もり

手続きが不安な場合は専門家に依頼しましょう。

  • やるべきこと
    1. 行政書士へ相談(申請手続きの代行・許可の見込み診断)
    2. 工事業者へ相談(造成費用の見積もり、排水計画の確認)
    3. 土地家屋調査士へ相談(測量が必要な場合のみ)

ステップ3:申請手続き

ステップ1で確認した区域が「市街化区域」か「市街化調整区域」かによって、手続きが分かれます。

A. 市街化区域の場合
  • 手続きの内容: 農業委員会へ「農地転用届出書」を提出する。
  • 期間: 1週間〜2週間程度(※1)
  • 難易度: 低(原則として認められます)
    • (※1) 自治体によります(例:兵庫県太子町は約2週間、千葉県柏市は即日など)。

やるべきこと

  1. 書類作成:行政書士または自分で「農地転用届出書」を作成する。
  2. 提出:農業委員会へ届出書を提出する。
  3. 完了:1〜2週間ほどで「受理通知書」が発行される。
  4. ④へ進む
B. 市街化調整区域の場合
  • 手続きの内容: 都道府県知事への「許可申請」
  • 期間: 1.5ヶ月〜2ヶ月程度(※2)
  • 難易度: 高(立地基準などの審査があります)
    • (※2) 自治体によります(例:千葉県習志野市は約2ヶ月、埼玉県さいたま市は35日など)。

やるべきこと

  1. 事前相談:農業委員会へ計画案を持ち込み、転用可能か相談する。
  2. (必要な場合のみ)農振除外申請:もし「青地(農用地区域)」だった場合、この申請を先に行う(半年〜1年待ち)。
  3. 許可申請:農業委員会へ「許可申請書」を提出(毎月の締切日がある)。
  4. 審査・審議:農業委員会および都道府県知事による審査が行われる。
  5. 許可:約1.5〜2ヶ月で「許可指令書」が交付される。
  6. ④へ進む

ステップ4:工事の着工・完了

許可証(または受理通知書)を受け取ったら、農地を家が建てられる土地(宅地)にするための工事を始めます。

まずは造成工事を行います。造成工事とは、土地を「家が建てられる状態」にするための下準備の工事のことです。例えば、以下の作業が含まれます。

  • 整地:土地のデコボコをなくして平らにする作業
  • 土留め(どどめ):土が崩れないように壁をつくって支える作業
  • ライフライン引き込み:水道・下水・電気・ガスをその土地までつなぐ作業

造成が終わったら、家を建てる場合はそのまま建築工事へ進みます。

また、市街化調整区域にある農地の場合は、工事の進捗状況や完了を農業委員会へ報告しなければならないことが多い点にも注意が必要です。

ステップ5:地目変更登記

工事が終わり現況が「宅地」になっても、登記簿上は「畑」のままです。このため、原則1ヶ月以内に地目変更登記を行う必要があります。

地目又は地積について変更があったときは、表題部所有者又は所有権の登記名義人は、その変更があった日から一月以内に、当該地目又は地積に関する変更の登記を申請しなければならない。

引用:不動産登記法(第三十七条)|e-Gov法令検索

  • やるべきこと
    1. 土地家屋調査士へ依頼する。
    2. 法務局に「地目変更登記」を申請する。
    3. 登記簿上の地目が「宅地」に変更されるとすべて完了となる。

原則として転用できない農地とは?

特に「市街化調整区域」内では、以下の農地は国の保護対象であり、原則として転用が認められません。

  • 農用地区域内農地(青地):今後10年以上にわたり農業利用を確保すべきと定められた土地。転用するには、前述の「農振除外」という高いハードルを越える必要があります。
  • 甲種農地・第1種農地(優良農地):生産性が高く、集団的に存在する農地。

宅地を農地に転用する場合(必要な費用・流れ・注意点)

使わなくなった宅地(空き家の敷地など)を農地に変更すると、固定資産税の負担を軽減できる可能性があります。その一方で初期費用が大きくなる場合や、将来の土地利用に大きな制約が生じるおそれもあるため慎重な判断が必要です。

なぜ宅地を農地にする?目的は固定資産税の軽減

宅地を農地に転用する主な目的は、固定資産税の負担を抑えることにあります。

農地は、宅地に比べて固定資産税評価額が低く設定されています。とくに、建物を解体して更地にすると、固定資産税が最大6倍になる可能性のある「住宅用地の特例」が適用されなくなります。しかし、その土地を農地として活用できれば、税負担の急増を回避できる可能性があります。

ただし注意したいのは、耕作を始めただけで、すぐに農地として扱われるわけではないという点です。税制上の優遇を受けるためには、継続的な耕作の実態が求められるほか、法務局で地目を「宅地」から「畑」や「田」へ変更する手続きが必要になるのが一般的です。

なお、「住宅用地の特例」の仕組みについては以下の「古家解体」の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧になってください。

【初田理事に聞いた】宅地から農地への転用は現実的?

では、固定資産税のメリットがある一方で、この計画は果たして現実的なのでしょうか。この点についても、土地活用の現場に精通するプロフェッショナルである初田理事に詳細を伺いました。

運営者 稲垣

そもそも、宅地を農地に転用することは可能でしょうか?

理事 初田秀一

制度上は可能です。宅地を農地として利用し始めることに、農地法のような法律上の許可は必要ありません。実際に当協会へも、節税対策として宅地から農地へ変更したいというご相談が年間1~2件ほど寄せられます。

運営者 稲垣

では、現実的な選択肢と言えるのでしょうか?

理事 初田秀一

いえ、手間や将来のリスクを考えると、正直に言って現実的とは言いにくいのが実情です。特に大きなハードルが2つあります。

「継続的な耕作」の実態がなければ認められない

理事 初田秀一

まず、固定資産税の軽減を受けるには、農業委員会などに客観的に見て「継続して耕作している」と認められる必要があります。単に地目を変えようとしても、実態が伴わなければ意味がありません。例えば、以下のような状態は農地とみなされません。

  • 雑草が繁茂している
  • 土壌が農業に適さない状態になっている
  • 家庭菜園レベルを超えない軽微な利用しかしていない
理事 初田秀一

この点について国税庁も、「長期間放置され、容易に農地に復元できないような土地は、農地ではなく原野や雑種地と判定する」という見解を示しており、厳しく判断されます。

【照会要旨】

 登記簿の地目は農地(田又は畑)ですが、現況が次のような場合には地目はどのように判定するのでしょうか。

(1) 数年前から耕作しないで放置している土地

(2) 砂利を入れて青空駐車場として利用している土地

【回答要旨】

 土地の地目は、登記簿上の地目によるのではなく課税時期の現況によって判定します
 ところで、農地とは耕作の目的に供される土地をいい(農地法21)、耕作とは土地に労費を加え肥培管理を行って作物を栽培することをいいます。また、耕作の目的に供される土地とは、現に耕作されている土地のほか、現在は耕作されていなくても耕作しようとすればいつでも耕作できるような、すなわち、客観的に見てその現状が耕作の目的に供されるものと認められる土地(休耕地、不耕作地)も含むものとされています(平成12年6月1日12構改B第404号農林水産事務次官依命通知)。
 したがって、(1)の耕作していない土地が上記のような状態に該当すれば農地と判定しますが、長期間放置されていたため、雑草等が生育し、容易に農地に復元し得ないような状況にある場合には原野又は雑種地と判定することになります。また、(2)の土地のように駐車場の用に供している土地は、雑種地と判定することになります。

引用:土地の地目の判定-農地|国税庁

②一度農地にすると、再び宅地に戻すのが困難になる

理事 初田秀一

一度地目を畑や田に変更すると、その土地は農地法の規制対象となります。将来、ご自身やお子さんが「やはり家を建てたい」と思っても、今度は農地を宅地にするための農地転用許可が必要になります。特に市街化調整区域などでは、再び宅地に戻すことは極めて難しくなると考えておきましょう。

運営者 稲垣

では最後に、宅地の活用で悩んでいる方へアドバイスをお願いします。

理事 初田秀一

まずは、その土地を将来的にどのように活用したいのかを長期的な視点で考えることが重要です。目的が節税や収益化である場合は、農地化にこだわる必要はありません。駐車場経営として貸し出すなど、他の活用方法も含めて、幅広く比較・検討することをおすすめします。

費用の目安(土地面積100坪の場合)

宅地を農地へ変更する際の費用は、建物の大きさや土の状態によって大きく変わります。一般的には、合計で約390~925万円が目安です。手続き費用よりも、建物の解体や土を入れ替えるなどの「物理的に農地へ近づける工事費」が高くなる傾向があります。

項目単価・相場目安100坪(約330m2)の試算備考
家の解体費用90万円〜420万円/軒90万円〜420万円木造の場合(坪3万4,090円目安)。ガラ撤去含む。
客土・土壌改良費(畑)3万円〜5万円/坪300万円〜500万円宅地の土は農業に適さないため、良質な土を入れ替える費用。
土地家屋調査士報酬3万円〜5万円/案件3万円〜5万円建物滅失登記・地目変更登記の代行。

なお、家の解体費用については次の記事で詳しく解説しています。あわせてご参考になさってください。

転用完了までの手順

法務局での登記を変える前に、まずは「実態」を農地に変える必要があります。

  1. 建物の解体・土壌改良
    建物を解体し、コンクリートガラ等を完全に撤去します。その後、作物が育つ良質な土に入れ替えます。
  2. 耕作の開始
    実際に作付けを行い、継続的に肥培管理(水やり・施肥・除草など)をします。
  3. 農業委員会への届出
    「現況地目変更届」などを農業委員会へ提出します。
  4. 現地確認
    農業委員が現地を調査し、「継続的な耕作の実態」があるかを審査します。
  5. 証明書の発行と地目変更登記
    農業委員会から農地であることの証明書が発行された後、原則として1ヶ月以内に法務局で地目変更登記を行います。

【FAQ】宅地・農地の転用に関するよくある質問

地目変更せずに、宅地を農地(家庭菜園)として利用できますか?

はい、利用すること自体は可能です。

自宅の庭で野菜を育てるだけであれば法的な問題はなく、農地法の許可も不要です。ただし、「畑として使っているから税金の安い地目(農地)に変更したい」といった節税目的の地目変更は、家庭菜園レベルでは原則として認められていません。

次の各号に掲げる地目は、当該各号に定める土地について定めるものとする。この場合には、土地の現況及び利用目的に重点を置き、部分的にわずかな差異の存するときでも、土地全体としての状況を観察して定めるものとする。

引用:不動産登記事務取扱手続準則(第68条)|法務省

1,000m2を超える広い農地を転用する場合、どんな法的手続きや許可が必要になりますか?

「農地法」の許可に加え、「都市計画法(開発許可)」が必要になる可能性が高いです。

一般的に市街化区域で500m2〜1,000m2以上(自治体によって変動あり)、市街化調整区域で特定の建築を行う場合は、開発許可申請が必要です。この際、道路幅の確保や排水設備の整備など技術的な基準を満たす必要があり、造成費用も高額になりがちです。

農地転用後の土地の活用方法はどんなものがありますか?

売却以外に、「賃貸経営」や「自己活用」など多くの選択肢があります。

単に宅地として売るだけでなく、保有して収益化する方法があります。立地や予算に合わせて選ぶことが重要です。

具体的な活用法特徴・メリット
アパート・マンション定番の活用法。相続税対策(貸家建付地評価)に有効。
戸建賃貸分割しやすいため「争族」対策になり、狭い土地でも可能。
サービス付き高齢者向け住宅需要が増加しており、国の補助金が使える場合がある。
駐車場・コインパーキング初期費用が安く、将来的に売却や別用途への変更がしやすい。
トランクルーム・太陽光駅から遠い郊外地や、不整形地でも活用可能。

まとめ

宅地と農地は、固定資産税などの税負担土地利用に関する法的な制限がそれぞれ異なります。

  • 農地を宅地に転用する場合:まず「転用許可が下りる立地かどうか」と、「費用の総額をしっかり試算できているか」を確認することが重要です。
  • 宅地を農地に転用する場合:固定資産税などの節税効果が期待できる一方で「継続的な耕作」が必須となり、将来的に再建築不可となるリスクも考慮する必要があります。

いずれのケースも、個人の判断だけで進めると「許可が下りない」「元に戻せない」「想定外の工事費がかかった」といったトラブルになりかねません。計画の初期段階で、地元の農業委員会や、農地転用・開発許可に詳しい行政書士・不動産会社へ相談することをお勧めします。

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この記事を書いた人

「解体工事の準備から完了まで、初めての方でも迷わないよう、一つずつ丁寧に解説します。」

「初心者にもわかりやすく」をモットーに、解体工事の全工程をステップバイステップで解説する記事を得意とするライター。毎週の専門勉強会で得た知識や業者様へのインタビューを元に、手続きの流れや専門用語を図解なども交えながら、読者が迷わずに理解できる記事作りを心がけている。

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