この記事の案内人・編集長
稲垣 瑞稀
この記事では、実家の処分で後悔しないために知っておきたいポイントを、実家の解体に数多く携わってきた「あんしん解体業者認定協会」の監修のもと網羅的にお伝えします。
- 売却・解体・活用など、実家の状況に応じた主な処分方法と費用の目安がわかります。
- 譲渡所得税を軽減できる「3,000万円特別控除」や取得費の特例についてわかります。
- 「古家付きで売る」か「更地にする」かを判断するための基準と、実家処分の流れがわかります。
監修者
現場解説一般社団法人あんしん解体業者認定協会 理事・解体アドバイザー
初田 秀一(はつだ しゅういち)
解体アドバイザー歴15年、相談実績は11万件以上。お客様の不安を笑顔に変える現場のプロフェッショナル。「どんな些細なことでも構いません」をモットーに、一期一会の精神でお客様一人ひとりと向き合い、契約から工事完了まで心から安心できる業者選定をサポート。この記事では現場のリアルな視点から解説を担当。
運営責任者「スッキリ解体」編集長
稲垣 瑞稀(いながき みずき)
解体業界専門のWebメディアでWebディレクターとして6年以上、企画・執筆・編集から500社以上の解体業者取材まで、メディア運営のあらゆる工程を経験。正しい情報が届かず困っている方を助けたいという想いから、一個人の責任と情熱で「スッキリ解体」を立ち上げ、全記事の編集に責任を持つ。
執筆「スッキリ解体」専属ライター
馬場 美月(ばば みづき)
「解体工事の準備から完了まで、初めての方でも迷わないよう、一つずつ丁寧に解説します。」
「初心者にもわかりやすく」をモットーに、解体工事の全工程をステップバイステップで解説する記事を得意とするライター。毎週の専門勉強会で得た知識や業者様へのインタビューを元に、手続きの流れや専門用語を図解なども交えながら、読者が迷わずに理解できる記事作りを心がけている。
実家の処分前に知っておきたい「法的義務」と「権利」
実家を処分する際は、現在の名義状況(相続済みか、まだ親名義のままか)によって必要な手続きが変わります。まずは、関係する法律やルールを押さえておきましょう。
2024年4月施行の「相続登記義務化」と罰則
不動産の名義変更(相続登記)は、2024年4月1日から義務化されました。相続したことを知った日から3年以内に手続きを行う必要があり、正当な理由なく放置すると10万円以下の過料が科される可能性があります。
名義が亡くなった親のままでは売却契約を結んだり、解体工事を依頼したりといった手続きが一切できません。実家の処分を進めるうえで、相続登記は最初に済ませておくべき重要な手続きです。
所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。
なお、相続登記は自分で行うこともできますが、多くの場合は司法書士に依頼して進めます。日本司法書士会連合会のアンケートによると、司法書士へ相続登記を依頼した場合の費用は約6〜10万円が目安とされています。
| 低額者10%の平均 | 全体の平均値 | 高額者10%の平均 | |
| 北海道地区 | 28,320円 | 60,983円 | 97,843円 |
| 東北地区 | 35,457円 | 60,667円 | 99,733円 |
| 関東地区 | 39,212円 | 65,800円 | 103,350円 |
| 中部地区 | 37,949円 | 63,470円 | 116,580円 |
| 近畿地区 | 45,842円 | 78,326円 | 118,734円 |
| 中国地区 | 37,037円 | 65,670円 | 111,096円 |
| 四国地区 | 40,683円 | 65,578円 | 99,947円 |
| 九州地区 | 38,021円 | 62,281円 | 96,892円 |
親が健在な場合の「意思能力」と代理権
親が施設に入っているなど生前に実家の処分を検討するケースでは、親に「判断できる力(=意思能力)」があるかどうかが重要なポイントになります。
- 親に判断能力がある場合
親本人が売主となります。ただし、手続きが難しい・体力的に不安がある場合は、親が子どもに委任状を書けば子どもが代理人として売却手続きを進められます。 - 判断能力がない場合(認知症など)
この場合、委任状は効力を持たず、家庭裁判所に申し立てて「成年後見人」を選任する必要があります。手続きには半年以上かかることもあり、後見人は親族ではなく専門職(司法書士・弁護士)が選ばれることもあります。
運営者 稲垣手続きが複雑になる前に、親が元気なうちに「家族信託」を結んでおくという方法があります。家族信託をしておくと、親が認知症になったあとでも、家族(子どもなど)が代わりに売却や財産管理の手続きができるようになります。
「家族信託」とは、一言でいうと『財産管理の一手法』です。
資産を持つ方が、特定の目的(例えば「自分の老後の生活・介護等に必要な資金の管理及び給付」等)に従って、その保有する不動産・預貯金等の資産を信頼できる家族に託し、その管理・処分を任せる仕組みです。いわば、「家族の家族による家族のための信託(財産管理)」と言えます。
家族・親族に管理を託すので、高額な報酬は発生しません。したがって、資産家のためのものでなく、誰にでも気軽に利用できる仕組みです。
実家の処分を先延ばしにする2つのデメリット
「とりあえず放置しておこう」という判断には、金銭的・法的なリスクが潜んでいます。ここでは、その具体的な理由を解説します。
1. 「特定空き家」指定で固定資産税が最大6倍になる
空家等対策特別措置法では、倒壊の恐れがある・衛生上問題があるなど「管理不全」と判断された空き家を「特定空き家」に指定できると定めています。
通常、住宅が建っている土地には「住宅用地の特例」が適用され、固定資産税は最大で1/6まで軽減されています。しかし特定空き家となり行政から「勧告」を受けると、この特例が解除されます。
その結果、固定資産税が約4〜6倍に増える可能性があります。
専ら人の居住の用に供する家屋又はその一部を人の居住の用に供する家屋で政令で定めるものの敷地の用に供されている土地で政令で定めるもの(前条(第十一項を除く。)の規定の適用を受けるもの並びに空家等対策の推進に関する特別措置法(平成二十六年法律第百二十七号)第十三条第二項の規定により所有者等(同法第五条に規定する所有者等をいう。以下この項において同じ。)に対し勧告がされた同法第十三条第一項に規定する管理不全空家等及び同法第二十二条第二項の規定により所有者等に対し勧告がされた同法第二条第二項に規定する特定空家等の敷地の用に供されている土地を除く。以下この条、次条第一項、第三百五十二条の二第一項及び第三項並びに第三百八十四条において「住宅用地」という。)に対して課する固定資産税の課税標準は、第三百四十九条及び前条第十一項の規定にかかわらず、当該住宅用地に係る固定資産税の課税標準となるべき価格の三分の一の額とする。
2. 建物の所有者には継続的な管理責任が発生する
民法では、建物の所有者には建物を安全な状態に保つ責任があると定められています。たとえば老朽化によって屋根瓦が落下したり、劣化したブロック塀が倒れたりして通行人がけがをした場合、所有者が損害賠償を負う可能性があります。
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
また、相続放棄をした場合でも、すぐにその家に対する責任がなくなるわけではありません。放棄した時点で家を実際に使っていたり荷物を置いて管理していたりした場合には、次の管理者が決まるまでの間、最低限の管理を行う義務が残るとされています。そのため「相続放棄をしたからもう関係ない」と思って放置すると、思わぬトラブルにつながることがあるため注意が必要です。
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
実家の処分を判断する4つのチェックポイント
次のどれかに当てはまる場合は、「今のうちに実家をどうするか」を考えておくと、将来的なトラブルや金銭的リスクを避けやすくなります。
1. すでに空き家で、今後住む予定がない
誰も住まない家は傷むスピードが早く、固定資産税などの維持費もかかります。放置すると資産価値が下がってしまうこともあります。
2. 実家が遠方にあり、管理が難しい
換気・草刈り・郵便物の確認など、空き家の管理は意外と手間がかかります。遠方に住んでいると、十分に管理できずトラブルの原因になることがあります。
3. 建物が「旧耐震基準」で建てられている
1981年5月以前に建てられた建物は「旧耐震基準」でつくられているため、地震で倒壊するリスクが高く、買い手がつきにくい傾向があります。そのまま放置すると資産価値が下がり続けてしまうため、処分や活用の判断は早めに行うことをおすすめします。
4. 賃貸や駐車場などの活用の見込みがない
収益化の見込みがない場合は維持コストばかりがかかり、負担が大きくなります。将来の無駄な支出を防ぐためにも処分を検討する価値があります。
主な実家の処分方法と、それぞれにかかる費用
実家の扱い方は、「早く現金化したいのか」「最終的に手元にいくら残るのか」といった優先順位によって大きく変わります。ここでは、代表的な処分方法と必要な費用をまとめました。
1. 建物付きで売却する
建物付きで売却する方法は、実家の処分として最も一般的です。売却には「仲介」と「買取」の2つのパターンがあります。
仲介
不動産会社に買主を探してもらう、最も一般的な売却方法です。高値で売れる可能性がある一方、買主が見つかるまでに数ヶ月〜半年以上かかる場合があります。主な費用は次のとおりです。
- 仲介手数料の上限:売却価格×3%+6万円+消費税
- 印紙税:1,000円〜数万円
- 登記費用:2万〜3万円
例えば、3,000万円のマンションなら約109万円、5,000万円の一戸建てなら約175万円が必要となる諸費用の目安です。
- ケースA:3,000万円のマンションを売却する場合
-
- 仲介手数料:105万6,000円
- 印紙税:1万円
- 登記費用:約3万円
- 【合計】約109万6,000円
- ケースB:5,000万円の一戸建てを売却する場合
-
- 仲介手数料:171万6,000円
- 印紙税:1万円
- 登記費用:約3万円
- 【合計】約175万6,000円
買取
買取は、不動産会社(買取業者)に物件を直接買い取ってもらう方法です。売却価格は仲介で売る場合の7〜9割程度になるものの、最短1週間〜1ヶ月ほどで現金化できるスピード感が特徴です。
買取のメリットは、不動産会社が買主となる「自社買取」であれば、数十万〜100万円単位になる仲介手数料がかからない点です。ただし、不動産会社が別の買取業者を探して取引を進める「買取仲介」の場合は手数料が発生するため、事前に自社買取かどうかを必ず確認しておきましょう。
また、室内が古いままでもそのまま買い取ってもらえることが多く、ハウスクリーニングや測量にかかる費用が不要になるケースもあります。
運営者 稲垣なお、仲介・買取のいずれの場合も、建物付きで土地を売却する際には家具や家電などの不用品を撤去して引き渡す必要があります。そのため、不用品処分費(戸建て住宅の場合は2万円〜30万円程度)が発生することがあります。
2. 更地にして売却する
建物が古く、買い手がつきにくい場合は、建物を解体して更地として売却する方法があります。
一般的な木造住宅(30〜50坪)の解体費用は90万〜420万円ほどが目安ですが、建物の構造・立地・アスベストの有無などによって大きく変動します。
なお、「家の解体費用」については別記事で詳しく解説しています。実家の解体を検討している方は、ぜひご参考になさってください。

3. 実家を活用する
売却せず、アパート経営や駐車場経営などを行い、継続的な収益を得る方法です。ただし、活用方法によってはまとまった初期費用が必要になります。
賃貸経営(アパート・マンション等)
家賃収入を得る方法です。既存の建物をリフォームして貸すほか、更地にしてアパートを新築するケースもあります。新築する場合、建物の建築費(本体工事費)だけでなく、外構工事費(駐車場や塀の整備)、既存建物の解体費、登記費用などの諸費用が発生します。一般的には「不動産投資ローン」を利用して資金調達を行いますが、自己資金が初期費用の1〜2割程度あると審査や経営がスムーズになります。
なお、土地がある場合の新築費用の目安は以下の通りです。
| 地域 | 建築費 |
| 全国平均 | 3,861.3万円 |
| 三大都市圏 | 4,110.7万円 |
| 首都圏 | 4,191.6万円 |
| 近畿圏 | 4,142.1万円 |
| 東海圏 | 3,894.5万円 |
| その他地域 | 3,623.2万円 |
駐車場経営
建物を解体して、月極駐車場やコインパーキングとして活用する方法です。アパート経営と比べると解体費や舗装費などの初期費用が抑えられる一方、収益性はやや低くなる傾向があります。
駐車場の新設費用の目安は次の通りです。
- 月極駐車場(砂利敷き):約2,000円/m2
最も安価な方法で、砂利を敷き、ロープなどで区画を分ければすぐに運営が可能です。 - コインパーキング(アスファルト舗装):4,000〜6,000円/m2+機械設置費用(数百万円)
見栄えが良く、車も停めやすい舗装方法です。個人で運営する場合は、精算機(約100万円/台)、ロック板(約10万円/台)、施工費(約100万円~)などの設備費が別途必要になります。
また、道路と敷地の間に段差があり車が出入りしにくい場合は、歩道切り下げ工事(30万~100万円程度)が必要になるケースもあります。
資金がなくてもできる活用法
「初期費用は用意できないけれど、土地は手放したくない」という場合には、次のような方法も選択肢になります。
- 等価交換方式:ディベロッパー(開発会社)に土地を提供し、その代わりに建設された建物の一部(区分所有権)を受け取る方法です。自己資金ゼロでもマンション経営などを始められる可能性があります。
- 事業用定期借地権:土地を一定期間(10〜50年未満など)事業者に貸し出す方法です。建物の建築や解体は借り主が行うため、土地所有者は費用負担なく地代収入を得られます。
- 土地信託:土地の運用を信託会社に任せ、得られた収益の配当を受け取る仕組みです。管理の手間がかからず、リスクを抑えながら土地を活用できます。
4. その他の処分方法(放棄・寄付など)
自治体への寄付
自治体へ土地を寄付する方法です。ただし、公共目的として明確な利用計画がなければ受け入れられないことが多く、実現のハードルは高めです。
自治体は、自治体が必要としている空き家の寄付は受けてくれますが、利用目的のない空き家の寄付は受けてくれません。寄付を受けてくれる例としては、防災倉庫置場、ポケットパーク(住宅街の小規模な公園)、住民の交流場所としてなどが挙げられます。
自治体によって対応は異なりますので、空き家の所在地にある自治体までお問い合わせください。
相続放棄
家庭裁判所で行う手続きにより、相続財産をすべて放棄する方法です。プラスの財産も含め一切引き継げなくなるため、慎重な判断が求められます。
相続放棄については、以下の記事でさらに詳しく解説しています。あわせてご覧になってください。

相続土地国庫帰属制度(2023年開始)
相続した土地を国に引き渡せる制度です。利用するには、建物を解体して更地にしておくなど一定の条件を満たす必要があります。また、手続きの際には「負担金」と呼ばれる費用を支払います。
負担金は、都市部以外の宅地や雑種地であれば一律20万円が基本です。一方、市街化区域内の宅地や森林(山林)の場合は面積に応じた計算式で算出されるため、土地が広いほど費用も高くなります。
制度の詳しい内容は、法務省が公開している公式ページで確認できます。
解体と売却のどちらを選ぶべき?
高く売りたい場合は、先に建物を解体して更地にしておく方が有利です。立地が良い土地であれば買い手がつきやすく、価格交渉もスムーズに進みやすくなります。
一方で、できるだけ早く手放したい場合や、多少安くても構わない場合は、建物を残したまま「現況渡し」で売却する方法が向いています。価格を下げることで早期売却につながり、建売業者が購入するケースもあります。
なお、以下の記事では解体と売却のより詳しい判断ポイントや、実際の成功・失敗例も紹介しています。ぜひご参考になさってください。

実家を処分・活用するための一般的な流れ
「売却」「活用」「解体」など、どのような方法を選ぶにせよ、まずは権利関係を整理し、家の価値を把握することから始まります。ここでは、実家を処分・活用するための標準的な6つのステップを解説します。
1. 親族間での話し合いと「相続登記」
まずは相続人全員で「実家をどうするか」の方向性を話し合います。また、並行して相続登記(名義変更)の準備を進めます。
親が存命の場合は、本人の「売りたい」「住み続けたい」といった意思を確認します。もし認知症などで判断能力(意思能力)がないとみなされると成年後見人を立てない限り売却契約ができなくなるため、元気なうちに話し合っておくことが重要です。
一方、すでに親が亡くなっている場合は、目的に応じて手続きを進めます。
- 先に解体する場合
建物の解体工事自体は、相続登記が未完了でも「相続人全員の同意」があれば実施可能です。ただし、トラブル防止のために同意は書面で残すのが一般的です。また、解体後の「更地」を売る段階では土地の相続登記が必要になります。 - 売却する場合(建物付き・更地ともに)
亡くなった親名義のままでは、たとえ相続人全員の同意があっても売却手続き(買主への名義変更)はできません。速やかに相続登記を完了させましょう。
2. 不動産会社への査定依頼
「いくらで売れるのか」「賃貸需要はあるのか」という客観的な数値を知ることで、『売るべきか、貸すべきか』の判断材料になります。解体を検討している場合でも、まずは「建物付き」と「更地」の両方で査定を受けるのがおすすめです。
3. 処分方針の決定と業者選定
査定結果と親族の意向を踏まえ、最終的な方針(そのまま売却・解体して売却・活用・放棄など)を決定します。方針が決まったら、目的に合った業者(不動産業者・解体業者・リフォーム会社など)を選定して契約を結びます。
4. 家財道具の整理・処分
売却するにせよ解体するにせよ、家の中にある家具・家電・不用品は原則として空にする必要があります。自分たちで少しずつ片付けるか、専門の不用品回収業者に依頼します。
残置物の撤去については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧になってください。
5. 契約・引き渡し・工事の実行
決定した方針に従って手続きを進めます。
- 売却の場合:買主と売買契約を結び、代金の決済と鍵の引き渡しを行います。
- 解体の場合:解体工事を開始します。
- 活用の場合:リフォーム工事や入居者の募集を開始します。
- その他の場合:相続土地国庫帰属制度の申請など、必要な手続きを行います。
なお、解体工事の具体的な流れについては下記の記事で詳しくご紹介しています。実家の解体をご検討中の方は、ぜひご参考になさってください。

6. 確定申告(売却した翌年の2月〜3月)
不動産を売却して次の計算式で算出した結果「譲渡所得金額(利益)」が出た場合は、原則として売却した翌年の2月16日〜3月15日の間に確定申告が必要です。
- 譲渡価額−(取得費+譲渡費用)=譲渡所得金額(利益)
特に、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除(いわゆる3,000万円特別控除)」を利用する場合、確定申告が特例適用の必須条件です。たとえ特例の適用で税額がゼロになる場合でも、申告を忘れると特例が認められず、通常どおり課税されてしまうため注意が必要です。
現在はスマホとマイナンバーカードを使った「e-Tax」での申告が推奨されており、自宅から手続きできます。入力マニュアルや申告書類の様式は、例年1月頃に下記の国税庁公式ページで公開されます。早めに情報を確認して必要書類の準備を進めておきましょう。
実家の処分費用を抑える方法
実家を売却・処分する際は、税金や諸費用を工夫することで最終的に手元に残る金額を大きく変えられます。ここでは「解体」と「売却」、それぞれのケースで費用を抑えるポイントをご紹介します。
解体する場合
解体費用は、工夫次第で数十万円単位の節約が可能です。まずは、老朽空き家の除却やブロック塀撤去などに利用できる自治体の補助金制度がないか確認しましょう。また、業者の繁忙期(12月〜3月)を避けて解体時期を調整したり、家の中の不用品を自分で処分したりするだけでも費用を抑えられます。
そして最も重要なのが、複数の業者から見積もりを取る「相見積もり」です。解体業者によって保有する重機や処分ルートが異なるため、全く同じ建物でも数十万円以上の価格差が出ることが珍しくありません。
なお、以下の記事ではこれらの節約ポイントをさらに詳しく解説しています。「家の解体費用が払えない……」とお悩みの方は、ぜひご参考になさってください。

売却する場合
1. 購入時の契約書を探し出し「取得費」を正確に把握する
実家を売却して利益が出ると「譲渡所得税」がかかります。税額は次の式で計算されます。
譲渡所得=売却価格−(取得費+譲渡費用)
ここで問題になるのが、「取得費(購入時の価格)」を証明できない場合です。契約書や領収書が見つからないと、税務上は「概算取得費」として売却価格の5%しか認められません。
売った土地建物が先祖伝来のものであるとか、買い入れた時期が古いなど、取得費が分からない場合には、売った金額の5パーセント相当額を取得費とすることができます。
- 例:実家が5,000万円で売れた場合
-
- 契約書がない場合
→取得費は売却額の5%(250万円)とみなされる
→利益(=課税対象)が大きくなるため、税金が高くなる - 購入時の価格が3,000万円と証明できる場合
→取得費に3,000万円から減価償却費相当額(所有期間に応じて価値が減った分)を控除した金額を計上できる
→利益が小さくなるため、結果として税金も減らせる
- 契約書がない場合
つまり、概算取得費(売却額の5%)で計算するより、実際の購入額をもとに計算したほうが税負担は有利です。古い資料でも見つかれば節税効果が大きいため、諦めずに探すことが重要です。
2. 「被相続人の居住用財産(空き家)の3,000万円特別控除」を活用する
相続した実家を売って利益が出そうな場合でも、この特例を使えば最大3,000万円まで利益を差し引けます。その結果、利益が3,000万円以内であれば課税される金額がゼロになり、譲渡所得税はかかりません。
この特例を受けるためには、家屋と売却方法それぞれについて一定の条件を満たす必要があります。
- 家屋の要件:
-
- 1981年5月31日以前に建築された家であること(旧耐震基準)。
- マンション(区分所有建物)ではないこと。
- 相続開始の直前、亡くなった方(被相続人)が1人で住んでいたこと(※老人ホームに入所していた場合などの特例あり)。
- 売却の要件:
-
- 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること。
- 売却代金が1億円以下であること。
- 相続してから売却まで、事業用や貸付用(賃貸など)に使っていないこと。
- 親子や夫婦など、特別な関係者への売却ではないこと。
ただし、2024年以降の売却からは、この特例の内容が一部変更されています。特に注意したいのは、実家を相続した相続人が3人以上いる場合、特別控除の上限額が従来の3,000万円ではなく2,000万円に引き下げられる点です。人数によって控除額が変わるため、兄弟姉妹など複数人で相続しているケースでは事前に控除額を確認しておくことが重要です。
また、この特例を利用するためには確定申告が必要です。申告の際には、市区町村が発行する「被相続人居住用家屋等確認書」を事前に取得しておかなければなりません。この確認書がないと特例を使えないため、早めの準備が欠かせません。
特例の要件は細かく、状況によって判断が難しい場合もあります。詳細は下記の国税庁公式ページでも確認できますので、まずは最新情報をご確認ください。ご自身のケースが適用対象になるか不安な場合は、早めに税務署や税理士へ相談されることをおすすめします。
【FAQ】実家処分に関するよくある質問
実家が古すぎて売れそうにありません。
諦めるのはまだ早いです。「古家付きのまま売る」「解体して売る」といった方法も考えてみましょう。
建物が古くても、立地が良ければ「古家付き土地」として買い手が見つかることがあります。一方で1981年以前の旧耐震基準で建てられた家は、解体して更地にしたほうが売却までのスピードが早く、価格も高くなるケースが少なくありません。
また、仲介で買い手がつかなくても、不動産会社による「買取」なら現状のまま売却できる場合もあります。「そのまま売る」「解体して売る」両方で査定を受けて比較してみることをおすすめします。
兄弟姉妹で「売りたい/残したい」と意見が分かれる場合、費用分担はどう進めればよいでしょうか?
売却には共有者全員の同意が必要です。意見がまとまらない場合は、次の3つの方法を検討してみましょう。
- 換価分割:不動産を売却し、諸経費を差し引いた現金を兄弟で分ける方法です。1円単位まで明確に分割できるため公平性が高く、最もトラブルになりにくいのが特徴です。
- 代償分割:不動産を引き継ぎたい相続人がその物件を取得し、その代わりとして他の相続人に「代償金(=不公平を調整するための現金)」を支払う方法です。
- 現物分割:「兄は不動産、弟は預貯金」といったように財産ごとの種類で割り振る、あるいは広い土地であれば測量して物理的に土地を分ける(分筆)方法です。単独名義にできるため手続きはスムーズですが、一軒家がある場合は物理的に分けられないため不公平感が出やすい点に注意が必要です。
なお、2024年4月から相続登記が義務化されています。話し合いが進まないからといって放置すると、過料の対象になったり、将来的に権利関係が複雑化したりする恐れがあります。早めに司法書士など専門家へ相談しましょう。
実家にある仏壇はどうやって処分しますか?
まず「魂抜き」の供養を行い、その後に専門業者やお寺へ引き取ってもらいます。
仏壇や神棚を処分する際は、お寺や神主に依頼して「魂抜き」を行うのが一般的です。供養が済めば「単なる物」として扱えるため、次のような方法で処分できます。
- お寺にお焚き上げを依頼する
- 仏具店に引き取りを依頼する
※新しい仏壇への買い替えでなくても対応してくれる店があります。 - 不用品回収・遺品整理業者に依頼する
※解体業者でも処分できる場合がありますが、「供養済みであること」が条件になるケースが大半です。
遠方に住んでいてなかなか実家に行けない場合、どう進めればよいですか?
オンライン対応が充実した業者を選ぶことで、負担を減らせます。
遠方からの管理は「移動費」と「時間」の負担が大きくなるため、自分たちだけで無理に進める必要はありません。現在は、現地調査・見積もり・契約・工事の完了報告まで、LINE・メール・ビデオ通話のみで完結できる業者も増えています。
また、郵便物の管理や草刈りなどが必要な場合は、現地の「空き家管理サービス」を利用する方法もあります。いずれにせよ、こまめに報告・連絡をしてくれる信頼性の高い業者を選ぶことが、遠隔での実家処分を成功させるポイントです。
まとめ:まずは「査定」から始めてみましょう
実家の処分には気持ちの整理や様々な手続きが必要になるため、不安や負担を感じてしまうものです。しかし、正しいステップを理解し、一つずつ進めていけば決して難しいものではありません。まずは現状の価値を把握し、家族で方向性を話し合うことから始めましょう。
- 1. 査定と見積もりで「数字」を把握する
-
最初のステップは、「今の実家がどれくらいの価値を持っているのか」を知ることです。不動産会社による査定(仲介・買取の両方)と、必要であれば解体工事の見積もりも取り、「古家付きのまま売るか」「解体して売るか」といった判断を下す材料を揃えましょう。
- 2. 家族で方針を決め、相続登記を済ませる
-
集めた情報をもとに「売却・解体・活用」など、どの方針が最適かを家族全員で話し合いましょう。また、2024年から義務化された「相続登記」がまだの場合は、このタイミングで司法書士へ依頼するなどして、早めに手続きを済ませておくことをおすすめします。
- 3. 信頼できる業者と進め、最後は確定申告まで忘れずに
-
方針が決まったら、目的に合った専門業者(不動産会社・解体業者など)と契約を進めます。売却で利益が出た場合や「3,000万円特別控除」などを利用する際は、翌年2~3月に確定申告を行って手続きが完了します。


