この記事の案内人・編集長
稲垣 瑞稀
「親から相続した空き家、解体したいけど一体いくらかかるんだろう……」
空き家の解体を考える誰もが直面する、この大きな不安。その漠然とした不安を「スッキリ」させるため、この記事では11万件以上の相談実績を持つ専門家に、費用に関する読者の疑問を一つひとつぶつけてきました。
この記事は、その直接インタビューで得られた専門家の生の声をもとに、空き家の解体費用相場を分かりやすく伝え、3つの注意点についても解説します。
監修者
現場解説一般社団法人あんしん解体業者認定協会 理事・解体アドバイザー
初田 秀一(はつだ しゅういち)
解体アドバイザー歴15年、相談実績は11万件以上。お客様の不安を笑顔に変える現場のプロフェッショナル。「どんな些細なことでも構いません」をモットーに、一期一会の精神でお客様一人ひとりと向き合い、契約から工事完了まで心から安心できる業者選定をサポート。この記事では現場のリアルな視点から解説を担当。
運営責任者「スッキリ解体」編集長
稲垣 瑞稀(いながき みずき)
解体業界専門のWebメディアでWebディレクターとして6年以上、企画・執筆・編集から500社以上の解体業者取材まで、メディア運営のあらゆる工程を経験。正しい情報が届かず困っている方を助けたいという想いから、一個人の責任と情熱で「スッキリ解体」を立ち上げ、全記事の編集に責任を持つ。
執筆「スッキリ解体」専属ライター
酒巻 久未子(さかまき くみこ)
「解体工事でお悩みの方に、同じ主婦の立場から実用的な情報をお届けします。」
数多くのお客様や業者様へのインタビューを通じて、お客様が抱えるリアルな悩みに精通。実際の解体工事現場での取材を重ね、特に「お金」や「近隣トラブル」といった、誰もが不安に思うテーマについて、心に寄り添う記事を執筆。子育て中の母親ならではの、きめ細やかな視点も大切にしている。
【構造別】あなたの空き家の解体費用をシミュレーション

まず、ご自身の空き家の費用相場を大まかに掴むことが重要です。解体費用は主に建物の構造によって異なり、坪単価で計算されるのが一般的です。
以下に、構造別の費用相場をまとめました。
| 建物の構造 | 坪単価の目安 | 費用相場 |
|---|---|---|
| 木造 | 3万4,090円 | 90万円~250万円 |
| 鉄骨造 | 4万9,102円 | 220万円~380万円 |
| 鉄筋コンクリート造(RC造) | 5万9,169円 | 270万円~420万円 |
たとえば、日本でもっとも一般的な規模の木造家屋であれば、90万円から250万円程度が一つの目安となります。
もちろん、これはあくまで基本的な建物の解体費用です。立地条件や後述する付帯工事の有無によって金額は変動しますが、まずはこの相場感を頭に入れておきましょう。家の解体費用相場の詳細については、次の記事でご紹介しています。

空き家の解体費用の内訳

業者から見積もりを取った際に、その内容を正しく理解できなければ不当な請求を見抜けません。「見積もりの見方がよくわからない……」という方もご安心ください。
解体費用の内訳は、大きく分けて以下の3つで構成されています。
- 本体工事費:建物そのものを取り壊すための費用です。足場の設置や養生シートなどもここに含まれます。
- 付帯工事費:建物以外のものを撤去する費用です。ブロック塀、カーポート、庭石、庭木などの撤去が該当します。
- 諸経費:工事車両の駐車料金や、官公庁への書類申請費用、近隣への挨拶回りの費用などです。
見積もりの項目が「一式」表記の場合
見積書の中で「一式」という表記が多用されている場合は危険信号のサインです。何にいくらかかるのかが不明瞭なため、後から高額な追加費用を請求されるトラブルに繋がるかもしれません。
とくに、以下の項目は追加費用が発生しやすいです。
- 地中埋設物(過去の建物の基礎、浄化槽など)の撤去費用
- アスベスト(石綿)の除去費用
- 家の中に残された家財道具(残置物)の処分費用
これらの費用が含まれているか、別途発生する可能性があるかを契約前に業者へ確認しましょう。
※クリックで詳細が読めます
空き家解体後の固定資産税と使える補助金制度

空き家の解体で、費用と同じくらい、いや、それ以上に注意しなければならないのが「税金」の問題です。知らずに進めてしまうと、翌年から固定資産税が何倍にも跳ね上がるという話を聞き、不安に思われるかもしれませんが、これには正確な理解が必要です。
ここでは、あなたが後悔しないために、絶対に知っておくべき税金と補助金の知識について、詳しく解説します。
固定資産税が「最大6倍」は誤解!本当の仕組みを解説
「家を解体して更地にすれば、固定資産税は安くなるはず」という期待とは裏腹に、「解体すると固定資産税が最大6倍になる」という情報を目にし、不安に思われるのも無理はありません。
しかし、この「最大6倍」という情報は、不安を煽るだけで必ずしも正確ではありません。正しくは、固定資産税は「①建物分(解体でゼロになる)」と「②土地分(特例が外れて上がる)」の合計額で決まります。
したがって、最終的な税額は増えることもあれば、土地の評価額が低く、老朽化していても建物の価値が高く評価されていた物件などでは、逆に総額が下がるケースがあります。
まずはご自身の納税通知書で「土地」と「建物」それぞれの評価額を確認することから進めましょう。
| 解体後の固定資産税変動例 | ||||
|---|---|---|---|---|
| ケース | 状況 | 解体前の税額(例) | 解体後の税額(例) | 差額 |
| A:税額が上がる | 都心部で土地の評価額が高い | 土地5万円+建物5万円=10万円 | 土地30万円+建物0円=30万円 | +20万円 |
| B:税額が下がる | 地方で土地の評価額が低い | 土地1万円+建物8万円=9万円 | 土地6万円+建物0円=6万円 | -3万円 |
【初田理事に聞いた】納税通知書のどこを見れば、解体後の税額を予測できる?
固定資産税の話は、読者の関心も非常に高いです。ここからは、現場と顧客対応のプロである初田理事にお話をうかがいます。
現場解説
一般社団法人あんしん解体業者認定協会 理事・解体アドバイザー
初田 秀一 (はつだ しゅういち)
解体アドバイザー歴15年、相談実績は11万件以上。お客様の不安を笑顔に変える現場のプロフェッショナル。「どんな些細なことでも構いません」をモットーに、一期一会の精神でお客様一人ひとりと向き合い、契約から工事完了まで心から安心できる業者選定をサポート。この記事では現場のリアルな視点から解説を担当。
稲垣:「解体後の税金がいくらになるか、自分で簡単に見当をつけたい」という声が非常に多いです。何か良い方法はありますか?
理事 初田秀一納税通知書の「減免税額」またはそれに類する項目をご確認ください。この金額が、主に「住宅用地の特例」によって減額されている額に相当します。

稲垣:「減免税額」の確認後、税額の計算方法を教えてください。
理事 初田秀一まず納税額は、「①建物の固定資産税」と「②住宅用地の特例により減額された土地の固定資産税」の合計額です。
建物を解体した場合、「①建物の固定資産税」は翌年度から課税されなくなります。
理事 初田秀一しかし同時に、土地に対する「住宅用地の特例」の適用もなくなるため、減額されていた土地の税額が本来の額に戻ります。結果として土地の税額が上がり、納税総額も増えることが一般的です。
解体後の税額の概算方法: 現在の「土地の固定資産税額」+「減免税額」
この計算により、解体後の土地にかかるおおよその税額を把握できます。あくまで概算となりますので、正確な税額については管轄の市区町村役場の資産税課へお問い合わせください。
活用必須!国や自治体の解体費用補助金・助成金とは
高額な解体費用や税金の話で、少し不安にさせてしまったかもしれません。しかし、ご安心ください。あなたの負担を軽減してくれる、心強い味方がいます。それが、国や自治体が設けている「解体費用補助金・助成金制度」です。
これは、倒壊の危険性があるなど、特定の条件を満たす空き家の解体を促進するために、費用の一部を補助してくれる制度になります。補助額は自治体によってさまざまですが、費用の2分の1、上限50万円といったケースが多く、条件によっては100万円以上の補助が受けられることも。
- 一定期間以上、誰も住んでいない空き家であること
- 自治体による老朽度の診断で「危険」と判断された建物であること
- 税金の滞納がないこと
自治体ごとの補助金制度の探し方と申請方法
補助金制度の検索方法は、「(市区町村名) 空き家 解体 補助金」とインターネットで検索すれば、お住まいの自治体の情報を見つけられます。
注意点として、補助金の申請は解体工事の契約前に行う必要があるのが一般的です。また、年度ごとに予算が決まっているため、申請期間が限られている場合や、申し込みが多数の場合は抽選になることもあります。
解体を検討し始めたら、まずは自治体の担当窓口(都市計画課や建築指導課など)に問い合わせて、制度の有無や条件、申請スケジュールを確認することをオススメします。
空き家の補助金に関する情報を網羅した総合ガイドは以下からご確認ください。

その空き家、放置は危険!解体しない場合の3大リスク

「解体費用もかかるし、もう少しこのままにしておこうかな……」相続した実家など、思い入れのある家であれば、そう考えてしまうお気持ちもよく分かります。
しかし、空き家を放置し続けることには、あなたが考えている以上の大きなリスクが潜んでいるのです。問題を先延ばしにすることで、かえって金銭的・精神的な負担が増大するケースを、私たちは現場で数多く見てきました。
ここでは、解体しない場合の「3大リスク」についてご紹介します。
リスク1:倒壊・火災・犯罪誘発など近隣への迷惑
老朽化した空き家は、常に倒壊のリスクと隣り合わせです。とくに、台風や地震などの自然災害時には、屋根や壁が崩れ落ち、隣家を損傷させたり、通行人に怪我を負わせたりする可能性があります。
また、放火や不法侵入、ゴミの不法投棄といった犯罪の温床になりやすいのも事実です。庭の雑草や害虫の発生も、近隣住民とのトラブルに発展しかねません。
空き家を放置するリスクとして、次のような窃盗事件に巻き込まれるケースがあります。
空き家の窃盗被害が増加…外国人グループ「家の前に草が生えているか」、地図アプリで探すケースも
地方の空き家の金品を狙った窃盗事件が増えている。特に東北や中部、九州の一部で被害が顕著で、全国の昨年の被害総額は11億円を超えた。前年から3億円以上も増加しており、警察当局は防犯対策の徹底を呼びかけている。
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「家の前に草が生えているかなどを見て、空き家を探し、アクセサリーなどお金になるものを盗んだ」。空き家への盗みを繰り返したとして、窃盗罪で実刑判決を受けたベトナム国籍の男らは昨年、山形地裁米沢支部の公判でそう語った。
検察側は、男らがスマートフォンの地図アプリで空き家がありそうな場所を探し、家の周辺を見たり、電気や水道が使われているか確認したりしていたと指摘。盗品は中古品販売店に売って処分するなどしていたと明らかにした。男の一人は、調べに対し、「空き家なら捕まるリスクが低いと思った」と供述したという。
(本文・画像引用:空き家の窃盗被害が増加…外国人グループ「家の前に草が生えているか」、地図アプリで探すケースも|読売新聞オンライン)
空き家はもはやあなただけの問題ではなく、地域社会全体の安全を脅かす存在になりつつあります。
【最重要】リスク2:2023年法改正で放置リスク激増!「管理不全空家」とは?
放置された空き家が、著しく保安上危険または衛生上有害であると行政に判断された場合、これまでは「特定空き家」に指定されていました。しかし、そのリスクが近年、大幅に高まっています。
2023年12月に施行された改正空家法(空家等対策の推進に関する特別措置法)により、これまでの倒壊寸前の「特定空き家」に加え、その手前の段階である「管理不全空家」が新設されました。
重要なのは、窓ガラスが割れていたり、雑草が繁茂していたりするだけで「管理不全空家」と見なされ、行政から「勧告」を受けた時点で、固定資産税の優遇が解除されるようになった点です。倒壊の危険がなくても、少しの管理不足で税金が急増する可能性があるのです。
さらに、命令にも違反した場合は50万円以下の過料が科され、最終的には行政代執行、つまり強制的に解体されその費用が所有者に請求されます。「いつかやろう」が、取り返しのつかない事態を招きます。
【初田理事に聞いた】法改正後、空き家所有者からの相談はどう変わりましたか?
稲垣:法改正で「管理不全空家」が新設され、自治体の指導が強化されたとのことですが、それによって現場レベルでお客様からのご相談内容に何か変化はありましたか?
理事 初田秀一はい、明らかに変わりましたね。以前は「そろそろ考えないと…」という漠然としたご相談が多かったのですが、改正後は自治体から具体的な通知が届いたことをきっかけに、「すぐに行動したい」「補助金はあるか」といった、切実なご相談が年々増加しています。
【実録】「所有者の氏名を公表する」京都市から届いた厳しい警告書
稲垣:「自治体からの通知」というお話が出ましたが、実際にこれまでで最も厳しいと感じた通知は、どのような内容だったのでしょうか?これから空き家を放置してしまうとどうなるのか、読者の皆様への注意喚起として、具体的な事例を教えてください。
理事 初田秀一はい。以前ご相談があった、京都市の東さん(仮名)のケースは、私も初めて見るほど厳しい「警告書」でした。その内容は、主に以下の通りです。
- 厳しいペナルティ:「期日までに対策を講じなければ、空き家の所有者の氏名を京都市の公式サイトに公表する」「来年からは特定空き家として認定し、固定資産税の住宅用地特例を解除する」
- 短い対応期間:通知の到着から対策の期限までが2ヶ月間
この警告書が届いたのが7/1で対策の期日が9/1と非常に短かったため、東さんは「家の建て替えを予定しているため、期日は待ってほしい」と自治体に伝えても、聞き入れてもらえなかったとのことです。その結果、家の建て替えをするまでの応急措置として、空き家を養生シートで囲い、景観に配慮することで市の理解を求めることになりました。
稲垣:氏名の公表まで…!それはかなり厳しいですね。そういった「警告書」レベルの通知が届くのは、一般的なことなのでしょうか?



理事 初田秀一いえ、このレベルの厳しい指導は、私も初めて見ました。一般的には、「空き家を適切に管理してください」との注意や指導の案内です。
自治体からの通知には「注意」「指導」「勧告」「警告」といった4つの段階があり、「警告」は措置命令の一歩手前の最終通告にあたります。京都市はとくに景観に厳しい傾向にあります。
「警告」の通知が届くと、「空き家所有者の名前を自治体の公式サイトにて公表」「空き家対策の期日が2ヶ月間」といった厳しいペナルティが付く可能性があるため、速やかに空き家を対処しましょう。
リスク3:資産価値の低下と将来の売却・活用機会の損失
空き家は、時間が経てば経つほど劣化が進み、その資産価値はどんどん下がっていきます。いざ売却しようと思っても、建物がボロボロでは買い手がつかず、結局解体せざるを得なくなるケースがほとんどです。
その頃には、建物の損傷が激しく、解体費用が当初より高額になっているかもしれません。また、更地にしておけば駐車場として貸し出すなど、すぐに活用できたはずの機会も失ってしまいます。
放置は、百害あって一利なし。管理の手間とコスト、そしてリスクだけが増え続ける「負の資産」を抱え続けることになるのです。
【8つのステップ】空き家解体の流れを解説!はじめてでも安心の完全ガイド

空き家の解体は、やるべきことを順番に進めていけば、決して難しいものではありません。
ここでは、相談から工事完了までの全手順を8つのステップに分けて、解説します。この流れを把握しておけば、はじめての方でも迷うことなく、スムーズに計画を進めることができるでしょう。
ステップ1:まずは専門家へ無料相談・現地調査依頼
ステップ2:複数社から見積もり取得と比較検討
ステップ3:工事請負契約と各種届出
ステップ4:近隣住民への挨拶回り
ステップ5:インフラ解約と残置物撤去
ステップ6:解体工事の開始
ステップ7:工事完了と廃棄物の適正処理確認
ステップ8:建物滅失登記の申請(期限は1ヶ月以内)
ステップ1:まずは専門家へ無料相談・現地調査依頼
まずは、解体業者や、当協会のような専門機関に相談することから始めましょう。建物の状況や立地、ご自身の要望を伝えることで、より具体的なアドバイスがもらえます。そして、正確な見積もりを出してもらうために、必ず現地調査を依頼してください。写真や図面だけでは分からない建物の状態や、周辺環境を確認してもらうことが、トラブルを防ぐ上で非常に重要です。
ステップ2:複数社から見積もり取得と比較検討
ステップ1で依頼した複数の業者から、見積書を取り寄せます。ここでのポイントは、金額の安さだけで決めないこと。見積書の項目が詳細か、追加費用の可能性について丁寧な説明があるか、担当者の対応は誠実か、といった点を総合的に比較検討しましょう。この段階で、信頼できる業者かどうかがある程度見えてくるはずです。
ステップ3:工事請負契約と各種届出
依頼する業者が決まったら、工事請負契約を結びます。契約書の内容は隅々まで確認し、少しでも疑問があれば必ず質問してください。契約後、通常は業者が代行して「建設リサイクル法」に基づく届出などを役所に行います。この届出は、工事開始の7日前までに提出する必要があることを覚えておきましょう。
「建設リサイクル法」に基づく届出などに関しては、次の記事で詳しく解説しています。

ステップ4:近隣住民への挨拶回り
解体工事でもっとも気をつけたいのが、近隣トラブルです。工事中は騒音や振動、ホコリの飛散などで、どうしてもご近所に迷惑をかけてしまいます。工事開始の1週間〜10日前までには、業者と一緒に挨拶回りを行い、工事の概要や期間、連絡先を伝えて理解を得ることが、トラブル防止の鍵となります。「しっかりした業者さんにお願いしたんだな」という安心感を持ってもらうことが大切です。
ステップ5:インフラ解約と残置物撤去
工事開始前に、電気、ガス、水道、電話、インターネット回線などの停止手続きをご自身で行う必要があります。ただし、工事中に水道や電気を使用する場合があるので、解約のタイミングは必ず業者と相談してください。また、前述の通り、室内に残された家財道具(残置物)は、可能な限りご自身で処分しておくと費用を節約できます。
ステップ6:解体工事の開始
いよいよ解体工事が始まります。工事中は、足場の設置、防音・防塵シートでの養生が徹底されているかを確認しましょう。優良な業者であれば、安全管理はもちろん、近隣への配慮も怠りません。工事期間は、一般的な木造30坪の家屋で1週間から2週間程度が目安です。
ステップ7:工事完了と廃棄物の適正処理確認
建物が解体され、土地が整地されたら工事は完了です。しかし、ここで安心してはいけません。解体で出た木材やコンクリートガラなどの廃棄物が、適正に処理されたかを確認することが非常に重要になります。業者から「マニフェスト」と呼ばれる産業廃棄物管理票の写しを受け取り、不法投棄されていないかしっかり確認してください。これが、あなたの社会的責任を果たすことにも繋がります。
ステップ8:建物滅失登記の申請(期限は1ヶ月以内)
建物がなくなったことを法務局に届け出る「建物滅失登記」を申請します。
滅失登記を怠るリスク
この手続きは、建物の所有者に課せられた義務であり、解体後1ヶ月以内に行わなければなりません。もしこの登記を怠った場合、10万円以下の過料(不動産登記法第164条)という罰則以上に、はるかに深刻な事態に陥ります。具体的には、
- その土地を売却できない
- 銀行から融資を受ける際の担保にできない
- 存在しない建物に固定資産税が課され続ける
といった致命的な実害が発生します。資産価値を守るための、絶対に忘れてはならない手続きです。
なお、建物滅失登記は土地家屋調査士に依頼するのが一般的ですが、自分で行うことも可能です。土地家屋調査士に依頼する場合は、「日本土地家屋調査士会連合会」の公式サイトなどをご参照ください。
【初田理事に聞いた】もし滅失登記を忘れていたら、どうなりますか?
稲垣:滅失登記は非常に重要ですが、もし忘れてしまった場合、具体的にどんな不利益があるのでしょうか?特に、土地の売買などに影響は出ますか?
理事 初田秀一売買契約に支障が出ることはありません。なぜなら登記情報が整理されるため、売買契約する前に発覚することが多いからです。ただし、速やかに手続をする必要があります。
稲垣:具体的には、どのような手続きが必要になるのでしょうか?
理事 初田秀一具体的には、滅失登記に必要となる解体業者からの証明書等を後から手配せねばならず、手続きが煩雑になりがちです。もし証明書が入手できない場合は、法務局や行政との手続きが必須となり所有者の負担が増えます。
このように、建物の滅失登記を失念した場合でも、土地の売買契約が中断するような支障はありません。ただし、滅失登記に必要な証明書を解体業者から取り寄せたり、直接法務局や行政での手続きが必要になります。建物の取り壊し後1か月以内に滅失登記を行わない場合、法律上は10万円以下の過料が発生します。
空き家の解体費用を安くする方法【7つのポイント】
正しい知識を持って行動すれば数十万円単位で費用を安く抑えられるケースがあります。ここでは空き家の解体費用を安くするために必要なポイントをピックアップしてお伝えします。
方法1:解体業者の閑散期を狙って依頼する
解体業者の年間スケジュールには閑散期と繁忙期があります。一般的に年末年始や年度末、引っ越しシーズンは(12月~3月)は需要が集中するため、繁忙期とされています。
反対に4月~9月は解体業界の閑散期とされており、この時期に工事を依頼することで日程調整の融通が効きやすく、費用を安くできる可能性が高まります。
方法2:自治体の補助金制度を活用する
主に古くなった建物が周囲や景観に被害を与えるのを防ぐため、各自治体は解体工事を促進するための補助金を設けています。
解体工事を計画する際には、事前に「自分の地域で補助金が支給されているか」を調べておきましょう。ネットで検索する際には、「○○市 空き家 補助金」や「○○市 危険ブロック塀 補助金」など、市町村名を入れて検索すると情報を見つけやすくなります。
- 東京都台東区|「台東区老朽建築物等除却工事費用助成金」(最大支給額50万円)
- 福島県郡山市|「郡山市老朽空家除却費補助金」(最大支給額50万円)
- 大阪府岸和田市|「岸和田市不良空家除却事業補助金」(最大支給額80万円)
- 鹿児島県鹿児島市|「鹿児島市危険空家解体工事補助金」(最大支給額30万円)
方法3:必ず3社以上から相見積もりを取る
見積もり依頼は1社だけでなく、3社以上から相見積もりを取りましょう。複数の見積書を比較することで、ご自身のケースにおける費用の適正相場が分かり、不当に高い業者・安すぎて危険な業者を見抜けます。

方法4:家の中の不用品は自分で処分する
家の中にある家具や家電などをなるべく処分しておくと、解体費用を抑えられます。
これらの不用品をそのまま放置した場合は解体業者が処分を請け負うため、その処分費用が見積もりに上乗せされます。
| ▼不用品の処分方法の例 | ||||
|---|---|---|---|---|
| 具体的な品目 | 費用の目安 | 処分方法 | ||
| 日用品 | 可燃ゴミ、不燃ゴミ、資源ゴミ | 基本的に無料 | 自治体のゴミ回収 | |
| 家電製品 | エアコン、洗濯機、冷蔵庫、テレビ | 基本的に無料(売却で収益発生) | フリマアプリやリサイクルショップ | |
| パソコン | ノート型を含むパソコン本体、液晶ディスプレイ | 基本的に無料 | 家電量販店やメーカーの回収サービス | |
| 粗大ゴミ | タンス、布団、机 | 数百円~/点 | 自治体の粗大ゴミ回収 | |
| ▼不用品の処分方法の例 | ||||
|---|---|---|---|---|
| 具体的な品目 | 費用の目安 | 処分方法 | ||
| 日用品 | 可燃ゴミ、 不燃ゴミ、 資源ゴミ | 基本的に無料 | 自治体のゴミ回収 | |
| 家電製品 | エアコン、 洗濯機、 冷蔵庫、 テレビ | 基本的に無料 (売却で収益発生) | フリマアプリ、 リサイクルショップ | |
| パソコン | 本体、 液晶ディスプレイ | 基本的に無料 | 家電量販店、 メーカーの回収サービス | |
| 粗大ゴミ | タンス、 布団、 机 | 数百円~/点 | 自治体の粗大ゴミ回収 | |
残置物の種類や処分について詳しく解説した記事は以下です。
方法5:庭木や雑草を自分で撤去する
敷地内の庭木や雑草の撤去を業者に依頼した場合、1m3あたり9,899円~の費用がかかります。
大きな樹木を切り倒すのは危険ですが、雑草の除去や高さ3m未満・幹の太さ20cm以下ほどの小さな庭木なら、自身で撤去すれば費用を抑えられます。作業の際は軍手をはじめ、安全対策してから取りかかりましょう。
方法6:必要な届け出を自分で行う
解体工事が完了してから1ヶ月以内に、建物滅失登記を届け出る必要があります。
土地家屋調査士に手続きを代行してもらうことも可能ですが、その場合は5万円程度の費用がかかります。自分で手続きをすればその分の費用を抑えられるため、手続きの方法を確認しておきましょう。

方法7:解体業者に値引き交渉する
解体業者に値引き交渉をするのはマナー違反ではありません。
ただし、複数の解体業者に同時に値引き交渉を行うことは避けましょう。値引き交渉をしたにもかかわらず、最終的に依頼しなかった場合、業者から不誠実と受け取られ、信頼関係を損なう可能性があります。適切な交渉を行うためにも、依頼先を決めたうえで値引き交渉を進めることが重要です。
今回は空き家の建物を解体するにあたって効果的な費用の抑え方をピックアップしてご紹介しました。以下の記事では専門家による詳細な解説を含め、費用を安くするための方法をより網羅的に掲載しています。ぜひご確認ください。

空き家の解体における優良業者の選び方【6つのポイント】

不当な高額請求、ずさんな工事、近隣トラブル、そして不法投棄。こうした最悪の事態を避けるため、「後悔しない解体業者の選び方」を7つのポイントに絞ってお伝えします。
基準1:建設業許可の保有・解体工事業の登録がされていること
解体工事を行うためには、「建設業許可」の保有または「解体工事業の登録」のいずれかが必要です。許可・登録がない状態で解体工事を行うことは違法行為にあたるため、必ずどちらかを保有・登録している業者を選びましょう。
それぞれ取得している場合は、解体業者のホームページに許可番号・登録番号が記載されています。
ホームページを保有していない場合は国土交通省の「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」から検索することで確認できます。
基準2:産業廃棄物収集運搬業許可を保有していること
廃棄物の収集運搬を自社で行える「産業廃棄物収集運搬業許可」を保有していると、業者にとってベストな処分場を選べるため、費用を削減できる可能性があります。
また、「産業廃棄物収集運搬業許可」を取得するためには、会社の経歴や経営状況などの要件をクリアする必要があるため、会社としての信頼感の裏付けになります。
基準3:過去に違反歴がないこと
国土交通省の「ネガティブ情報等検索サイト」や、産業廃棄物処理事業振興財団の「許可取消処分情報」で解体業者名を検索し、過去に違反歴や行政処分歴がないかを確認してください。
処分歴があるからといって必ずしも危険な業者とは限りませんが、安全意識の高さを判断する基準として有効です。
基準4:空き家の解体実績が豊富であること
空き家を解体する場合は、空き家解体の実績が豊富な業者に依頼しましょう。
解体業者はそれぞれに得意分野である工事が存在し、それは過去の工事実績や所有する重機、可能な工法、職人の技術力などによって左右されます。
その得意分野を判断する1つの根拠として、計画する解体工事と同様の工事実績が豊富であるかを確認しておきましょう。
基準5:見積金額、内訳項目それぞれの金額に根拠があること
優良な解体業者は見積書の項目を詳細に記載し、どのような根拠で見積額を算出しているかを明確に提示します。
項目を詳細に分けず「一式」でばかり記載する業者には注意しましょう。
また、不明点や詳細について質問された際にちゃんと答えられる業者は、見積もりに後ろめたいことがない裏付けになります。

基準6:資格を持った従業員が在籍していること
解体工事に活かせる資格を保有している従業員が在籍していると、様々なメリットがあります。とくに解体工事施工技士は、現場の作業員の安全を守る上で大事な資格です。
| 解体工事を行う作業員にとってメリットのある資格 | |
|---|---|
| 解体工事施工技士 | 持っていると500万円以下の解体工事を行うための解体工事業の登録ができ、技術管理者として従事できる国家資格。解体工事の現場作業や監理における知識や技術の裏付けになる資格。 |
| 石綿作業主任者 | アスベストの調査や作業、作業完了確認を行う上で必須の資格。有資格者の在籍がない場合、アスベスト調査や除去は外部への委託が必要となる。 |
| 建築物石綿含有建材調査者 | |
今回は、空き家の建物を解体する業者を選ぶにあたって効果的な判断基準をピックアップしました。以下の記事ではさらに網羅的な業者の選び方を紹介しています。「どうしてそれが優良業者の裏付けになるのか」といった、各基準における専門家の詳細な解説が読めますのでぜひご確認ください。

解体は最終手段?決断前に知りたい空き家の活用法と比較

ここまで解体の重要性をお伝えしてきましたが、解体が唯一の正解とは限りません。あなたの空き家の状態や立地、そしてあなた自身のライフプランによっては、他の選択肢がより良い結果を生むこともあります。
なやみん親が大切にしていた家だから、できれば残したいな……
そんな想いをお持ちの方もいらっしゃるでしょう。後悔のない決断を下すためにも、解体以外の主な活用法についてご紹介します。

- 「古家付き土地」として現状のまま売却する方法
- リフォームして賃貸物件や民泊として活用する方法
- 更地にして駐車場経営や売却を目指す方法
| 活用法 | メリット | デメリット |
| 古家付き土地売却 | 解体費用がかからない | 売れにくい、売却価格が安くなりがち |
| リフォームして賃貸 | 家賃収入、建物を残せる | 高額なリフォーム費用、空室リスク |
| 更地にして活用 | 管理が楽、売却しやすい | 解体費用、固定資産税増額の可能性 |
「古家付き土地」として現状のまま売却する方法
これは、建物を解体せずに、土地と建物をセットで売却する方法です。最大のメリットは、解体費用がかからないこと。買主側でリフォームや解体を行うため、売主の金銭的負担は少なくて済みます。しかし、建物の状態が悪いと買い手が見つかりにくく、売却価格も土地の価格から解体費用分を差し引いた金額になるのが一般的です。築年数が浅く、状態の良い建物であれば有効な選択肢と言えるでしょう。
リフォームして賃貸物件や民泊として活用する方法
思い出の詰まった家を活かしたい場合に考えられるのが、リフォームして収益物件にする方法です。安定した家賃収入が期待でき、建物を維持管理できるメリットがあります。一方で、数百万円単位のリフォーム費用が必要になるほか、入居者が見つからない空室リスクや、賃貸管理の手間も考慮しなければなりません。とくに、観光地など特定の立地でなければ、民泊としての活用は難しいのが実情です。
更地にして駐車場経営や売却を目指す方法
建物を解体し、更地にした後の活用法です。更地は管理が楽で、売却しやすいという大きなメリットがあります。また、立地が良ければ月極駐車場やコインパーキングとして活用し、安定した収益を得ることも可能です。デメリットは、やはり解体費用がかかることと、前述の通り、土地の固定資産税が高くなる可能性がある点です。
これらの選択肢を比較した上で、あなたの状況にとって何が最善なのかを冷静に判断することが重要です。
空き家解体のよくある質問(FAQ)

Q1. 行政から指導書が届いたら、まず何をすべきですか?
まずは冷静になることが第一です。行政からの指導書は、「このまま放置すると、法的な措置を取る可能性がありますよ」という最終警告に近いものです。
最初にやるべきことは、指導書に記載されている内容(何が問題で、いつまでにどうしてほしいのか)を正確に把握し、指定された行政の担当窓口に連絡することです。その上で、「指導に従い、改善に向けて動いています」という意思を明確に伝えましょう。
そして、それと並行して、信頼できる解体業者を探し、見積もりを取る作業を急いでください。誠実に対応する姿勢を見せることが、事態の悪化を防ぐ上でもっとも重要です。
Q2. ご近所への挨拶は、業者任せにしても大丈夫ですか?
業者任せにせず、必ずあなたも一緒に挨拶に回ることを強くオススメします。工事を行うのは業者ですが、その土地の所有者であり、迷惑をかける当事者はあなた自身です。所有者が直接顔を見せて丁寧に説明することで、ご近所の方々の心証は全く違ってきます。
最適なタイミングは、工事開始の1週間〜10日前です。業者が用意したタオルなどの粗品を持って、「ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」と一言添えるだけで、無用なトラブルの多くは回避できるでしょう。

Q3. 家財道具や仏壇はどう処分すれば良いですか?
家財道具は、可能な限りご自身で処分するのが費用を抑えるコツです。自治体の粗大ゴミ回収を利用したり、リサイクルショップや不用品回収業者に依頼したりする方法があります。
とくに注意が必要なのが、仏壇やお位牌です。これらは単なる「モノ」ではありません。処分する前には、必ずお寺や神社に依頼して「閉眼供養」や「お焚き上げ」を行ってもらいましょう。ご先祖様への感謝の気持ちを込めて、然るべき手順を踏むことが大切です。費用は数万円程度かかるのが一般的ですが、これも後悔しないための重要な工程です。
【まとめ】解体工事 空き家を依頼する前の最終チェックリスト

この記事の要点を踏まえ、最後に確認すべき重要事項をまとめました。一つずつチェックし、万全の準備で次の一歩に進みましょう。
- 1.費用の最適化と資金計画の確認
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3社以上から相見積もりを取得し、適正な費用相場を把握します。同時に、自治体の補助金制度の有無を工事契約前に確認し、解体後の固定資産税の変動も納税通知書で試算しておきましょう。
- 2.解体業者の許可と信頼性の確認
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依頼する業者が「建設業許可」または「解体工事業登録」を持つ正規業者かを確認します。追加費用の範囲や近隣対策、工事完了後の「マニフェスト」提出について、契約前に明確な説明を求めましょう。
- 3.法改正リスクの理解と解体後の手続き
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2023年の法改正により、管理が不十分な空き家は「管理不全空家」に指定され、税優遇が解除される可能性があります。解体後は1ヶ月以内に「建物滅失登記」を法務局へ申請することが法律で義務付けられています。


