【専門家が監修】空き家の解体費用相場|プロに直接聞いた3つの鉄則

空き家解体の費用相場と3つの注意点|11万件の相談実績からプロが徹底解説
稲垣 瑞稀

この記事の案内人・編集長

稲垣 瑞稀

解体業界で6年間働く中で感じた『正しい情報が届かない』という課題意識から、全記事の企画・編集に責任を持っています。専門家への直接取材を通じ、業者ではない中立な立場から、分かりやすい情報提供をお約束します。

「親から相続した空き家、解体したいけど一体いくらかかるんだろう…」

空き家の解体を考える誰もが直面する、この大きな不安。その漠然とした不安を「スッキリ」させるため、この記事では11万件以上の相談実績を持つ専門家に、費用に関する読者の疑問を一つひとつぶつけてきました。

この記事は、その直接インタビューで得られた専門家の生の声をもとに、空き家の解体費用相場を分かりやすく伝え、3つの注意点についても解説します。

この記事の制作チーム

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中野 達也監修者

一般社団法人あんしん解体業者認定協会 理事

中野 達也(なかの たつや)

解体工事業の技術管理者であり、解体工事施工技士を保有。2011年に解体業者紹介センターを鈴木佑一と共に創設。2013年に一般社団法人あんしん解体業者認定協会を設立し、理事に就任。めざまし8(フジテレビ系列)/ひるおび(TBS系列)/ 情報ライブ ミヤネ屋(日本テレビ系列)/バイキングMORE(フジテレビ系列)など各種メディアに出演。

初田 秀一現場解説

一般社団法人あんしん解体業者認定協会 理事・解体アドバイザー

初田 秀一(はつだ しゅういち)

解体アドバイザー歴15年、相談実績は11万件以上。お客様の不安を笑顔に変える現場のプロフェッショナル。「どんな些細なことでも構いません」をモットーに、一期一会の精神でお客様一人ひとりと向き合い、契約から工事完了まで心から安心できる業者選定をサポート。この記事では現場のリアルな視点から解説を担当。

稲垣 瑞稀運営責任者

「スッキリ解体」編集長

稲垣 瑞稀(いながき みづき)

解体業界専門のWebメディアでWebディレクターとして6年以上、企画・執筆・編集から500社以上の解体業者取材まで、メディア運営のあらゆる工程を経験。正しい情報が届かず困っている方を助けたいという想いから、一個人の責任と情熱で「スッキリ解体」を立ち上げ、全記事の編集に責任を持つ。

酒巻 久未子執筆

「スッキリ解体」専属ライター

酒巻 久未子(さかまき くみこ)

「解体工事でお悩みの方に、同じ主婦の立場から実用的な情報をお届けします。」

数多くのお客様や業者様へのインタビューを通じて、お客様が抱えるリアルな悩みに精通。実際の解体工事現場での取材を重ね、特に「お金」や「近隣トラブル」といった、誰もが不安に思うテーマについて、心に寄り添う記事を執筆。子育て中の母親ならではの、きめ細やかな視点も大切にしている。

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目次

【構造別】あなたの空き家の解体費用をシミュレーション

まず、ご自身の空き家の費用相場を大まかに掴むことが重要です。解体費用は主に建物の構造によって異なり、坪単価で計算されるのが一般的です。

以下に、構造別の費用相場をまとめました。

建物の構造坪単価の目安費用相場
木造3万4,090円90万円~250万円
鉄骨造4万9,102円220万円~380万円
鉄筋コンクリート造(RC造)5万9,169円270万円~420万円

たとえば、日本でもっとも一般的な規模の木造家屋であれば、90万円から250万円程度が一つの目安となります。

もちろん、これはあくまで基本的な建物の解体費用です。立地条件や後述する付帯工事の有無によって金額は変動しますが、まずはこの相場感を頭に入れておきましょう。家の解体費用相場の詳細については、次の記事でご紹介しています。

見積書で確認!解体費用の内訳と追加費用の具体例

業者から見積もりを取った際に、その内容を正しく理解できなければ不当な請求を見抜けません。「見積もりの見方がよくわからない……」という方もご安心ください。

解体費用の内訳は、大きく分けて以下の3つで構成されています。

  • 本体工事費:建物そのものを取り壊すための費用です。足場の設置や養生シートなどもここに含まれます。
  • 付帯工事費:建物以外のものを撤去する費用です。ブロック塀、カーポート、庭石、庭木などの撤去が該当します。
  • 諸経費:工事車両の駐車料金や、官公庁への書類申請費用、近隣への挨拶回りの費用などです。
見積もりの項目が「一式」表記の場合

見積書の中で「一式」という表記が多用されている場合は危険信号のサインです。何にいくらかかるのかが不明瞭なため、後から高額な追加費用を請求されるトラブルに繋がるかもしれません。

とくに、以下の項目は追加費用が発生しやすいです。

  • 地中埋設物(過去の建物の基礎、浄化槽など)の撤去費用
  • アスベスト(石綿)の除去費用
  • 家の中に残された家財道具(残置物)の処分費用

これらの費用が含まれているか、別途発生する可能性があるかを契約前に業者へ確認しましょう。

※クリックで詳細が読めます

100万円以上損することも?費用を安く抑える3つの鉄則

解体費用は、やり方次第で大きく変わります。正しい知識を持って行動すれば、費用を数十万円単位で安くすることは十分に可能です。

後悔しないために、絶対に押さえてほしい「3つの鉄則」をご紹介します。

  1. 必ず3社以上から相見積もりを取る
    これがもっとも重要です。1社だけの見積もりでは、その金額が適正か判断できません。複数の業者を比較することで、地域の相場感が分かり、不当に高い業者を見抜けます。
  2. 自治体の補助金・助成金制度をフル活用する
    多くの自治体で、老朽化した空き家の解体に対する補助金制度が用意されています。数十万円の補助が受けられるケースも珍しくありません。工事契約前に申請が必要な場合がほとんどなので、必ず事前に確認しましょう。
  3. 家財道具(残置物)は自分で処分する
    室内に残された家具や家電の処分を業者に依頼すると、産業廃棄物扱いとなり高額な処分費用がかかります。手間はかかりますが、事前に自分で処分しておくだけで、数万円から十数万円の節約に繋がります。

とくに、新築への建て替えでハウスメーカーに解体を任せきりにするのは避けてください。多くの場合、下請け業者に丸投げされることで中間マージンが発生し、あなたが数十万円も余計に支払う可能性があります。「自分の身は自分で守る」の意識が、後悔しない解体工事の第一歩です。

空き家解体後の固定資産税と使える補助金制度

空き家の解体で、費用と同じくらい、いや、それ以上に注意しなければならないのが「税金」の問題です。知らずに進めてしまうと、翌年から固定資産税が何倍にも跳ね上がるという話を聞き、不安に思われるかもしれませんが、これには正確な理解が必要です。

ここでは、あなたが後悔しないために、絶対に知っておくべき税金と補助金の知識について、詳しく解説します。

固定資産税が「最大6倍」は誤解!本当の仕組みを解説

「家を解体して更地にすれば、固定資産税は安くなるはず」という期待とは裏腹に、「解体すると固定資産税が最大6倍になる」という情報を目にし、不安に思われるのも無理はありません。

しかし、この「最大6倍」という情報は、不安を煽るだけで必ずしも正確ではありません。正しくは、固定資産税は「①建物分(解体でゼロになる)」「②土地分(特例が外れて上がる)」の合計額で決まります。

したがって、最終的な税額は増えることもあれば、土地の評価額が低く、老朽化していても建物の価値が高く評価されていた物件などでは、逆に総額が下がるケースがあります。

まずはご自身の納税通知書で「土地」と「建物」それぞれの評価額を確認することから進めましょう。

スクロールできます
解体後の固定資産税変動
ケース状況解体前の税額(例)解体後の税額(例)差額
A:税額が上がる都心部で土地の評価額が高い土地5万円+建物5万円=10万円土地30万円+建物0円=30万円+20万円
B:税額が下がる地方で土地の評価額が低い土地1万円+建物8万円=9万円土地6万円+建物0円=6万円-3万円

【初田理事に聞いた】納税通知書のどこを見れば、解体後の税額を予測できる?

稲垣:固定資産税の話は、読者の関心も非常に高いです。ここからは、現場と顧客対応のプロである初田理事にお話をうかがいます。

初田 秀一 現場解説

一般社団法人あんしん解体業者認定協会 理事・解体アドバイザー

初田 秀一 (はつだ しゅういち)

解体アドバイザー歴15年、相談実績は11万件以上。お客様の不安を笑顔に変える現場のプロフェッショナル。「どんな些細なことでも構いません」をモットーに、一期一会の精神でお客様一人ひとりと向き合い、契約から工事完了まで心から安心できる業者選定をサポート。この記事では現場のリアルな視点から解説を担当。

稲垣:「解体後の税金がいくらになるか、自分で簡単に見当をつけたい」という声が非常に多いです。何か良い方法はありますか?

理事 初田秀一

納税通知書の「減免税額」またはそれに類する項目をご確認ください。この金額が、主に「住宅用地の特例」によって減額されている額に相当します。

納税通知書の読み方を教える初田さん

稲垣:「減免税額」の確認後、税額の計算方法を教えてください。

理事 初田秀一

まず納税額は、「①建物の固定資産税」と「②住宅用地の特例により減額された土地の固定資産税」の合計額です。
建物を解体した場合、「①建物の固定資産税」は翌年度から課税されなくなります。

理事 初田秀一

しかし同時に、土地に対する「住宅用地の特例」の適用もなくなるため、減額されていた土地の税額が本来の額に戻ります。結果として土地の税額が上がり、納税総額も増えることが一般的です。

解体後の税額の概算方法現在の「土地の固定資産税額」+「減免税額」

この計算により、解体後の土地にかかるおおよその税額を把握できます。あくまで概算となりますので、正確な税額については管轄の市区町村役場の資産税課へお問い合わせください。

活用必須!国や自治体の解体費用補助金・助成金とは

高額な解体費用や税金の話で、少し不安にさせてしまったかもしれません。しかし、ご安心ください。あなたの負担を軽減してくれる、心強い味方がいます。それが、国や自治体が設けている「解体費用補助金・助成金制度」です。

これは、倒壊の危険性があるなど、特定の条件を満たす空き家の解体を促進するために、費用の一部を補助してくれる制度になります。補助額は自治体によってさまざまですが、費用の2分の1、上限50万円といったケースが多く、条件によっては100万円以上の補助が受けられることも。

解体補助金の対象条件
  • 一定期間以上、誰も住んでいない空き家であること
  • 自治体による老朽度の診断で「危険」と判断された建物であること
  • 税金の滞納がないこと

自治体ごとの補助金制度の探し方と申請方法

補助金制度の検索方法は、「(市区町村名) 空き家 解体 補助金」とインターネットで検索すれば、お住まいの自治体の情報を見つけられます。

注意点として、補助金の申請は解体工事の契約前に行う必要があるのが一般的です。また、年度ごとに予算が決まっているため、申請期間が限られている場合や、申し込みが多数の場合は抽選になることもあります。

解体を検討し始めたら、まずは自治体の担当窓口(都市計画課や建築指導課など)に問い合わせて、制度の有無や条件、申請スケジュールを確認することをオススメします。

その空き家、放置は危険!解体しない場合の3大リスク

「解体費用もかかるし、もう少しこのままにしておこうかな……」相続した実家など、思い入れのある家であれば、そう考えてしまうお気持ちもよく分かります。

しかし、空き家を放置し続けることには、あなたが考えている以上の大きなリスクが潜んでいるのです。問題を先延ばしにすることで、かえって金銭的・精神的な負担が増大するケースを、私たちは現場で数多く見てきました。

ここでは、解体しない場合の「3大リスク」についてご紹介します。

リスク1:倒壊・火災・犯罪誘発など近隣への迷惑

老朽化した空き家は、常に倒壊のリスクと隣り合わせです。とくに、台風や地震などの自然災害時には、屋根や壁が崩れ落ち、隣家を損傷させたり、通行人に怪我を負わせたりする可能性があります。

また、放火や不法侵入、ゴミの不法投棄といった犯罪の温床になりやすいのも事実です。庭の雑草や害虫の発生も、近隣住民とのトラブルに発展しかねません。

空き家を放置するリスクとして、次のような窃盗事件に巻き込まれるケースがあります。

空き家の窃盗被害が増加…外国人グループ「家の前に草が生えているか」、地図アプリで探すケースも

地方の空き家の金品を狙った窃盗事件が増えている。特に東北や中部、九州の一部で被害が顕著で、全国の昨年の被害総額は11億円を超えた。前年から3億円以上も増加しており、警察当局は防犯対策の徹底を呼びかけている。

(本文・画像引用:空き家の窃盗被害が増加…外国人グループ「家の前に草が生えているか」、地図アプリで探すケースも|読売新聞オンライン

空き家はもはやあなただけの問題ではなく、地域社会全体の安全を脅かす存在になりつつあります。

【最重要】リスク2:2023年法改正で放置リスク激増!「管理不全空家」とは?

放置された空き家が、著しく保安上危険または衛生上有害であると行政に判断された場合、これまでは「特定空き家」に指定されていました。しかし、そのリスクが近年、大幅に高まっています。

2023年12月に施行された改正空家法(空家等対策の推進に関する特別措置法)により、これまでの倒壊寸前の「特定空き家」に加え、その手前の段階である「管理不全空家」が新設されました。

重要なのは、窓ガラスが割れていたり、雑草が繁茂していたりするだけで「管理不全空家」と見なされ、行政から「勧告」を受けた時点で、固定資産税の優遇が解除されるようになった点です。倒壊の危険がなくても、少しの管理不足で税金が急増する可能性があるのです。

さらに、命令にも違反した場合は50万円以下の過料が科され、最終的には行政代執行、つまり強制的に解体されその費用が所有者に請求されます。「いつかやろう」が、取り返しのつかない事態を招きます。

【初田理事に聞いた】法改正後の空き家相談での変化とは?

稲垣:法改正で「管理不全空家」が新設されましたが、これによって実際の相談内容に何か変化はありましたか?

理事 初田秀一

空き家対策特別措置法の改正後、自治体による空き家の管理や指導が強化されました。それをきっかけとした空き家の所有者からの相談が年々増加しています。

稲垣:「役所から空き家についての通知が届いた」といった事例は、法改正以前にもありましたか?

理事 初田秀一

ほとんどありませんでした。しかし改正後は自治体からの通知をきっかけに、「空き家を解体をしたい」「家の解体工事に利用できる補助金制度はあるか」と具体的な行動を検討される方が増えた傾向にあります。

このように、法改正後は自治体による空き家の管理や指導が強化されたことにより、空き家所有者の「空き家を解体しよう」との意識が高まるようになりました。

【初田理事に聞いた】自治体から厳しい「警告書」が届いた実例とは?

稲垣:実際に自治体からの通知がきっかけで相談に来られた方で、何か印象的な事例はありますか?

理事 初田秀一

はい。以前ご相談があった、京都市の東さん(仮名)のケースは非常に厳しいものでした。 「管理不全空家」として対策を求める警告書が届いたのです。その内容は、主に以下の通りです。

  • 厳しいペナルティ:「期日までに対策を講じなければ、空き家の所有者の氏名を京都市の公式サイトに公表する」「来年からは特定空き家として認定し、固定資産税の住宅用地特例を解除する
  • 短い対応期間:通知の到着から対策の期限までが2ヶ月間

この警告書が届いたのが7/1で対策の期日が9/1と非常に短かったため、東さんは「家の建て替えを予定しているため、期日は待ってほしい」と自治体に伝えても、聞き入れてもらえなかったとのことです。その結果、家の建て替えをするまでの応急措置として、空き家を養生シートで囲い、景観に配慮することで市の理解を求めることになりました。

稲垣:氏名の公表まで…!それはかなり厳しいですね。そういった「警告書」レベルの通知が届くのは、一般的なことなのでしょうか?

理事 初田秀一

いえ、このレベルの厳しい指導は、私も初めて見ました。一般的には、「空き家を適切に管理してください」との注意や指導の案内です。

自治体からの通知には「注意」「指導」「勧告」「警告」といった4つの段階があり、「警告」は措置命令の一歩手前の最終通告にあたります。京都市はとくに景観に厳しい傾向にあります。

「警告」の通知が届くと、「空き家所有者の名前を自治体の公式サイトにて公表」「空き家対策の期日が2ヶ月間」といった厳しいペナルティが付く可能性があるため、速やかに空き家を対処しましょう。

リスク3:資産価値の低下と将来の売却・活用機会の損失

空き家は、時間が経てば経つほど劣化が進み、その資産価値はどんどん下がっていきます。いざ売却しようと思っても、建物がボロボロでは買い手がつかず、結局解体せざるを得なくなるケースがほとんどです。

その頃には、建物の損傷が激しく、解体費用が当初より高額になっているかもしれません。また、更地にしておけば駐車場として貸し出すなど、すぐに活用できたはずの機会も失ってしまいます。

放置は、百害あって一利なし。管理の手間とコスト、そしてリスクだけが増え続ける「負の資産」を抱え続けることになるのです。

【8つのステップ】空き家解体の流れを解説!はじめてでも安心の完全ガイド

空き家の解体は、やるべきことを順番に進めていけば、決して難しいものではありません。

ここでは、相談から工事完了までの全手順を8つのステップに分けて、解説します。この流れを把握しておけば、はじめての方でも迷うことなく、スムーズに計画を進めることができるでしょう。

【8ステップ】空き家解体の流れ

ステップ1:まずは専門家へ無料相談・現地調査依頼
ステップ2:複数社から見積もり取得と比較検討
ステップ3:工事請負契約と各種届出
ステップ4:近隣住民への挨拶回り
ステップ5:インフラ解約と残置物撤去
ステップ6:解体工事の開始
ステップ7:工事完了と廃棄物の適正処理確認
ステップ8:建物滅失登記の申請(期限は1ヶ月以内)

ステップ1:まずは専門家へ無料相談・現地調査依頼

まずは、解体業者や、当協会のような専門機関に相談することから始めましょう。建物の状況や立地、ご自身の要望を伝えることで、より具体的なアドバイスがもらえます。そして、正確な見積もりを出してもらうために、必ず現地調査を依頼してください。写真や図面だけでは分からない建物の状態や、周辺環境を確認してもらうことが、トラブルを防ぐ上で非常に重要です。

ステップ2:複数社から見積もり取得と比較検討

ステップ1で依頼した複数の業者から、見積書を取り寄せます。ここでのポイントは、金額の安さだけで決めないこと。見積書の項目が詳細か、追加費用の可能性について丁寧な説明があるか、担当者の対応は誠実か、といった点を総合的に比較検討しましょう。この段階で、信頼できる業者かどうかがある程度見えてくるはずです。

ステップ3:工事請負契約と各種届出

依頼する業者が決まったら、工事請負契約を結びます。契約書の内容は隅々まで確認し、少しでも疑問があれば必ず質問してください。契約後、通常は業者が代行して「建設リサイクル法」に基づく届出などを役所に行います。この届出は、工事開始の7日前までに提出する必要があることを覚えておきましょう。

「建設リサイクル法」に基づく届出などに関しては、次の記事で詳しく解説しています。

ステップ4:近隣住民への挨拶回り

解体工事でもっとも気をつけたいのが、近隣トラブルです。工事中は騒音や振動、ホコリの飛散などで、どうしてもご近所に迷惑をかけてしまいます。工事開始の1週間〜10日前までには、業者と一緒に挨拶回りを行い、工事の概要や期間、連絡先を伝えて理解を得ることが、トラブル防止の鍵となります。「しっかりした業者さんにお願いしたんだな」という安心感を持ってもらうことが大切です。

ステップ5:インフラ解約と残置物撤去

工事開始前に、電気、ガス、水道、電話、インターネット回線などの停止手続きをご自身で行う必要があります。ただし、工事中に水道や電気を使用する場合があるので、解約のタイミングは必ず業者と相談してください。また、前述の通り、室内に残された家財道具(残置物)は、可能な限りご自身で処分しておくと費用を節約できます。

ステップ6:解体工事の開始

いよいよ解体工事が始まります。工事中は、足場の設置、防音・防塵シートでの養生が徹底されているかを確認しましょう。優良な業者であれば、安全管理はもちろん、近隣への配慮も怠りません。工事期間は、一般的な木造30坪の家屋で1週間から2週間程度が目安です。

ステップ7:工事完了と廃棄物の適正処理確認

建物が解体され、土地が整地されたら工事は完了です。しかし、ここで安心してはいけません。解体で出た木材やコンクリートガラなどの廃棄物が、適正に処理されたかを確認することが非常に重要になります。業者から「マニフェスト」と呼ばれる産業廃棄物管理票の写しを受け取り、不法投棄されていないかしっかり確認してください。これが、あなたの社会的責任を果たすことにも繋がります。

ステップ8:建物滅失登記の申請(期限は1ヶ月以内)

建物がなくなったことを法務局に届け出る「建物滅失登記」を申請します。

滅失登記を怠るリスク

この手続きは、建物の所有者に課せられた義務であり、解体後1ヶ月以内に行わなければなりません。もしこの登記を怠った場合、10万円以下の過料(不動産登記法第164条)という罰則以上に、はるかに深刻な事態に陥ります。具体的には、

  1. その土地を売却できない
  2. 銀行から融資を受ける際の担保にできない
  3. 存在しない建物に固定資産税が課され続ける

といった致命的な実害が発生します。資産価値を守るための、絶対に忘れてはならない手続きです。

なお、建物滅失登記は土地家屋調査士に依頼するのが一般的ですが、自分で行うことも可能です。土地家屋調査士に依頼する場合は、「日本土地家屋調査士会連合会」の公式サイトなどをご参照ください。

【初田理事に聞いた】もし滅失登記を忘れていたら、どうなりますか?

稲垣:滅失登記は非常に重要ですが、もし忘れてしまった場合、具体的にどんな不利益があるのでしょうか?特に、土地の売買などに影響は出ますか?

理事 初田秀一

売買契約に支障が出ることはありません。なぜなら登記情報が整理されるため、売買契約する前に発覚することが多いからです。ただし、速やかに手続をする必要があります。

稲垣:具体的には、どのような手続きが必要になるのでしょうか?

理事 初田秀一

具体的には、滅失登記に必要となる解体業者からの証明書等を後から手配せねばならず、手続きが煩雑になりがちです。もし証明書が入手できない場合は、法務局や行政との手続きが必須となり所有者の負担が増えます。

このように、建物の滅失登記を失念した場合でも、土地の売買契約が中断するような支障はありません。ただし、滅失登記に必要な証明書を解体業者から取り寄せたり、直接法務局や行政での手続きが必要になります。建物の取り壊し後1か月以内に滅失登記を行わない場合、法律上は10万円以下の過料が発生します。

プロが教える後悔しない解体業者の選び方

優良業者の見極め方

長年この解体業界に携わる立場から強くお伝えしたいのは、「業者選びの成否が、解体工事のすべてを決める」ということです。残念ながら、この業界にはお客様の知識不足につけ込む悪質な業者も存在します。

不当な高額請求、ずさんな工事、近隣トラブル、そして不法投棄。こうした最悪の事態を避けるため、「後悔しない解体業者の選び方」を6つのポイントに絞ってお伝えします。

後悔しない解体業者の選び方6選
  • 必ず3社以上から相見積もりを取る
  • 「解体工事業許可」を持つ正規の業者か確認する
  • 許可番号だけでは分からない解体業者の見極め方
  • 近隣トラブルへの配慮と具体的な対策を説明できるか
  • 不当な追加費用を防ぐ見積書のチェックポイント
  • マニフェストで不法投棄のリスクを回避する

必ず3社以上から相見積もりを取る

これは費用の項目でもお伝えしましたが、業者選びにおいても絶対の鉄則です。複数の業者と直接会って話を聞くことで、金額だけでなく、担当者の人柄や専門知識、対応の丁寧さなどを比較できます。「面倒くさい」と感じるかもしれませんが、このひと手間を惜しむと、あとで何倍もの手間と後悔を背負うことになりかねません。見積もりの内容に真摯に答えてくれるか、あなたの不安に寄り添ってくれるか。そうした人間性の部分も、重要な判断基準となります。

「解体工事業許可」を持つ正規の業者か確認する

信じられないかもしれませんが、許可を持たずに営業している違法業者が存在します。業者の信頼性を見抜くため、工事金額で変わる2つの資格の違いを必ず理解してください。

  • 解体工事業登録:税込み500万円未満の工事に必要。
  • 建設業許可(解体工事業):税込み500万円以上の工事に必要。

一般的に「建設業許可」は経営状況などの要件が厳しく、より信頼性が高いと言えます。見積もりが500万円に近い場合はとくに注意し、適切な資格を持つ業者か確認しましょう。

許可の有無は、見積もり依頼時に確認するほか、次の国土交通省の「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」でも確認できます。

許可証の提示を渋るような業者は、その時点で論外です。

解体業者の資格早わかり表
資格の種類工事金額信頼性の目安備考
建設業許可税込み500万円以上★★★経営状況など要件が厳しい
解体工事業登録税込み500万円未満★★☆比較的取得しやすい
無許可☆☆☆論外(違法業者)

【初田理事に聞いた】許可情報だけでは分からない解体業者の見極め方とは?

稲垣:解体業者は、建設業許可さえあれば絶対に安心だと言えるのでしょうか。

理事 初田秀一

解体業者を選ぶ際、「建設業許可」の有無は重要な指標ですが、許可があるからといって必ずしも安心とは限りません。許可情報だけでは分からない、業者をより深く見極めるための実務的なポイントが4つあります。

1.会社の代表者名を確認する

過去に行政処分を受けた等の理由で、代表者の名義を身内である奥様に変更して事業を継続しているケースがあります。もちろん優れた女性経営者の会社の場合もありますが、念のため代表者名で過去の処分履歴などを調べてみるのも有効です。

2.会社の事務体制を確認する

優良業者を見分ける大切なポイントとして、「専任の事務担当者がいるか」という点が挙げられます。

社長が現場から事務まですべてを一人で担っている場合、多忙により連絡がつきにくかったり、工事後の滅失登記に必要な「建物取毀証明書」の発行が遅れたりといった事務的なトラブルにつながる可能性があります。会社の窓口となる担当者がいれば、円滑なコミュニケーションが期待でき、安心して依頼できる要素となります。

3.施工体制について確認する

可能であれば、事前に以下の点も確認しましょう。

  • 工事の施工体制: 実際の工事を自社で直接行うのか、下請け業者に依頼するのか。
  • 現場での意思疎通: 現場の作業員が外国籍の方である場合、日本語でのコミュニケーションが円滑に取れるか。

4.口コミや事例を確認する

口コミは参考になりますが、それだけをベースに判断するのは失敗するかもしれません。誹謗中傷なのか、事実としてありそうなのかご自身で判断する必要があります。またサイトで特に注目するべき点は、実績や施工事例です。たとえば公共工事などの土木工事しか載っていないと、一般家庭の家屋解体をお願いしたとしても費用が高い可能性があります。

理事 初田秀一

許可の有無に加え、今回ご紹介したような実務的な視点で業者を確認することが、後悔のない解体業者選びにつながります。

近隣トラブルへの配慮と具体的な対策を説明できるか

解体工事はあなただけの問題ではありません。解体工事に夜騒音やホコリが原因で、ご近所に多大な迷惑をかける可能性があります。優良な業者は、この近隣対策の重要性を深く理解しています。

  • 工事前の挨拶回りはどのように行うか?
  • 騒音や粉塵を抑えるために、どのような養生をするか?
  • 万が一、苦情が出た場合はどのように対応してくれるか?

こうした質問に対して、具体的かつ明確な対策を説明できる業者を選んでください。「大丈夫です、任せてください」といった曖昧な返事しかできない業者は、危険信号です。

不当な追加費用を防ぐ見積書のチェックポイント

悪質な業者がよく使う手口が、契約後に法外な追加費用を請求するケースです。これを防ぐには、見積書の段階で「どこまでが費用に含まれ、何が別途必要なのか」を徹底的に確認する必要があります。

  • 地中埋設物が見つかった場合の対応と費用は?
  • アスベストの調査や除去費用は含まれているか?
  • 残置物の処分費用は、どのくらいの量まで含まれているか?

これらの項目について、書面で明確な取り決めを交わしておくことが、あなた自身を守る最大の武器となります。「たぶん大丈夫だろう」という安易な考えは、絶対に禁物です。

マニフェストで不法投棄のリスクを回避する

解体工事で出た廃棄物は、法律に則って適正に処理されなければなりません。

ここで非常に重要な法律上の決まりがあります。廃棄物処理法では、解体工事で出た廃棄物の処理責任を負う「排出事業者」は、業者ではなく法律上あなた(施主)自身です。解体業者に委託したからといって、責任がゼロになるわけではありません。

つまり、依頼した業者が不法投棄をすれば、あなたが罰せられる可能性があるのです。この重大なリスクを回避する唯一の証明書が「マニフェスト(産業廃棄物管理票)」です。

マニフェストは、廃棄物がいつ、どこで、どのように処理されたかを記録する伝票で、業者は施主に写しを提出する義務があります。契約前に「工事完了後、マニフェストの写しをいただけますか?」と必ず確認し、約束できない業者は絶対に選んではいけません。

優良な解体業者についての詳細は、次の記事でご紹介しています。

解体は最終手段?決断前に知りたい空き家の活用法と比較

解体以外の空き家の活用方法3選

ここまで解体の重要性をお伝えしてきましたが、解体が唯一の正解とは限りません。あなたの空き家の状態や立地、そしてあなた自身のライフプランによっては、他の選択肢がより良い結果を生むこともあります。

なやみん

親が大切にしていた家だから、できれば残したいな……

そんな想いをお持ちの方もいらっしゃるでしょう。後悔のない決断を下すためにも、解体以外の主な活用法についてご紹介します。

空き家の活用方法
  • 「古家付き土地」として現状のまま売却する方法
  • リフォームして賃貸物件や民泊として活用する方法
  • 更地にして駐車場経営や売却を目指す方法
活用法メリットデメリット
古家付き土地売却解体費用がかからない売れにくい、売却価格が安くなりがち
リフォームして賃貸家賃収入、建物を残せる高額なリフォーム費用、空室リスク
更地にして活用管理が楽、売却しやすい解体費用、固定資産税増額の可能性

「古家付き土地」として現状のまま売却する方法

これは、建物を解体せずに、土地と建物をセットで売却する方法です。最大のメリットは、解体費用がかからないこと。買主側でリフォームや解体を行うため、売主の金銭的負担は少なくて済みます。しかし、建物の状態が悪いと買い手が見つかりにくく、売却価格も土地の価格から解体費用分を差し引いた金額になるのが一般的です。築年数が浅く、状態の良い建物であれば有効な選択肢と言えるでしょう。

リフォームして賃貸物件や民泊として活用する方法

思い出の詰まった家を活かしたい場合に考えられるのが、リフォームして収益物件にする方法です。安定した家賃収入が期待でき、建物を維持管理できるメリットがあります。一方で、数百万円単位のリフォーム費用が必要になるほか、入居者が見つからない空室リスクや、賃貸管理の手間も考慮しなければなりません。とくに、観光地など特定の立地でなければ、民泊としての活用は難しいのが実情です。

更地にして駐車場経営や売却を目指す方法

建物を解体し、更地にした後の活用法です。更地は管理が楽で、売却しやすいという大きなメリットがあります。また、立地が良ければ月極駐車場やコインパーキングとして活用し、安定した収益を得ることも可能です。デメリットは、やはり解体費用がかかることと、前述の通り、土地の固定資産税が高くなる可能性がある点です。

これらの選択肢を比較した上で、あなたの状況にとって何が最善なのかを冷静に判断することが重要です。

空き家解体のよくある質問(FAQ)

空き家解体のよくある質問

Q1. 行政から指導書が届いたら、まず何をすべきですか?

まずは冷静になることが第一です。行政からの指導書は、「このまま放置すると、法的な措置を取る可能性がありますよ」という最終警告に近いものです。

最初にやるべきことは、指導書に記載されている内容(何が問題で、いつまでにどうしてほしいのか)を正確に把握し、指定された行政の担当窓口に連絡することです。その上で、「指導に従い、改善に向けて動いています」という意思を明確に伝えましょう。

そして、それと並行して、信頼できる解体業者を探し、見積もりを取る作業を急いでください。誠実に対応する姿勢を見せることが、事態の悪化を防ぐ上でもっとも重要です。

Q2. ご近所への挨拶は、業者任せにしても大丈夫ですか?

業者任せにせず、必ずあなたも一緒に挨拶に回ることを強くオススメします。工事を行うのは業者ですが、その土地の所有者であり、迷惑をかける当事者はあなた自身です。所有者が直接顔を見せて丁寧に説明することで、ご近所の方々の心証は全く違ってきます。

最適なタイミングは、工事開始の1週間〜10日前です。業者が用意したタオルなどの粗品を持って、「ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」と一言添えるだけで、無用なトラブルの多くは回避できるでしょう。

Q3. 家財道具や仏壇はどう処分すれば良いですか?

家財道具は、可能な限りご自身で処分するのが費用を抑えるコツです。自治体の粗大ゴミ回収を利用したり、リサイクルショップや不用品回収業者に依頼したりする方法があります。

とくに注意が必要なのが、仏壇やお位牌です。これらは単なる「モノ」ではありません。処分する前には、必ずお寺や神社に依頼して「閉眼供養」や「お焚き上げ」を行ってもらいましょう。ご先祖様への感謝の気持ちを込めて、然るべき手順を踏むことが大切です。費用は数万円程度かかるのが一般的ですが、これも後悔しないための重要な工程です。

【まとめ】解体工事 空き家を依頼する前の最終チェックリスト

空き家問題をスムーズに対処しよう!

この記事の要点を踏まえ、最後に確認すべき重要事項をまとめました。一つずつチェックし、万全の準備で次の一歩に進みましょう。

1.費用の最適化と資金計画の確認
 3社以上から相見積もりを取得し、適正な費用相場を把握します。同時に、自治体の補助金制度の有無を工事契約前に確認し、解体後の固定資産税の変動も納税通知書で試算しておきましょう。
2.解体業者の許可と信頼性の確認
 依頼する業者が「建設業許可」または「解体工事業登録」を持つ正規業者かを確認します。追加費用の範囲や近隣対策、工事完了後の「マニフェスト」提出について、契約前に明確な説明を求めましょう。
3.法改正リスクの理解と解体後の手続き
 2023年の法改正により、管理が不十分な空き家は「管理不全空家」に指定され、税優遇が解除される可能性があります。解体後は1ヶ月以内に「建物滅失登記」を法務局へ申請することが法律で義務付けられています。

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この記事を書いた人

「解体工事でお悩みの方に、同じ主婦の立場から実用的な情報をお届けします。」

数多くのお客様や業者様へのインタビューを通じて、お客様が抱えるリアルな悩みに精通。実際の解体工事現場での取材を重ね、特に「お金」や「近隣トラブル」といった、誰もが不安に思うテーマについて、心に寄り添う記事を執筆。子育て中の母親ならではの、きめ細やかな視点も大切にしている。

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